第二百三十八話 『第三の試験』
「…………今、なんて……?」
「聞こえんかったはずがないだろう。殺す気で来いと言ったんじゃ」
――――怖すぎる。
たかが模擬戦なのに、何という緊張感だ。
「……分かりました……本気で行きます……!!!」
翔英は婆と戦う覚悟を決め、輝く剣を作り出す。
ヴァナベールとヒナノが見守る中、二人の戦いが始まった。
「(……どうする……)」
だが、相手のデータは何もない。
試験という状況とはいえ、この人が相手だと慎重に行かざるを得ない。
「(……俺に近いと言っていた……。ということは、何かを武器を使うはずだけど……)」
武器らしき物を持っていない。
持っているのは、杖だけだ。
「(……もしかして……。……いや、多分そうだ……。それなら……!!)」
とうとう飛び出す翔英。
一瞬で間合いを詰め、バールの胸元に斬りかかった。
しかし、
「――――やっぱりですか……!!!」
その一撃は、バールの杖に受け止められていた。
やはり、この人の武器は、この杖。
いや、仕込み杖というべきか。
今は戦闘モード。
刀身が剥き出しになっている。
「……中々……いい武器じゃな……」
今度はバールも動く。
身体をぶんぶん動かしながら、翔英に斬り掛かってくる。
その攻撃を何とかやり過ごそうとする翔英。
だが、
「(この人……!! 動きが読みづらい……!!)」
この状況になっても、バールは目を開いていない。
年によるものなのか、本当は空いているのかは分からないが、少なくとも翔英に彼女の目線は見えない。
『だからやりづらい』
翔英はここまでの戦闘を重ねる中で、無意識のうちに敵の視線を読むようになっていた。
攻撃の方向、次の動きを見極めるために。
でも、この人にはそれがない。
「うあっ……!!」
一太刀貰った。
胸に掛けて出血している。
もちろん、終わったらすぐヒナノが治してくれるとはいえ、できるだけ痛い思いはしたくない。
翔英は慌ててバールとの距離を取った。
普通の接近戦では向こうに分があるかもしれない。
……いや、そりゃそうか。
この人はこんな見た目をしているけど、格上の先輩なんだ。
見た目に騙されて驕っていた。
「(……この人には……俺の全てをぶつけないと勝てない……!!)」
魔法の発動に入る翔英。
もう、老人を慮っている場合じゃない。
「雷撃っても大丈夫かな」とか言ってられない。
「はあっ……!!!!」
片手での放出。
雷は色を帯びながら、標的に突っ込んでいく。
「ふんっ……!!!」
だが回避。
とても老人とは思えないジャンプで、上空へと飛び上がる。
「(もう一発……!!)」
追撃。
反対の手で、さらにもう一撃。
「ひやあっ……!!!」
「……!! なんだとっ……!?」
――――斬りやがった。
雷を杖で斬りやがった。
そのままの勢いで突っ込んで来る。
刀を翔英に振り下ろしながら。
「くっ……くそっ……!!」
「よく受け止めたな。だが――――」
「……ううっ……!!」
「そう受け身になっては勝てんぞ」
また斬られた。
今度は二回。
背中に傷ありだ。
「(この人……本当に強い……!! 俺が戦ってきた……どの魔物よりも強い……!! なんて人だ……!!)」
おそらく、バールは本気を出していない。
これは翔英を見るための試験だから。
もし彼女が本気なら、翔英はとっくに絨毯のようになっていただろう。
それぐらい、実力差がある。
今の攻防で、痛いほど分かった。
――――だったら、もう痛い思いはしたくないとか言ってられない。
負傷覚悟、重症覚悟で、迎え撃つしかない。
「……気迫が変わったの……。……楽しみだわ……」
それを感じたバールは少し口角を上げた。
そして、三度翔英の元へ。
「(あれをやってやる……!!)」
迎え撃つ翔英にバールの一撃。
何とか、一発目は剣で受け止めた。
だがすぐに二撃目。
左胸に飛んできた。
「ここっ……!! ……なに……!?」
剣で迎えながら盾へと変形し、ブロック。
したつもりだったが、攻撃が続けて飛んできた。
「おおっ……!!!」
さらに食らう翔英。
まさか、あれをやったのに全く動きを緩めないなんて。
演舞で一回見せたとはいえ、いきなり盾が出てきたら少しは驚くはずなのに。
まるで――――見えてないみたいだ。
……まさか。
「……バールさん……あなたもしかして……!! ……目が見えないんですか……!!?」
「…………そうだ……」
「……!! やっぱり……!!」
外から攻撃しても、バールはそちらに目を向けていなかった。
飛んで来るのが見えたら、反射的に目はそちらへ向くだろう。
だから、そうかもと思った。
この人は細目ではなく、盲目かもと。
「……じゃが、それがどうした。まさかわしが目が見えないからと言って、本気を出せないというんじゃないだろうな……」
「……いや……その逆です……!! 『それ』はあなたが強い理由ですから……!! 本気で行かせてもらいます……!!」
「…………ふっ……。じゃあわしも、お前の覚悟に答えんとな」
この年で聖鳳軍二軍。
盲目など、関係あるはずがない。
むしろ、最大の武器だろう。
「――――はあっ……!!!」
翔英が攻める。
バールも完璧に対応して見せる。
だが、翔英も吹っ切れたのか、相手に手を打たせないように腕を振り続ける。
しかし、やはり実力はバールの方が数段上手のようだ。
「……そこっ……」
「うわっ……!!」
「もらった」
容赦ない一撃。
翔英の疲れを突いた一撃は、胸に突き刺さった。
「……!! ヴァナベールさん……!! 止めないと……!!!」
「……うむ……。いや、よく見い……!! まだ終わっとらんぞ……!!」
「え……!? ……あっ……!!」
動いている。
翔英の左腕は胸に刺さった杖を掴み、右手は剣を振り上げている。
「……ぬっ……!! まだ動くとは……!!」
勝つつもりで放った一撃。
急所は外したとはいえ、後は倒れるだけの予定だった。
しかし、
「はあっ……!!!」
意地の一撃、放たれる。
その一振りは、避けるのが遅れたバールの右肩に入った。
「ぬうっ……!!」
初めて、翔英の攻撃が決まった。
ここから反撃開始。
――――とはいかず、
翔英は後ろに向きに倒れた。
バールは彼を受け止め、優しく寝かす。
「……わしに一太刀入れるとは、大した奴だな……」
「ヴァナベールさん!!!」
「うむ……!! これにて終了じゃ……!!」
すぐに掛け付けたヒナノが、急いで治療を開始する。
翔英も意識は保っており、苦しそうな顔で呟いた。
「……ありがとう……ヒナノさん……」
「ええ……。お疲れ様……ショウエイくん」
結局ケガは避けられなかったが、翔英の挑戦は一段落を迎えた。




