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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第八章
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第二百二十九話 『痛み』

 ――――何を言っているんだよ。


 嘘でもそんなこと言っちゃいけない。

 そんな簡単に命を投げ捨てちゃいけない。


 お前を護るのは、俺の方だ。

 これまでもこれからもずっと、俺が護らなくちゃいけないんだ。


 ……でも、声が出ない。身体が動かない。

 

 今すぐ、ルージェの元に立たなくてはいけないのに。

 声を挙げて、奴らをぶっ飛ばさなきゃいけないのに。 


 「――――お願い……します……!!」


 「……お兄ちゃん……か…………。ふんっ、まあいいわ。仕方ないから。こいつは殺さないであげる」


 「……!! あ……ありがとうございます……!!」


 ――――だから何を言っているんだよ。

 

 なんでお礼なんて言ってるんだ。

 自分がどんなお願いをしたのか分かっているのか……?

 このままじゃお前、あいつに……。


 「――――でももちろん、ただってわけじゃない。あんたの言うように、あんたと引き換えにね」


 「……はい……分かっています……」


 「……けど、別にあんたの命はいらないわ。あたしは人殺しが好きなわけじゃないからね。――――だから、あんたの自由をもらうわ。それでどう?」


 ――――何を言っているんだこの女も。


 自由をもらう?

 どういう意味だよそれは……

 

 「おいおいプティマ!! 何だよそれ!! お前何言ってるんだ!?」


 「うっさいわねキャトロング。こいつをどうするかは、あたしが決めんのよォ!! 黙ってて!! ――――で、どうなのよあんた?」


 「……はい……お兄ちゃんを助けてもらえるなら……」


 「決まりね」


 ――――ちょっと待ってくれ……。

 

 何が決まったんだ……。

 どういうことなんだ……。


 ルージェに、何をするつもりなんだ……。


 「じゃ、とりあえず一緒に来てもらうわよ。あんた」


 「……一緒に来てだと!? プティマ!! なんでそんなことをするんだ!?」


 「だからうっさいわァ! いいじゃない!! こいつも盗品の一つってことよォ!!」


 「……いや、そんなことボスがなんというか……!!」


 ――――なんだと……?


 こいつら、ルージェを連れ去るつもりなのか……?

 ふざけやがって……。何のために……。

 

 ……ルージェ……。

 

 なんでそんな平気そうな顔をしてるんだよ。

 もっと泣いてくれよ。

 受け入れられないって、そんな風な顔をしていてくれよ。

 

 まるで、現実を冷静に受け止めているみたいじゃないか。

 こんな顔してる俺の方が子供みたいじゃないか。


 「そんなの、帰ってから説明すればいい話じゃないィ!! きっとボスは頷いてくれるわァ!!」

 

 「そうじゃない……!! ボスが何と言おうと、ボスに許可を貰う前に連れて行ってしまうことが問題なんだ……!! ……もう帰るぞプティマ……!! ここでの収穫はもう十分だ!!」


 「……じゃあ……!!」


 「――――構わないぞ。プティマ」


 「……え……? ええ……!? ボス……!?」


 ――――なんだあいつは……。


 ボス……?

 あいつが……ボス……。

 ってことは、これは全部、あいつのせいってことなのか……。

 

 許せない……。

 お前の顔……絶対に忘れないぞ……。


 「ボス! なぜここに!!」


 「ルコートに呼ばれてきたのだ。くだらん言い争いが終わらないとな。だから、俺が終わらせる。許可するぞプティマ。こいつを連れて帰るのを」


 「さっすがボスゥ!! 話が分かるゥ!!」


 「……では、さっさと帰るぞ。ルコートが見張っているとはいえ、長居はできん」


 「了解!!」


 ――――おい。


 ルージェから離れてくれ。

 ルージェの手を掴まないでくれ。


 俺から、ルージェを奪わないでくれ。


 頼むから動いてくれ、俺の身体。


 「…………またね……。お兄ちゃん……生きてね」


 「……!! ルー……!!!」


 ――――消えた。


 奴らも、ルージェも。

 一瞬で、消えた。


 やっぱり、俺の身体は動かない。

 

 なんなんだよ。

 妹の命で護ってもらって、何が『兄』だ。

 

 情けねえ。

 どうしようもないな、俺。


 「うう……!! う……ああ………!! ルージェ……!!!!」


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ――――それから俺は、ルージェを探すために村を出た。

 

 しかし数日後、あまりに前を見ずに行き過ぎたためか財産も底を尽き、帰れなくなってしまった。

 

 路頭に迷う中出会ったのが、ケバローという男。

 彼は、聖鳳軍という組織に所属していた人間で、俺を助けてくれた。

 それから俺は、このケバローという人に、お世話になった。

 

 ルージェがいなくなったツインフランに帰るのは、どうしようもなく耐えられなかったから。


 彼に協力を仰ぎながら調べていく内に、奴らの名前が「グランデ盗賊団」であることと、誰も奴らの行方が分からないということを知った。

 

 でも、俺が必ず見つけてやる。

 俺が、奴らを終わらせてやる。


 そう心に誓い、俺も聖鳳軍に加入した。

 何年も鍛錬を積みながら戦い抜いてきた。


 全ては――――奴を倒すために。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 「――――そうだ……!! そうだよ……!!」


 「……んっ!? 何言ってるんだ……!! さっさと……死…………っ!?」


 「『あの日』の痛み……『あれから』の痛みに比べたら…………こんなモン……痛みですらねえ!!!」


 「……なっ……!! ば……馬鹿な……!!!」


 過去を見たリュノン。


 その過程で得た痛みが彼の身体を奮い立たせる。

 胸には短剣が突き刺さり、足にも穴が空いているが、彼は戦意を宿しながら立ち上がり、グランデを押し返した。


 そして胸の剣を抜くと、腰を地面に着けているグランデに振り被る。


 「……終わらせるんだ……!! ……これで……!!!」


 一閃。

 

 その一撃は綺麗な軌道を描き、グランデの胸を切り裂いた。


 「……がっ……!! な……なん……だと……」


 グランデは仰向けに倒れた。

 リュノンは歩みを止めず、彼の元へ。


 「……終わりだ………」


 グランデは虚ろな目をしながらピクリとも動かない。

 そんな彼を険しい顔で見つめるリュノン。

 

 ――――だが、


 「(ば……馬鹿め……!!)」


 一瞬にして、倒れていたグランデが消えた。

 代わりに、すぐ側で倒れていたグランデが立ち上がった。


 そして逃げる。


 足を引きずりながら、リュノンから離れていく。


 「……知ってるよ」


 だがリュノンはすぐに剣をグランデへと投げた。

 その剣はグランデの右足に突き刺さり、彼は勢いよく倒れ込む。


 「ぐ……ああ………チクショウ………」


 「……終わりだな、グランデ」


 今度こそ。


 グランデはリュノンの前に跪き、天を仰いだ。

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