第二百三十話 『百も承知』
――――その頃、森の中では。
「……なんや……これ……」
休憩していたルナレジェンが出発。
出入口付近へと到着していた。
「……!! ルコート……!!」
彼女に連れられているのはプティマ。
近くに倒れている仲間を発見し、駆け寄っていく。
「……こいつも仲間か……。でも、ボスじゃなさそうやな……。ってことは、リュノンはボスを追いかけてるってのが正解か……。――――ところでなんなん……? このバカでかいグローブ…………って答える気、ないか」
プティマは倒れるルコートに集中している。
ルナの質問は耳に入らない。
「……ん……?」
そんなルナ。
グローブの中から気配を察知。
「……あれ……!? 誰かいるの!? ねえ!! 誰でもいいから出るの手伝って欲しいんだけど!!」
「……その声……ショウエイくん!?」
「ルナさん!! よかった!! ルナさん、ちょっとここ開けてください!!」
「……なんかようわからんけど……。了解したわ」
翔英の声を聞いたルナは腕を変化。
鉄のような重さを持つグローブを持ち上げた。
「おおっ!! ありがとうございますルナさん!!」
「何しとんの?」
「敵の能力に捕まっちゃって。……あっ、それより、リュノンは!? 後、あいつも!!」
「さあ。多分、リュノンそいつ追いかけてるんやと思う」
「……!! 分かりました。外ですよね。俺、行きます!!!」
復活した翔英。
急ぎ、リュノンを追いかける。
ルナはすぐに行けない。
ここに二人、いるから。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――終わった……のか……。
目の前で苦しみを見せる仇敵。
奴はもう、動けない。
霊体をさっきみたいに出したとしても、同じように動くことすらできない死に体が出て来るだけだ。
こいつはもう、終わりだ。
「……くっ……くそっ……くそおっ……!!」
――――そう。
今のこいつには、こうやって喚くことしかできない。
普段の余裕はどこにもない。
「……最後に……お前に……聞いておきたいことがある…………」
「…………?」
リュノンが彼に近づきながら言う。
リュノンも重症だが、グランデほどではない。
今、敵をどうするかの権利を持っているのは、リュノンの方だ。
――――リュノンには、グランデに会ったら、聞いておきたいことがあった。
当然、聞かなければならないことだ。
だが、聞くのが恐ろしかった。
もう、望みはほとんどないと分かっていたから。
敵の答えが怖かったから。
あれから、七年以上の月日が経っているのだ。
でも、「もしかしたら」
どこかでそう思っている自分も、確かに存在する。
「……俺の……妹は……。……ルージェは今、何をしている……。……答えろ……」
「…………ああ……? 妹……?」
リュノンの問いに、グランデは息を切らしながら目を丸くする。
彼の顔をじろじろと見つめ、質問の意味を考える。
「……そうだ……。昔、お前たちに連れ去られた、ルージェ・アーリー……。お前には、覚えていないとは言わせないぞ……」
「………ルージェ……アーリー……。…………はっ……! そうか……あの時の……」
リュノンの赤髪と顔立ちを見たグランデは、あの時の記憶を呼び起こす。
随分昔の話なので、思い出すのに時間が掛かってしまった。
話していないリュノンのことは覚えていないが、もちろん、ルージェのことは記憶にある。
何しろ、自身の経歴で初めて、盗んだ『人』だから。
「……思い出したか……。だったら答えろ……。あれから、ルージェはどこで何をしていたんだ……。そして今、何をしているんだ……」
「…………さあな……」
「……!! なんだと……!!? ふざけるな……!! 知らないはずがないだろ!!!」
「本当だ……。嘘はつかない……。この状況で嘘をついて……俺に何の得があるんだ……」
「……じゃあ……!! 知らないってどういうことか説明しろ!!!」
「…………あの女は、売ったんだ……。あの日から数日経った後、人手を欲しがっていた奴らにな……。かなり高値で売れたよ……。よく覚えてる」
「……!! 売った……!?」
独断だった。
他のメンバー、もちろん、ルージェにも相談せず、グランデはルージェの未来を決めた。
綺麗な赤髪に加えて、あの美貌。
まだ幼いこともあり、ルージェを高額で買いたい者が絶対にいると考えたから。
当然、人身売買は禁止されている。
密売だ。
「……そうだ。……だから本当に、あの女が今何をしているか……俺は知らない……。……だがまあ、間違いなく死んでるだろうな……」
「…………ああ………」
やはり、そうだったか。
分かっていたよ。
端から「復讐」のために動いていたんだ。
期待などしていない。
……それが、分かっただけで、いい。
「(……そうだ……。こいつを動揺させて…………)」
グランデ、最後のあがきを試みる。
「あの女がこいつの妹」だという情報。
それを活かさない手はない。
「……おい……思い出して来たぜ……。あの女……ルージェだっけか……? 確か死んだって、買った奴が言ってたな……。七年くらい前だったか……? 環境に耐えられずに自殺したってよ……」
「………………………」
「それに、こんなことも聞いたな……。ルージェは……毎晩言ってたんだってよ……。『私がこんな目に遭ってるのは、お兄ちゃんのせいだ』『絶対に許さない』ってな……。……可哀想だな……ルージェ……。お前のせいでよ……」
「………………………」
「(ははは……ショックを受けろ……!! 動揺しろ……!! そのまま倒れろ……!!)」
グランデが最後に繰り出したのは精神攻撃。
適当に考えながら言っているが、きっとかなりのダメージを負うはずだ。
これで倒れてくれたら、狙い通り。
その隙に、何とか逃げ延びてやる。
そう考えるグランデだが――――リュノンは一歩踏み出した。
「……な……!!」
「……ああ、その通りだよ」
今更、何かを聞いて動揺することなどない。
彼はもう、全てのショックを受けて来たのだ。
「……それから……お前は殺すよ。……ルージェの仇を討たせてもらう」
リュノンは剣を構えた。
もう、盗賊団は終わりだ。
こいつから引き出せることはない。
それよりも、こいつを裁く権利は、自分にある。
「……!! 待て……!! 頼む……!!! 辞めてくれえ……!!!!」
「無理だ」
「ひ……!! ひああああ!!! …………がっ……!!」
リュノンの剣が、グランデに突き刺さった。
恐怖に引きつった顔を浮かべながら、うつ伏せに倒れ込む。
「…………ち……くしょう………」
そして絶命。
リュノンの戦いは、終わった。




