第二百四十四話 『成長対成長』
――――レウラ。
翔英が初めて出会った、怪物。
その姿を忘れた日はない。
ミネカ、リュノン、ガロトと初調査に赴いた際、翔英はレウラに遭遇した。
その能力に翻弄され、一方的に殴られるが、ガロトによって助けてもらった。
翔英にとっては、軽いトラウマになっている因縁の相手。
それは――――翔英側の認識。
レウラにとっても翔英は、自身を傷つけた因縁の敵という認識だ。
中々タイミングが来ず会えず仕舞いにいたが、いつの日か必ず報復すると誓っていた。
「……間違いないの。いや、忘れるはずもない。貴様のその顔をのう……」
「レウラ……。……ちっ……」
厄介なのが来てしまった。
二度と会いたくはなかった。
誰かに倒されているのを望んでいた。
……いや、よく考えればかえって好都合か?
こいつが、みんなのところに行って邪魔をするのはまずい。
情報が共有されているかどうかも分からない。
むしろ、その能力を知っている俺がこいつを足止めし、あわよくば倒せれば、十分な成果を出したと言える。
身体がこいつへの恐怖を覚えている。
が、恐怖は乗り越えるためにあるものだ。
――――よし。
ここでレウラをやってやる。
剣を構え、覚悟を決め、戦闘態勢に入る翔英。
そんな翔英をニヤニヤしながら見るレウラ。
「いいぞ。そうではなくてはな。――――じゃが、その前に貴様に言っておくぞ。……これを見よ」
「……?」
レウラは拳を翔英にかざした。
そして今度は、顔から首に掛けての辺りをトントンと指差す。
「この二つの傷。貴様にやられた傷じゃ」
「……!!」
裏拳は少し赤く腫れている。
顔から首には、縫ったような切り傷がある。
確かに、翔英がつけた傷だ。
翔英も思い出す。
顔のやつは、リュノンと協力して思いっきり振り下ろした剣によるもの。
拳の方は、勝手にレウラが剣を殴ったことによりできたものだが、まあ、誰かのせいにするなら翔英のせいにするだろう。
「わらわはこの傷を、あえて完治させることはなかった。何故か分かるか?」
「………………」
「……貴様から受けた痛みを忘れずにいるためじゃ。あの日に受けた屈辱。絶対に返さねば気が済まん」
「………………」
「この恨みは、この世でわらわを最も傷つけた貴様に払うしかない。――――思い知らせてやるぞ。貴様に、わらわの怒りを!!!!」
レウラが飛び込んできた。
ストップを掛けてきた癖に、いきなり飛びかかってくるなんて。
だが、好都合。
こうして構えて向こうから来るのに備えている方が、敵の攻撃に対処しやすい。
密かに反撃の種を植える翔英。
しかし当然、気を付けなければならないこともいくつかある。
まず、こいつの手。
右手は動きを止める。
左手は動きを加速させる。
前の戦いでは、この右手に幾度となく苦しめられた。
今この状況。
右手に触れられたらその時点で「負け」が決まるだろう。
右手には、細心の注意を払わねばなるまい。
そして、もう一つ。
どちらかというとこっちの方が気になるが。
「何故かレウラの腕が『四本』に増えている」
その小さな体躯で、腕だけゴーリキーのようになっている。
普通になんで増えているのか少し気になるが、こいつに質問するのは気が進まない。
そんなことより今は、増えた二本にどんな力が備わっているのかの方が重要だ。
右手と同じ「停止能力」を持っている可能性もある。
迂闊には触れられない。
「やあ……!!」
レウラが上の両手を伸ばしてきた。
少なくとも右は絶対に避けなくては。
「よっ……!!」
「……にぃ!? ……うぬっ!!」
レウラの手が触れる前にすれ違いざまに掌を刻み、直ぐ様距離を取る翔英。
掌からは出血が見える。
「(よし……!! いいぞ……!!)」
今ので自信を宿す翔英。
あれからどれくらい経ったのかは分からないが、どれくらい試練を乗り越えて来たかは分かる。
やはり、単純な身体能力はこっちに分がある。
「…………これは……」
傷を受けた掌を観察しながら立ち止まるレウラ。
これも好都合だ。
一々時間を置いてくれるなんて、体勢を崩しにくい。
「…………貴様。強くなったな」
「……まあな」
「……驚いたわ。あの時からは信じられない動きじゃ」
「……色々あったからな」
「……じゃがな、わらわはこう思うぞ。……それでも、勝つのはわらわじゃと……!!」
「いや……!! 勝つのは俺だぜ……!!」
またレウラが向かってくる。
幸い、そんなに足は速くないので、反応に困ることはない。
ただ、こいつが『何をするか』を見誤らなければいいだけだ。
「……!! 何……!?」
ヤバい。見誤ったかも。
こっちに向かってくる途中、レウラが一気に加速してきた。
突如突風に押されたかのように、一気に距離を詰めてきた。
「(ヤバい……!!)」
レウラの右手が腰に延びてくる。
「もらった……!! ……んん!?」
だがギリギリで盾を設置。
レウラの右側をシャットアウト。
驚いたレウラに一瞬隙ができる。
「……こんなのがなんじゃ!!」
しかしすぐに盾を投げ飛ばし、もう一度翔英手をかざすレウラ。
だがそれに合わせて翔英は、
「ぐぬあっ……!!」
一瞬の内に溜めていた魔法をレウラの右手に打ち込んだ。
至近距離での雷はさすがに効いている。
その隙にまたコロコロ回避。
飛ばされた盾と合流して剣に戻す。
「……危ね……」
結構焦ったが、なんとか回避。
逆に攻撃を当てられた。
隠し球の一つはここで使ってしまったが。
「……い……痛い……痛いのう……。貴様……なんてことを……」
「……え……?」
「傷をえぐるなんてひどすぎるぞ貴様ァ……!! ……あああ……血が……またこんなに……」
さっきの切り傷。
この前の刺し傷。
そして今のやつ。
被っていたようだ。
「……いやいや……!! さすがにそこまで気ぃ遣っては戦えねえよ……!! 俺はそんなに器用じゃないし……!!」
「……ふん……!! まあよいわ……!! わらわを苦しめれば苦しめるほど、貴様は苦しんで死ぬことになる……!! 現在進行形で蓄積されていく痛みは……!! 全て返してやるから楽しみにしておけ……!!」
――――そう。
これだよ。この顔だよ。
こいつの嫌なところは。
完全に思い出した。
あの時も、こんな風に笑いながらキレながら必要以上に痛ぶってきたんだ。
でも今度は、負けない。
絶対に負けたくない。




