第二百二十九話 『痛み』
――――何を言っているんだよ。
嘘でもそんなこと言っちゃいけない。
そんな簡単に命を投げ捨てちゃいけない。
お前を護るのは、俺の方だ。
これまでもこれからもずっと、俺が護らなくちゃいけないんだ。
……でも、声が出ない。身体が動かない。
今すぐ、ルージェの元に立たなくてはいけないのに。
声を挙げて、奴らをぶっ飛ばさなきゃいけないのに。
「――――お願い……します……!!」
「……お兄ちゃん……か…………。ふんっ、まあいいわ。仕方ないから。こいつは殺さないであげる」
「……!! あ……ありがとうございます……!!」
――――だから何を言っているんだよ。
なんでお礼なんて言ってるんだ。
自分がどんなお願いをしたのか分かっているのか……?
このままじゃお前、あいつに……。
「――――でももちろん、ただってわけじゃない。あんたの言うように、あんたと引き換えにね」
「……はい……分かっています……」
「……けど、別にあんたの命はいらないわ。あたしは人殺しが好きなわけじゃないからね。――――だから、あんたの自由をもらうわ。それでどう?」
――――何を言っているんだこの女も。
自由をもらう?
どういう意味だよそれは……
「おいおいプティマ!! 何だよそれ!! お前何言ってるんだ!?」
「うっさいわねキャトロング。こいつをどうするかは、あたしが決めんのよォ!! 黙ってて!! ――――で、どうなのよあんた?」
「……はい……お兄ちゃんを助けてもらえるなら……」
「決まりね」
――――ちょっと待ってくれ……。
何が決まったんだ……。
どういうことなんだ……。
ルージェに、何をするつもりなんだ……。
「じゃ、とりあえず一緒に来てもらうわよ。あんた」
「……一緒に来てだと!? プティマ!! なんでそんなことをするんだ!?」
「だからうっさいわァ! いいじゃない!! こいつも盗品の一つってことよォ!!」
「……いや、そんなことボスがなんというか……!!」
――――なんだと……?
こいつら、ルージェを連れ去るつもりなのか……?
ふざけやがって……。何のために……。
……ルージェ……。
なんでそんな平気そうな顔をしてるんだよ。
もっと泣いてくれよ。
受け入れられないって、そんな風な顔をしていてくれよ。
まるで、現実を冷静に受け止めているみたいじゃないか。
こんな顔してる俺の方が子供みたいじゃないか。
「そんなの、帰ってから説明すればいい話じゃないィ!! きっとボスは頷いてくれるわァ!!」
「そうじゃない……!! ボスが何と言おうと、ボスに許可を貰う前に連れて行ってしまうことが問題なんだ……!! ……もう帰るぞプティマ……!! ここでの収穫はもう十分だ!!」
「……じゃあ……!!」
「――――構わないぞ。プティマ」
「……え……? ええ……!? ボス……!?」
――――なんだあいつは……。
ボス……?
あいつが……ボス……。
ってことは、これは全部、あいつのせいってことなのか……。
許せない……。
お前の顔……絶対に忘れないぞ……。
「ボス! なぜここに!!」
「ルコートに呼ばれてきたのだ。くだらん言い争いが終わらないとな。だから、俺が終わらせる。許可するぞプティマ。こいつを連れて帰るのを」
「さっすがボスゥ!! 話が分かるゥ!!」
「……では、さっさと帰るぞ。ルコートが見張っているとはいえ、長居はできん」
「了解!!」
――――おい。
ルージェから離れてくれ。
ルージェの手を掴まないでくれ。
俺から、ルージェを奪わないでくれ。
頼むから動いてくれ、俺の身体。
「…………またね……。お兄ちゃん……生きてね」
「……!! ルー……!!!」
――――消えた。
奴らも、ルージェも。
一瞬で、消えた。
やっぱり、俺の身体は動かない。
なんなんだよ。
妹の命で護ってもらって、何が『兄』だ。
情けねえ。
どうしようもないな、俺。
「うう……!! う……ああ………!! ルージェ……!!!!」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――それから俺は、ルージェを探すために村を出た。
しかし数日後、あまりに前を見ずに行き過ぎたためか財産も底を尽き、帰れなくなってしまった。
路頭に迷う中出会ったのが、ケバローという男。
彼は、聖鳳軍という組織に所属していた人間で、俺を助けてくれた。
それから俺は、このケバローという人に、お世話になった。
ルージェがいなくなったツインフランに帰るのは、どうしようもなく耐えられなかったから。
彼に協力を仰ぎながら調べていく内に、奴らの名前が「グランデ盗賊団」であることと、誰も奴らの行方が分からないということを知った。
でも、俺が必ず見つけてやる。
俺が、奴らを終わらせてやる。
そう心に誓い、俺も聖鳳軍に加入した。
何年も鍛錬を積みながら戦い抜いてきた。
全ては――――奴を倒すために。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――――そうだ……!! そうだよ……!!」
「……んっ!? 何言ってるんだ……!! さっさと……死…………っ!?」
「『あの日』の痛み……『あれから』の痛みに比べたら…………こんなモン……痛みですらねえ!!!」
「……なっ……!! ば……馬鹿な……!!!」
過去を見たリュノン。
その過程で得た痛みが彼の身体を奮い立たせる。
胸には短剣が突き刺さり、足にも穴が空いているが、彼は戦意を宿しながら立ち上がり、グランデを押し返した。
そして胸の剣を抜くと、腰を地面に着けているグランデに振り被る。
「……終わらせるんだ……!! ……これで……!!!」
一閃。
その一撃は綺麗な軌道を描き、グランデの胸を切り裂いた。
「……がっ……!! な……なん……だと……」
グランデは仰向けに倒れた。
リュノンは歩みを止めず、彼の元へ。
「……終わりだ………」
グランデは虚ろな目をしながらピクリとも動かない。
そんな彼を険しい顔で見つめるリュノン。
――――だが、
「(ば……馬鹿め……!!)」
一瞬にして、倒れていたグランデが消えた。
代わりに、すぐ側で倒れていたグランデが立ち上がった。
そして逃げる。
足を引きずりながら、リュノンから離れていく。
「……知ってるよ」
だがリュノンはすぐに剣をグランデへと投げた。
その剣はグランデの右足に突き刺さり、彼は勢いよく倒れ込む。
「ぐ……ああ………チクショウ………」
「……終わりだな、グランデ」
今度こそ。
グランデはリュノンの前に跪き、天を仰いだ。




