第二百三十四話 『私の頑張り』
「…………なんで……?」
「はい……それは……昇格試験の試験官は、一軍と二軍の中から三名選ばれるのです。私も、担当になるかもしれないので……試験内容については、私たちからお話することはできないのです……」
「……なるほど……」
――――言ってくれればしなかったのに。
そんなことを思ってもしょうがない。
何なら、最初に話し掛けたのがソルでよかったと思うべきだろう。
「……まあでも、試験内容については話せませんが、基本的事項なら多分説明しても大丈夫だと思いますので、セーフですね」
「……おお。ありがとうソル」
――――やっぱり、ソルでよかった。
「……試験官は、推薦人以外から選ばれます。ショウエイさんを推薦したのって、どなたか分かりますか?」
「うん。ルナレジェンさんだって言ってたよ」
「……他は?」
「……他? ……いや、ルナさんしか聞いてないけど」
「…………ショウエイさん。昇格試験に挑むには、最低三名からの推薦が必要なんです。だからきっと、もう二人、いますね」
「ええ!? そうなの!?」
――――だから言っといてくれよ。
全然何も聞かされていないではないか。
……知ってると思われてたのかな?
「……はい。どなたか、心当たりありませんか? 一軍二軍から、他に二名」
「……んー……心当たりかあ……そうだな……。……そういえば、レランカさんに初めて会った時、『二軍レベルに見えた』って言ってくれたことがあったけ」
「……なら、レランカさんは間違いないですね。私の時もレランカさんいましたし。あの方、どんどん推薦するので」
「ははは。レランカさんらしいな」
「もう一人はどうですか……?」
「…………多分、ティローナさんかな? ……あっ、ヒナノさんって可能性もあるかも」
「……姉さまですか……。……でも、姉さまが誰かを推薦してるのって、聞いたことありませんね……。姉さま、いつも試験官側にいるイメージです」
「そっか……。じゃあ、ティローナさんだと思う。何だかんだ、一緒にいたの長かったし」
全員、正解。
ちなみに、一軍への入隊試験を受けるには、一軍三名からの推薦が必要となる。
「そうですか。では、そのお三方以外から選ばれそうですね」
「そうみたいだね」
「…………でも、ショウエイさん。いつの間に、そこまで上ってきていたんですね。……本当に凄いです」
「ああ、ありがとう。ソル」
「……試験内容については言えませんけど……ショウエイさんに見てもらいたかったものがあるんです。……ちょっと、いいですか?」
「……え? ……うん、いいけど」
試験内容はこれ以上言えないと判断したソル。
前々から翔英に見せたかった物があったため、話題転換。
ソルと翔英は、闘技場へと移動していった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……よかった……。空いていましたね」
「……うん。っていうか、勝手に使っていいの? それに、ここで何すんの?」
「大丈夫です。もしどなたか来ても、事情を話せば問題ありません」
「……ああそう……」
ここに来て、ソルがあの人の妹だということを実感する翔英。
性格は似ていないが、こういうところはそっくりだ。
「――――何をするのかは、今、分かります。ショウエイさんは、そこで見ていてください」
「……え? うん、分かった」
ソルは両手をクロスすると、四つん這いになった。
何が始まるのかドキドキしている翔英は、真剣な眼差しで視線を送る。
「はあっ……!!!」
「……!! なんだっ……!?」
翔英は目をこすった。
目の前の光景を疑ったから。
――――変化している。
ソルの姿が、人間の物から変化していく。
これは――――獣だ。
「な……!? なんだこれ……!!!? ソル……!!? どうしっちゃったんだよ……!!?」
漆黒に包まれた、小さな魔獣のようなこの姿。
翔英が目にするのは初めてのことだ。
「……ショウエイさん!」
「うわっ!! びっくりした!!」
魔獣が口を開いた。
この声はソルだ。
それに心なしか、笑っているようにも見える。
「ショウエイさんには、見せるの初めてでしたよね。私、これをショウエイさんに見てもらいたかったんです」
「……これを……俺に……?」
「はい。……私、前までは、この姿になると意識がなくなってしまって、コントロールできなかったんです。――――それに、どうしようもなく、この姿が嫌いだった……」
「……ソル……」
「……でも、私、頑張ってこの姿でも行動できるようになったんです。……みんなの役に立つために……ミネカさんを助けるために……。――――それにショウエイさん、覚えていますか? この前会った時に、私が言ったことを」
「………ああ、もちろん覚えてるよ……!! そっか……!! それで俺に、これを見せてくれたのか……!!!」
ソルは先日、翔英に言った。
『今度会ったら、私の頑張りの成果を見せる』と。
ソルは、あの時の戦いで自身が下した決断。
ミネカを助けられなかった結果。
それらを、毎日のように悔いていた。
だからソルは、共に悔しさを分け合った仲である翔英に誓いを立てた。
必ず強く成るという誓いを。
「……はい……!!」
翔英のリアクションに嬉しそうに返答しながら、人間の姿へと戻るソル。
その変化に対して、思わず拍手で応える翔英。
今のソルの姿を見て、ソルの言葉を聞いたことで、彼女の努力が手に取るように分かった。
ソルは、翔英を勇気づけようと、約束を果たしてくれたのだ。
「……ありがとう、ソル……!! 本当に凄いよ……ソル!! そんなかっこいい力を使いこなせるようになったなんて……!!」
「……あ、ありがとうございます。ショウエイさんにそう言っていただけて、とても嬉しいです。……でも、実はまだまだ完全ではないんです。本当は、もっと大きいんです……。――――だから、一緒に頑張りましょう!! ショウエイさん!! ショウエイさんは明日の試験……!! 私は、この力をもっと使えるように頑張ります……!!」
「うん……!! 本当にありがとう、ソル……!! たくさん勇気貰えたよ……!! 俺も頑張るね……!!」
「はい……!!!」
試験についてあまり聞くことはできなかったが、それでも、偶然ソルに会えてよかった。
またしてもソルに元気を貰えた翔英は、その勢いのまま、新たな試練に挑戦する。




