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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第二百四十二話 『それぞれの』

 その背中は、見る者に圧倒的な安心感を与えた。

 血の滲むような努力と天性の才能で培った、その大きな背中は。

 

 「……ティローナ……さん……」


 倒れている彼女が名前を呼んだ。 

 羨望と感謝の目で、ティローナを見ながら。


 「……ごめんね! 逃げられる!?」


 「無理よ。私の攻撃を受けたんだからね」


 目の前の魔物をマークしながら、後ろの彼女、そして、横で倒れている彼に視線を送る。

 

 二人を逃がすのは難しい。

 かといって、このままこいつと戦うのも危険だ。


 「どうしよう」

 ティローナがそう思った時、二人は地面から動き出した。


 「……あ……!! ありがとう……!!」


 「当然です……!! 私たちはこの方たちに助けて頂いたので……!!」


 逃げていた町人が二人を運んでくれている。

 無事、戦場から脱出できた。


 マビュートはその間も動かない。

 彼女の興味は、既にティローナ・カルダートへと移っている。


 「――――あなた、素晴らしい力をお持ちのようね。とても人間の女とは思えないわ」


 全身から触手を出すマビュート。

 ティローナは全く動じず、かつてない強敵に拳を構える。


 「正真正銘、人間の女だよ……!! でも、覚悟して!! あなたは私が倒すから!!」


 ここでもまた、人間と魔物が戦いが始まる。

 その余波は、町中へと伝播していく。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 そして、西門では。


 細身の怪獣のような見た目をした魔物、ハビニックが姿を見せていた。

 

 「……久しぶりだ……。……こうして、人間が動いている姿を見るのは……」


 ぶつぶつと呟きながら、人が逃げ回っている方へと向かうハビニック。

 背中に差した剣を抜き、グルグルと振り回しながら。


 「……こいつの切れ味を思い出させてもらうか……。……『あれ』じゃないのは残念だが……」


 ハビニックは出撃前、かつて自身が揃えていた武器を保管している武器庫へと立ち寄っていた。

 

 ハビニックは、生粋の武器コレクター。

 そして、武器職人でもある。

 彼は数々の特殊な武器を製作し、それらをコレクションしてきた。


 彼が封印された後は、ラスドラーゴがその管理を担当し、部下たちに見張らせ続けていた。

 ……だが、そんな武器庫の襲撃事件が、二十年近く前に起こっていた。


 その事件をきっかけに、武器庫は場所を移動する羽目になり、ハビニックが立ち寄ったのもこの二代目武器庫となった。

 しかも、武器の中で最もハビニックが重宝していた物は、その襲撃者に盗まれてしまった。


 だが、ハビニックは怒らなかった。

 大変残念だとはいえ、守り切れなかった自分に責任があると考えていたからだ。


 むしろ、ラスドラーゴに感謝していた。

 伝言を託したわけでもないのに、盗まれた一つを除いて大切に保管してくれていたから。


 「(……ラスドラーゴに恩を返す……。そのためには……聖鳳軍をおびき寄せる……)」


 武器の試し切りがてら、逃げ惑う市民を攻撃するハビニック。

  

 市民の血が飛び交った。


 「……中々だ……。……やはり……武器はいい物だな……」


 武器を振るう楽しさを思い出す怪獣。

 さらに逃げていく人々をのっそのっそと追いかけていく。


 「――――待ちやがれ!!!」


 「!!?」


 だが、自身への大声で後ろを振り返った。

 いや、声だけではない。

 一般市民にはない『強さ』も感じた。


 「……てめえがやったのか……!! これはよ……!!」


 後ろに立っていた金髪の女性。

 血まみれで倒れている二人の男女を指差しながらブチギレている。


 「……ああ……そうだ…………ところでお前は……」


 「ぶっ殺す!!!」


 言葉の途中で殴られるハビニック。

 不意打ちだったこともあり、後ろにすっ転んだ。

 

 その隙に周りの住民の避難は完了した。

 

 「……このパンチ……お前……聖鳳軍……しかも強いな……ちょうどいい……お前のようなのを待っていた……」


 「気色悪ィ喋り方だなてめえ……!! 二度と喋れなくしてやるよ……!! このアタシがなあ!!」


 「……お前……名前は……」


 「レランカ・レルン!!!」


 西では、レランカとハビニックが対峙する。

 互いの因縁は、まだ知らないが。 


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 そして、東門。


 「…………ふっ……。はあっ……!!」


 現れたのは、魔凰軍司令、ラスドラーゴ。

 彼もまた、前線へと赴いていた。


 ラスドラーゴは力を込め、町中へと邪気をまき散らす。

 

 こうすれば、誰かが勝手に近寄ってくる。

 わざわざ人間を殺す必要はない。


 そう考えているからだ。


 だが、どっちにしろラスドラーゴの周りにいる人間はその圧に耐えられないが。


 「――――やめんか貴様……!!」


 「……ふっ……来たか……」


 その邪気に釣られ、近くにいた強者が飛んできた。

 巨大な魔物の前に立ちはだかるのは、ムキムキ爺さん。


 「あちこちで強力な力を感じるが、最も危険なのはお主じゃと判断したわい。見た目通りの化物じゃな」


 「…………貴様……ヴァナベールか……!?」


 「……ほう、わしのことは知っておるか。それでいて逃げんとは、いい度胸じゃわい。それとも知っているのは名前だけか?」


 「……ふっ……そうか……。気づいていないようだな……私が誰かを」


 「……んん……!? 貴様は……!!」


 巨大な化物。

 それが、みるみる少年の姿へと変貌していく。


 その姿は、かつての若きヴァナベール・ソルシードが嫌というほど見た顔だった。


 「思い出したか? ヴァナベール。忘れたとは言わせないぞ。私を」


 「……忘れるわけなかろう。……貴様のそのツラをのう。……ラスドラーゴ……!!!」


 四十年ぶりの対面。

 

 ヴァナベールは、かつて翔英やミネカから聞いたことを思い出す。

 確か、「ラスドラーゴという魔物は、巨大な化物の姿をしていた」と言っていた。


 それはこういうことだったのか。

 何故だか分からないが、魔物の姿と子供の姿を持つようになっていたのか。

 あまりに違うので、頭から抜けていた。


 「――――ふっふっふっふっ。真っ先に来てくれたのがお前とは、何とも嬉しいことだ。あの時つかなかった決着、つける時がきたようだな」


 「……ふん、何を言ってるんだか。あの時決着はついていたじゃろうが。わしの勝ちでな。まあ、今回も当然わしが勝つが。…………ガロトの仇を討たせてもらうぞ!! ラスドラーゴ!!!」


 笑うラスドラーゴ。

 怒るヴァナベール。


 互いに気迫は高まっていき、町を破壊しながら衝突する。

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