第二百三十六話 『第一の試験』
――――面接。
前から、苦手だった。
適当なことを言い続けるのが、あまり得意ではなかったから。
だがまあ、比較的戦いやすい科目であることも事実だ。
常識の範囲内の場だから。
「――――そう身構えんでもよいぞ、ショウエイちゃん。面接と言ってもすぐ終わる。質問は、一人一つじゃからのう」
「……はい……!! 分かりました……!!」
「じゃあ、まずはわしからじゃ。『聖鳳軍に入ってから最も大変じゃったこと、そしてそれをどんな風に乗り越えようとしたか』。聞いてもよいかの?」
――――なんて面接っぽい質問なんだ。
もっとファンタジーなことを聞かれると思ったのに。
一般企業と変わらないじゃないか。
「……ええっと……そうですね……。……大変だったのは……今……です」
「…………ほお?」
「……入ったばかりの頃は、皆のためにってよりは、自分の望みのために頑張っていました。……でも、ミネカに助けられてからは、あの子に恩を返したいから頑張るようになった。……そして今、それはまだ返せていない。でも、絶対に返さなくてはいけません。それを叶えようとしてる今が、一番大変です」
「……そうじゃのう……」
「――――それで、『どんな風に乗り越える』……かは、もちろん俺が全力であの子を助けるために動くっていうのは当然なんですが、『皆の助けを借りる』ってことも、忘れないようにしたいと思っています。……きっと、俺一人じゃ助け切れない。でも、皆がいれば、絶対大丈夫だと、そう思っています。………以上です……」
思ったことを整理しながら話すのは難しい。
だがきっと、伝わっているはずだ。
この想いは。
「うむ」
翔英は恐る恐る爺の顔を見た。
笑顔だ。
いつものような、優しい笑みを浮かべている。
言葉はそれしか発さなかったが、今ので大丈夫そうだ。
「――――じゃあ、次は私ね。ショウエイくん。……私からは、『これから』のことについて尋ねるわ。『ミネカを助ける』。うん、それはもちろん、果たさなければならないこと。答えて欲しいのは、その後のことよ。ミネカが戻って来た後、あなたはどんな思いで私たちと過ごしていくのか。何か目標はあるのか。……どうかしら?」
「……なるほど……」
未来のことか。
これもよく聞かれる質問ではあるが、『一つ先』っていうのが答えづらいポイントだ。
「ミネカを助けることができる」。それ前提。
いや、ヒナノは口にしなかったが、『そうならなかった』場合のことも本当は聞きたかったのだろう。
考えたくはないが、もしダメだと分かってしまったら、「どんな風に生きていくのか」ということを。
だが、翔英もまた、それを口にすることはできない。
仮の話でも、口にしたくない。
「……そうですね……。『その』後は……いや、『その』後も、俺は皆と一緒に戦っていきたいと思っています。ミネカと一緒に……皆と一緒に……。その思いは、これからも変わっていくことはないです。……それから…………」
言おうか迷った。
おかしな奴だと思われるかもしれなかったから。
でも、『どんな思い』で、『どんな目標』をと聞かれたから、正直に答えるとしよう。
翔英には、ずっと考えていることがあった。
もしそうできたら、どんなに嬉しいかと思っていることがあった。
これまでの戦いを経て、さらにその思いは強くなっていた。
「……戦いが無くなればいいと思っています。魔物と人間の戦いが。……僕たちが、強くなろうとしなくてもいいような。そんな世界がくればいいなと、思っています」
「…………へえ……」
あまりにも無謀な、夢。
この世界の歴史を真っ向から否定するような、戯言。
そんな言葉を、雲一つない真剣な眼差しで、歴戦の戦士たちに告げた。
ヴァナベールもヒナノも、驚いたように視線を返す。
だがヒナノはすぐに口角を上げて目を細めた。
「ごめんなさいね。ちょっと驚いてしまって。……でも、また少し、あなたのことが分かったわ。……本当はもうちょっとあなたに聞きたいことがあるけど、それはまた今度ね。ありがとうショウエイくん。私からは以上よ」
「はい……!!」
紛れもない本心。
失礼は承知だったけど、言ってよかったかなと、少し安心する。
ヒナノの嬉しそうな顔を見れたから。
「(……後は、あの人か……)」
質問は残り一つ。
出題者はほとんど知らないお婆さん。
ここまでの傾向を見れば、そんな難しいのは来ないと思うが。
「わしらから何か一つ奪えるとしたら、何を奪う……」
「…………え……?」
「……そのまんまの意味だ。聞こえんかったわけじゃなかろう……」
フラグ回収?
何だその質問。
聞いたことないぞ。
どういう意図で聞いてるんだ。
翔英はバールにそう心の中で訴える。
バールは安定の細目。
いや、細目っていうか、目閉じてるように見える。
「……無いという答えはなし。何かしらは、答えてもらうぞ……」
……怖いんですけど。
翔英は助けを求めるように、ヒナノとヴァナベールの方を見た。
だが、二人とも少し笑みを浮かべながらこっちを見ている。
まるで、何と答えるか楽しみにしているかのようだ。
――――考える翔英。
『何を奪う』?
そんなこと言ったって、この人たちが何を持ってるかほとんど知らないのに。
所有物を確認する。
が、特に目立つ物は何も持っていない。
杖だけだ。
全然奪いたいなんて思えない。
チラッとバールの方を確認する翔英。
相も変わらず全く表情は変わっていないが、心なしか怒っているように見える。
目を閉じていることで、さらに圧が強い。
「(やべえ……!! 早くなんか答えないと……!!!)」
焦る焦る。
意味の分からない質問のせいで、頭が回らなくなっている。
『奪う』って印象の悪い言葉が、さらにそれを加速させている。
「……ええっと……。俺は…………」
とりあえず、答えられるのはこれしかない。
ヴァナ爺とバー婆は何持ってるのか知らない。
ヒナノに狙いを定めるしかない。
「……ヒナノさんの、魔法です……」
「えっ!?」
「違いますよヒナノさん……!! 強いて言えばです……!! でも……ヒナノさんの力に、ちょっと憧れてるってのも事実です……。ヒナノさんみたいに、人を助けたいって、そう思うのも」
「…………あい……」
――――耐えたか?
とりあえず、沈黙は回避することができた。
それにしても、なんて変な質問なんだ。
「……よし、ではこれで、一つ目の試験は終わりじゃ。――――次、行こうかのう」
嫌なドキドキが収まらぬまま、翔英の挑戦は次のステージへ。




