第二百二十八話 『助け合う』
「――――起きて……ねえ、お兄ちゃん、起きて……!!」
「…………ん、ああ、おはよう、ルージェ」
明朝。
二人暮らしももう長い。
でも、いつからだろうか。
ルージェがこうして、朝食を用意して起こしてくれるようになったのは。
「――――お兄ちゃん、今日は、何の仕事?」
「ああ、向かいのおじさんに畑仕事手伝ってって言われてるんだ。ルージェは?」
「私はいつもと同じ。お店の手伝いだよ」
「そっか、頑張れよ」
「お兄ちゃんもね」
これもいつも通り。
二人で食卓を囲みながら、他愛もない会話をする。
ルージェはお店を手伝うようになってから、うんと料理が上手になった。
毎日のように、リュノンに料理を振舞ってくれている。
申し訳ない。
そんな思いが無かったわけではないが、それ以上にルージェが楽しそうにしているのが、何より嬉しかった。
「――――じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい、お兄ちゃん」
これだけでよかった。
これが続いてくれさえすれば、それだけでよかった。
ここまでは――――いつも通りだったのに。
「(……よし、私も行こ)」
リュノンを送り出して家の片づけをした後、幼いルージェも仕事に出る。
毎日、同じ景色を見ながら職場へと向かう。
でも、いつもと違うところが、一つだけあった。
「……あれ? 誰であろうあの人たち……」
出入口付近に、村の様子を覗いているような二つの影があった。
村の人たちは気にしていない、あるいは気づいていなかったのかもしれないが、ルージェはその姿に強い不安を覚えた。
「……あっ……。急がないと……」
だが、これ以上気を取られては、約束の時間に遅れてしまう。
何事も無いことを祈りながら、ルージェはその場を後にした。
その、二人は――――
「……どうするの? キャトロング」
「いい感じの村じゃないか? 近くにヤバいのはいないし、結構働き甲斐がありそうだ。……でもま、そんな急ぐ必要はない。一旦、ボスのところに戻ろう」
「りょーかい」
消えた。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――数時間後。
「――――おおしっ! 今日のところはここまでにするかっ! いつもありがとなリュノン!!」
「はいっ!! お疲れ様でしたっ!!!」
畑仕事を終えたリュノン。
お駄賃を頂き、家路につく。
「(……意外と早く終わったな……。そうだ、今日は俺が、作ってやるか……!!)」
ルージェよりも早い帰宅。
いつも頑張っている妹の分を自分が担当しようと考えるリュノン。
そう考えたら、少し帰りの足が速くなる。
リュノンは笑顔を浮かべながら、家へと急いだ。
――――しかし、
「……!! なっ……なんだっ……!!?」
村の様子が変だ。
遠くから悲鳴が聞こえる。
地が揺れている感覚がする。
「……!! ……ルージェ……!!」
リュノンは悲鳴が聞こえた方。
そして、ルージェが働いている店がある方へ。
「……え……!! なんだ……あいつら……!?」
原因が見えてきた。
二人の人間が村を襲っている。
さらに、村の入口にもう一人いる。
「…………どうすれば……」
こんな辺鄙な村に強盗が来るなんて。
この村に戦えるような人はいない。
どうすればいいんだ。
「――――や……やめてください……!! それは……娘の……!!」
「!! くっ……!!!」
強盗の一人が、若い母親から物を取り上げているのが目に映る。
宝石がついている帽子だ。
「結構いいモン持ってるじゃないィ! あたしたちが来た記念に貰ってあげるわァ!!」
奪われた。
何の罪もない人間が、目の前で大切な物を奪われた。
いくら力がないとはいえ、こんな暴挙を黙って見過ごせるだろうか。
――――この少年には、それはできなかった。
「やめろおっ!!!」
武器も力も持たない子供が、悪に掛けて行った。
「……はァ? 何アンタ」
「ぐああっ!!」
当然、跳ね返される。
喧嘩もしたことのない小さな子供と、犯罪組織育ちの少女。
勝負にすら、ならない。
「――――さて、次行こうかしらァ」
「…………くっ……。……ま、待て……!!」
だが、彼はもう一度突撃した。
近くに落ちていた棒を手に取り、背を向けた賊目掛けて、再度。
「えェ? ……つゥっ……!!!」
その突撃は幸か不幸か、敵に傷を与えるに至った。
思い切り棒を足元に突き刺し、敵は躓いたように膝を着く。
「……はあ……はあ……返せっ!! さっきあの人から取った物を!! 返せっ!!!」
この時、リュノンはまだ知らなかった。
敵を追い詰めれば、それがまた、自分に返ってくる危険があることを。
何もしないことが、最善であることもあることを。
「……はァ……? 何してくれんのよ。傷……ついちゃったじゃないっ!!!」
「ぐあっ……!!!」
「調子に乗るんじゃないわよォ!! あんたァ!!」
敵の怒りを買ってしまった。
子供だからといって全く容赦はない。
周りの大人に、助けられるような力はない。
助けを呼びに行くことすら許されない。
リュノンはボコボコに打ちのめされた。
「おいおいプティマ! 何してんだ!? お前も仕事しろって!!」
様子を見に来たもう一人の方が女を制止する。
彼の全身には、村全体から奪った物が見える。
「このガキっ! このあたしの足に傷つけやがったのよォ!!」
「……まあ、別に止めはしないがよ。殺るんなら、早めに終わらせてくれ。長居はできないぞ。俺の仕事はもう終わった」
「……ちっ……!! 分かったわよォ……」
「(……くそっ……。こいつら……絶対に許さねえ……。けど……俺には、そう思うことしかできない……)」
無力さに打ちひしがれながら倒れるリュノン。
そんな彼を容赦なく殺そうとするプティマ。
その暴挙を、止めることのできる人間はいなかった。
ただ一人を除いては。
「――――やめてえ!!! お願い!! やめてえ!!!」
「(……!! ルージェ……!! なんで……!!)」
異変を感じ走って来たのは、ルージェ。
ルージェは兄の元に行くと、大粒の涙を流しながら頭を深々と下げる。
「……何? あんた」
「お願いしますっ!! お兄ちゃんを殺さないでくださいっ!!」
「……お兄ちゃん……? こいつが……?」
「はいっ……!! 助けてください!! 辞めてください!!! ……お兄ちゃんの代わりに、私を殺してくださいっ!!!」
ルージェ涙の懇願。
プティマはその姿に動かされるものがあった。




