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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第八章
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第二百三十一話 『友』

 「――――終わった……」


 完全に死亡した仇敵を見下ろしながら呟くリュノン。

 

 とうとう、終わった。

 数年間追い続けてきた戦いが。

 自身の使命となっていた戦いが今、終わったのだ。


 ――――雨が降って来た。


 今度は天を見上げながら、悲しみを顔に表す。


 追い続けてきた敵をついに殺した。

 だが、その心はちっとも満たされない。


 むしろ――――生きる目的を失ったようだ。


 ルージェはもういない。

 会うことはできない。


 そんなことは分かっていた。


 でもせめて、こいつらを殺すまでは、生きようと思っていた。

 だが、それは今、果たされた。

 

 ――――では、これから何を目的として生きていけばいいのだろう。

 あまりにも、未来が見えない。

 

 やっぱり俺は、あいつと過ごしていた過去の中にいるみたいだ。


 「…………ルージェ………」


 リュノンは短剣を強く握り締めた。

 手から血が滲み出るくらい、強く強く握り締めた。


 今、ルージェは一人寂しい思いをしているのだろう。

 あいつの言う通り、俺に怒っているのだろう。 


 思えば、ルージェには迷惑ばかり掛けてしまった。

 それなのに、俺はルージェに何もしてやれなかった。


 ――――いや、まだそう嘆くのは早い。

 これから、ルージェのために、ルージェのためだけに動いて、あいつの望みを叶えてやればいい。


 「……俺も、行くよ……。お前のところにさ……」


 もう、身体はボロボロだ。

 頭も痛いし、足もフラフラしている。

 死ぬのも時間の問題だろう。


 それが分かったリュノンは、妹の元へと腕を動かした。

 

 こっちでの目的は果たされた。

 今度はあっちで、ルージェの顔をいつまでも見ていたい。


 こんなに苦労したんだ。

 神様きっと、最期くらい望みを叶えてくれるだろう。

 「ルージェと一緒にいたい」っていう、当たり前の望みを。


 腹へ剣を向けるリュノン。


 その顔は、考えられないほど柔らかいものだった。

 これから待っているのは死ではなく、再会だと信じているから。


 ――――が、待っていたのは、そのどちらでもなかった。


 「――――おい……!! リュノン……!!! 何やってんだよお前!!!」


 大声が聞こえる。

 腕を掴まれている。

 剣は少しも刺さってはいない。


 「……どうしたんだよリュノン……!! こいつ倒したんだろ……!! なんで自分に剣を向けてるんだよ……!!!」


 剣を取り上げられた。

 剣を放り投げられた。

 腕をさらに強く握られた。


 「さあ、帰ろうぜリュノン……!! 今日の戦いは終わりだ……!! 俺たちの勝ちだ……!! だから立ってくれ……!!!」  


 「…………ショウエイ…………」


 彼が駆け付けた。

 彼はリュノンの身体を起こそうとする。

 

 だが、リュノンの腰は上がらない。


 「……大丈夫かリュノン……!? 悪いな……俺にはお前を治せないけど、ルナさんのところまで運んでやるから……。それまで、頑張ってくれ……!!」


 「……ごめん、ショウエイ……。……俺、行くところが出来たんだ……。俺を待っている人がいるんだ……。――――だから、ここに置いて行ってくれ、ショウエイ……」


 「…………は……? ……「待っている人」って…………。……まさか……!!!」


 翔英は知らない。

 リュノンの過去を。

 

 だが、これまでの経緯、そして、今見せているリュノンの顔から、感じ取った。

 

 「おい……!! 何言ってるんだよリュノン……!! 「ここに置いてけ」だ……? ふざけるなよ……!! お前にはまだまだ、こっちでやることがあるだろう!!!」


 「……そうかもしれないけどさ……。それ以上に、やらなきゃいけないことがあるんだ……。――――泣いてるんだよ、あいつ……。ずっと一人で泣いてるんだ……。目を閉じたら、あいつが目の前にいるんだ……。……お兄ちゃんの俺が、慰めに行かなきゃいけないんだよ……」


 「…………それは……」


 「……だからさ、俺のことは気にしないでくれ……。俺がいなくても、聖鳳軍は何の問題も無い……。でも、ルージェは違う……。……そうなんだよ……」


 「……!! いや、それは違うぞリュノン……!!!」


 「…………何が……」


 「お前がいなかったら困るのは、俺も同じだ……!! お前、あの時言ってくれたよな……!! 『俺がこうして生きているのが、お前の意味の証明だ』ってさ……。俺、すっごい嬉しかったんだ……リュノンにそんなこと言ってもらえてさ……」


 「……そんな大したことないことで……」


 「大したことなくなんかない!! 俺がこうして立ち上がれたのは、お前のおかげだよ……!! ――――皆だって同じだ……!! リュノンがいなくなったら、悲しむよ……!! リュノンは必要だよ、聖鳳軍に……!! それに、助かる命を捨てるなんて、そんなのダメだ……!!」


 「……でも、俺は……ルージェに……」


 「――――それにリュノン……!! 前に……言ってたじゃん……!! 『ガロトさんみたいな生き方がしたい』って……!! 『あの人の意思を継いで生きていく』って……!!! まだまだお前の力を必要としているって人もいっぱいいるよ……!! ……『レイ』って子もそうだろ……!! お前がいたから助かって、今も生きてるんだろ……!!」


 「…………レイ……」


 「……だから、そっちに行くのはまだ早いよ……!! ……俺が言うのはおかしいけど、きっと、妹さんもお前に生きて欲しいって思ってるはずだ……!! だって『リュノンの妹』なんだから……!!」


 「……ルージェ……」


 「立ち上がってくれ……リュノン……!! もっとこの先も……俺を助けてくれ……!!」


 翔英はまた手を差し伸べた。

 

 リュノンはその手をじっと見つめ、瞳の中のルージェと対話する。


 そして――――


 リュノンは彼の手を取った。


 「リュノン……!!!」


 「……ルージェは……きっと俺を許してくれないだろうな。でも……ルージェに会うのは、もう少し後にする。できるだけあいつの分も生きて、それからあいつに謝るよ……」


 「……ああ……!! 生きてくれ……!!」


 リュノンは翔英に肩を貸されながら、再び立ち上がった。

 そして、仲間が待つ方へと歩みを進めていく。


 「(――――ごめんなルージェ……もうちょっとだけ待っててくれ……。必ず……会いに行くから……もう少しだけ……待っててくれ……)」


 心の中の妹に、謝りながら。

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