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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第八章
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227/269

第二百二十六話 『二つの牢獄』

 「……!! ルコート……!?」


 リュノンと戦闘中のグランデには、ルコートが急に倒れたように見えた。

 リュノンの方も、迫って来ていた彼が歩みを止めたことに驚いている。


 しかし、すぐにその理由を察した。


 「(……そうか……!! ありがとう……ショウエイ……!!!)」


 巨大なグローブに野球ボールのように掴まれている、友の仕業だと。

 

 ルコートは動けなくなった。


 意識は辛うじてあるものの、もう虫の息って感じだ。


 そして、その翔英は――――


 「……あれ……? あれ……!? 出られないぞ……? これ……!!!」


 でかすぎて持ち上がらない。

 人が通れるような出口もない。

 完全に、閉じ込められてしまっている。


 「……まじかよ……。なんなのこれ……!?」


 このサイズまでなってしまったグローブは、基本的には外からでないと持ち上がらない。

 常人ならざるパワーを持っていれば話は別だが、翔英にそれほどの力はない。


 ルコートに遠距離攻撃を当てられたとはいえ、これ以上リュノンに加勢することはできない。

 それどころか、ここから動けない。


 向こう側の景色も少ししか見えない。

 クローゼットの隙間から外を見ているかのようだ。


 「……くそっ……! またかよ……!!! やられた……!!」


 ルコート。

 腐っても長年にわたり逃げ延びてきた集団の一人。

 

 何もせずには、くたばってくれない。


 「……ルコート…………。……おのれっ……!!」


 一人無力化してくれた仲間を称えながらリュノンに挑むリーダー。

 四体のリュノンはその攻撃を華麗に躱しながら、後方の巨大グローブに目を当てる。


 「……ショウエイ……!! 必ず後で出してやるから……少し待っててくれ……!!!」


 ここでまた、グランデから目を離す訳にはいかない。

 せっかくこうして拳を合わせるまでに追い詰めているのだ。

 友の救助は後回しにするしかない。


 「おらっ!!!」


 リュノンの四連コンボが決まった。

 グランデは身体をふら付かせ、構えていたガードを解く。


 「(……とりあえず……!! こいつの動きを止めねえと……!! 裁くのはそれからだ……!!!)」


 敵の足が動かなくなるまで、拳を振り続けるリュノン。

 グランデも中々タフだが、さすがに人間。

 足元がおぼつかなくなっていく。


 「……!! 貴様……!! 俺が……こんなところで…………」


 今日の朝では、いつも通り何もない日が始まると思っていた。

 まさか、ここまで追い詰められることになるとは。


 足掻き続けるグランデだが、徐々に敗北が見えて来る。

 

 そんな彼の心情を、側にいた男が感じ取っていた。

 そして、その考えを吹き飛ばそうと、動かない手を必死に持ち上げる。


 「(……ボス……ボス……!!! あなたはこんなところで終わってはいけない……!! さらに先へ行かなくてはならない……!!! だから……俺の…………!!!)」


 「……!! ルコート……!!!」


 巨大なグローブ。

 それを、リュノンに向かって投げた。


 「……えっ……!?」


 リュノン四人がすっぽりと包まれるほどの巨大な監獄。

 グランデに集中していたリュノンは、不意を突かれ閉じ込められた。


 「(……頼むボス……。行ってくれ……!!!)」


 「助かった。ルコート」


 声は届いていない。

 だが、想いは完全に届いた。


 グランデは理解している。

 

 盗賊団は、頭の自分さえ生き残っていれば、いくらでも立て直すことができると。

 

 逆に自分がいなければ、盗賊団の存続は不可能。

 それは、活動の根幹の力にしてもそうだし、士気の部分でもそうだ。


 だから、キャトロングやプティマにも、そのために犠牲になってもらった。

 

 別にあの二人に無関心だったわけじゃない。

 ただ、優先すべき者を優先しただけのことだ。


 ルコートはそれを理解している。


 何よりも無事に逃げなければならないのは、ボス。


 彼さえ生き延びれば、ルコートの生きる意味が閉じることはない。

 そう、これでいいんだ。


 グランデは森の方へ一人、一目散にダッシュして行った。


 「(――――くそっ……!! なんで……!! ショウエイの方に……!!)」


 突如現れた暗闇に動揺を隠せないリュノン。

 

 このグローブはショウエイの方に使っているはず。

 なぜ、もう一個飛んできた。

 

 見えないが、ショウエイの方のを持って来たのか?

 だとしたら、今のショウエイは――――


 そう考えるリュノンだが、翔英の方も依然閉じ込められている。


 ――――なぜか。


 ルコートは、グローブを予め二つ用意していたから。

 

 グランデの力は、物にも有効。

 本体と霊体のグローブの二つを、彼は所持していた。


 このグローブは伸縮自在。

 隠していたのだ。


 「(……よし……。……必ず……逃げてくれ……ボス………)」


 最期の一仕事を成功させたルコート。

 今度こそ、完全に意識は消え去った。


 だが、彼が眠ろうが死のうが、グローブが開くことはない。

 一度閉じた物は、そのままだ。


 「……ヤバいっ……!! あいつが逃げっ……!! ……はっ……!!」


 突然思わぬ妨害を喰らったこと。

 そして、長年追い続けてきた男を追い詰めたのに、またしても離れて行ってしまうことに激しく動揺するリュノン。


 だが、こういう時こそ冷静にならなければならない。


 リュノンは再びクレバーさを取り戻し、壁の向こうに分身を出した。

 ほとんど闇に包まれたしまったために忘れそうになっていた。

  

 翔英がやったように、僅かな隙間を確認し、突破口を見つけ出す。


 そして、中に閉じ込められている自分たちも削除。


 もう奴の姿は見えなくなっているが、そう遠くにはいないはずだ。

 急いで、森を抜けよう。


 ――――と、その前に、走り出そうとした分身も削除。

 

 リュノン本体が、ようやくこの場に参上したのだ。

 

 「……野郎……!! 絶対逃がすか……!!!」 


 正真正銘一人になり、身軽になったリュノン。

 ずっと感覚を増やしていたこともあり、何だか体力が回復した気もする。 

 グランデが抜けたであろう森を、猛ダッシュで駆け抜けて行った。


 そして――――


 「…………何が起こってんだろ……? 静かになったな……」


 今のリュノンの頭には、逃げて行った因縁の犯罪者しかない。

 時間的にも余裕はないので、しょうがないだろう。

 

 翔英はグローブに閉じ込めれたまま、その場に放置されてしまった。

 もう、みんないなくなってしまったことにも、気づかずに。

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