第二百三十五話 『昇格試験』
――――翌日。
「――――お待ちしておりました」
翔英は、その試験に挑みにやって来た。
あれから具体的な対策はできていない。
特に情報は得られていない。
だが、やるしかない。
きっと、大丈夫だ。
これまで、壁にぶつかり続けてきたんだから。
「――――お願いします」
受付に案内された翔英。
昨日ソルと共に訪れた、闘技場へと向かった。
「(……まだ誰もいない……)」
が、会場はここのようだ。
闘技場に似合わない机と椅子が一対三で向かい合っている。
受験者は基本的に一人。
今回も、翔英一人だ。
対する試験官は三人。
これから、ここにやってくるはずだが。
「(………誰が来るんだろ…………)」
待ち時間。
意味のない予想で時間を潰す翔英。
一軍は、現在五人。
推薦人にティローナ・カルダートとルナレジェン・ペサンテがいるとなると、残りは三人。
ヒナノ・スエリア。
マーノ・ジャッロ。
そして、ヴァナベール・ソルシード。
まあ、この中なら比較的やりやすい。
ヒナノとマーノは結構親交を深めているし、ヴァナベールもどんな人間か知っている。
……でも、もしかしたらこういう場では厳しいタイプかもしれない。
知っているのは上司としての彼らだけなので、審査員となるとまた違った顔を覗かせる可能性も否めない。
まあ、全く知らない人が来るよりはマシかもしれないが。
では、二軍はどうだろうか。
現在、二軍は九人。
いや、ミネカ・ベルギアが消息不明なので、八人というべきか。
翔英が知っている二軍のメンバーは、うち六人だ。
リュノン・アーリー。
フェルフラム・ボンバ。
オー・ラッセ。
レランカ・レルン。
ソル・スエリア。
そして、この間昇格したラフェル・フルミーネ。
まず、レランカ・レルンは推薦人なのでありえない。
ラフェルも同期だ。可能性は低い。
リュノンも自身との関係性を考えると、試験官には選ばれないだろう。
となると、ソルか、オーか、フェルフラムか。
もちろん、ソルが来てくれたら一番嬉しい。
オーとも話し慣れているから安心だ。
フェルフラムは、ミネカを助けに行ったときに少し見ただけ。
翔英はその時、いかつい彼に強さとおっかなさを見た。
リュノンから「あの人は優しい」と聞いたことがあるが、やはり直接の絡みがないと心配だ。
一番怖いのは、知らない二人。
翔英はほとんどこの二人について知らない。
知っているのは、存在だけだ。
「(……優しい人でありますように……)」
祈りながら待機すること十五分。
とうとう、闘技場の扉が開き、運命の担当者が姿を見せた。
「――――お待たせ、ショウエイくん。待ったかしら?」
一人目。
「……!! ヒナノさん!!!」
ヒナノ・スエリア。
やっぱり現れた。
「……全く、私に勝るとも劣らない出世スピードだわ。大したものね。……でも、いくらあなただと言ったって、公平に見るわよ、私は」
「当然ですよ……!! よろしくお願いしますねヒナノさん……!!!」
少し安心。
見知っている人物。
しかも、親しい仲の彼女が来てくれるとは。
「――――ほっほっほっ。相変わらず元気じゃのう、ショウエイちゃんは」
二人目。
「あっ……!! ヴァナベールさん……!!」
ヴァナベール・ソルシード。
ここで登場。
「久しぶりじゃな。お主の活躍、皆から度々聞いておるぞ。……じゃが、ヒナノちゃんの言う通り、ここではその評価はゼロじゃ。今日の成果で、見させてもらうからの」
「はい……!! ぜひ、お願いします、ヴァナベールさん……!!」
まあまあ安心。
一番年齢が離れているが、「一番試験官ぽいな」って思っていた人選だ。
全く動揺はない。
むしろ、この人に成長を見せる絶好のチャンスだと捉えよう。
「(後、一人……誰だろう……?)」
ヒナノとヴァナベールは既に、用意されていた席に腰を下ろしている。
席はもう一つ空いている。
翔英は一応マナーをわきまえているので、立ったまま待機。
「(……来たっ……!! …………誰だ……? ……っていうか……なんだこの人……?)」
三人目に登場した人物。
それは、翔英が全く見たことの無い人だった。
どうやら、『知らん二人』に当たってしまったようだ。
「…………よろしく……。ショウエイ・キスギ……だったか……」
口を開いた。
だが、翔英は大分予想からかけ離れた見た目に、すぐ返答ができない。
『細目の老婆』
現れたこの人を一言で表すなら、この言葉が適切だろう。
八十代の老人くらい腰が曲がっており、当たり前に杖を突いている。
年齢を感じされる白髪はボサボサ。
マジで、戦いとか言っている場合じゃないビジュアル。
こんな人が、聖鳳軍の、しかも二軍にいたなんて。
「…………聞こえんかったのか……? ショウエイ・キスギ……」
「……ああっ……!! すいません……! 挨拶が遅れて……!! よろしくお願いします……!! ……ええっと……」
「『バール・バーランド』……じゃ」
「へー。ショウエイくんって、バー婆に会ったことなかったのね」
「……バーバー……」
「ええ。聖鳳軍二軍、バー婆よ」
「……よっこいしょっと……」
その、バー婆も試験官の椅子に腰を下ろした。
集結。
今回を担当する試験官が集合した。
左に婆、真ん中に爺、右に姉というメンバーだ。
その姿は、見る者にとんでもないプレッシャーを与える。
もちろん翔英もそうだ。
翔英は大きな唾を飲み込み、失礼が無い程度の深呼吸で息を整えた。
「――――よおし、じゃ揃ったようじゃし、早速始めるかのう。ショーエイちゃん。座ってちょうだい」
「……はい……失礼します……」
「まあ最初に、今日の昇格試験の流れについて説明するぞい。試験科目は、三つじゃ。――――まず一つ目に、『面接』」
「面接……!!?」
「二つ目に、『自由演舞』。最後に、『模擬戦闘』じゃ」
「……!! 模擬戦闘……!!? どなたとですか……!!?」
「……わしじゃよ…………と、言いたいところじゃが、自由演舞を見て、こちらで決めさせてもらう」
「……!! 分かりました…………」
死ぬかもしれないぞ。
ヴァナベールやヒナノなんかと戦ったら。
いや、今はそれよりも――――
「――――じゃあ、面接から始めるわよ。いい? ショウエイくん」
「……はい……!! お願いします……!!」
――――一つ目の試験に、集中しなくては。




