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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第八章
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225/270

第二百二十四話 『ひとりじゃない』

 ――――こいつだ。

 間違いなく、この男だ。


 覚えている。

 この男の顔を。


 「――――絶対に行かせない……!! ここで必ず……終わらせてやる……!!!」


 脱出を図るグランデとルコートに対して立ちはだかるリュノン。

 覚悟を決め、戦闘態勢に入る。

 この場所に集中するために、各地に散らばっていた分身を消去した。


 他にも仲間がいるんじゃないか?

 という心配はない。

 

 自身の記憶が証明している。

 こいつが、頭だということを。


 こいつを倒せば――――終わる。


 「……ルコート。二人でこいつを始末しよう」


 対するグランデがルコートに作戦を持ち掛ける。


 速攻でリュノンを突破する。

 それが彼の考えだ。


 リュノン一人ならば、勝てる。


 しかし、


 「……ボス。プティマが言っていた例の奴が、プティマ達の所にいる。――――そして、もう一人は、ここに向かってきている……」


 「……問題ない。その前にこいつを倒せばいいだけだ。プティマのところにいる奴がプティマに触れたとしても、ここには来れまい」


 「…………了解した……」


 渋々リーダーの提案を受け入れるルコート。

  

 ルコートの望みは、盗賊団の存続。

 それは、リーダーのグランデ無しでは絶対に成り立たない。

 自身を含めたメンバーの代わりはいくらでもいる。

 

 本心を言えば、グランデだけを先に行かせたいところだ。

 聖鳳軍の上位陣が何人も集まってきたら、勝ち目がない。


 ――――まあでも、リーダーの言う通り、さっさと終わらせてしまえば、何の問題も無いが。


 愛用のグローブを取り出すルコート。

 素手で構えるグランデ。


 リュノンは分身を近くに増やす。

 計三体。

 数だけで言えば、四対二になった。


 「――――ほう……。それが例のヤツか。こうして目の前にしてみると、何とも面白いものだな」


 「……ボス。こいつらは全員分身だ。この中に本体はいない。本体と思われる反応は、少し離れたところにある」


 「…………ちっ……」


 正解。

 リュノン本体は、今、こちらに向かってきているところだ。


 「そういえばそうだったな。――――と、いうことは、お前らを殺しても特に意味はないわけだ。……ま、お前の生死など、俺にとってはどうでもいいことだがな……!!」


 グランデがリュノンの元に走って来る。

 

 キャトロング戦に続き、素手での戦いを強いられるリュノン。

 だが、先の戦いのように、上手く工夫して戦えば丸腰でも勝てるはずだ。


 リュノンの方も動く。

 洗礼されたコンビネーションで、グランデを取り囲む。

 残り一人は、少し離れたところで、動いて来ないルコートをマークする。


 「おらっ!!」


 リュノンのコンボが炸裂。

 グランデもキャトロングと同じように、三発以降を受け止められない。


 「(――――そりゃそうだ……!! 俺は……お前を倒すためにここまで鍛え上げてきたんだ……!!! ただ盗みだけをしてきたようなお前に……!! 負けるはずがない……!!!)」


 気合いを込めながら、一撃一撃、仇敵に叩き込んでいくリュノン。

 これまでの雪辱を晴らすように。

 もう届かない想いをぶつけるように。


 「(……あいつが動いた……!!)」


 ルコートも動き出した。

 右手にグローブをはめながら、リュノンの陣の中に侵入。

 

 そして――――


 「何っ!!?」


 グローブを高く掲げると、人が入れるくらい巨大に膨らんだ。

 それをリュノン一体に振り下ろし、スポッとリュノンを包み込む。


 「げっ……!!! 何だこれっ……!!!」


 完全に不意を突かれたルコートの搦め手に怯むリュノン。

 と同時に、一瞬他のリュノンにも隙ができる。


 「でかしたぞルコート!!!」


 その隙を見逃さず、蹴りを喰らわすリーダーグランデ。

 

 クリーンヒット。

 グランデの蹴りは脇腹に直撃し、リュノンは苦しみながら吹き飛んだ。


 「ぐっ……!!!」


 当然、そのダメージは他のリュノンにも及び、それぞれが膝を着く。


 さらにもう一ッ発。

 グランデの拳が飛んできた。


 「ぐああっ……!!!」


 「お前のその分身、ダメージも共有しているのか。……なんて欠陥能力だ。――――もしかして、お前が死ねば本体も死ぬのか? いや、それとも死ぬ前に消えるのか? どっちにしろ、そんな力じゃ我々二人には勝てんぞ」


 「くっ……!!!」


 ――――こいつ、ただの盗賊じゃない。


 今のパンチもさっきのキックも、想像以上に重い。

 前に戦った奴の釣り竿よりも、何倍も効く攻撃だ。


 ――――舐めていた。

 会うことが出来れば、そこで決着がつくと思っていた。

 それは勘違いだった。


 『会ってから』が本番だった。

 こうして会って、勝つことが一番の壁だった。


 ……でも、負けられない。

 そうだとしても、負けられるはずがない。


 リュノンは立ち上がり、グローブに捕まっている分身を消去した。

 さらに一体、近くの分身二体を消去し、リュノンは一人に。

 

 そして、敵二人から少し距離を取った。


 作戦変更。

 こいつら二人相手にするには、的を増やすのは危険すぎる。

 

 だったら、こうして距離を取りながら時間を稼ぎ、待つ。

 

 「――――ほう……。意外に冷静だな」


 敵の考えを読み取るグランデ。


 確かに、リュノンにとっては勝負を急ぐ必要はない。

 待ちわびた仇敵に遭遇したことで動揺してしまったが、重い攻撃を受けたことで、普段のクレバーさを取り戻した。

 一定の距離を取りながら、二人の攻撃に備える手を選ぶ。

 

 「……だが、その作戦は正解とは言えんな」


 グランデが走り出した。

 リュノンは備える。


 同時にルコートも向かってきている。


 「(――――速い……!!)」


 警戒しながら後ろに下がるリュノンと、目の前の獲物目掛けて全力疾走するグランデ。

 当然、すぐに距離は縮んでしまう。


 「くそっ……!!!」


 拳を振るうリュノン。

 だがその間に、ルコートのグローブが挟み込まれる。


 「しまっっ……!!!」


 またしてもグローブは巨大化し、リュノンの身体を包み込む。

 そしてすぐにご開帳。


 目の前に、グランデの拳が飛んで来ていた。


 しかし、


 「何っ!?」


 その分身はタイミングよく消去。

 グローブが開いたタイミングを見逃さない。


 反対に――――


 グランデとルコートの後ろにそれぞれ召喚した三体の分身が、一斉に殴り掛かった。


 「ごおっ……!!」


 グランデの方には拳が炸裂。

 キャトロングに炸裂したように、無防備な顔面に同時攻撃。


 かつてないほどグランデはダメージを受けた。


 ――――しかし、


 「くっ……!!!」


 ルコートの方は、ブロックされてしまった。


 「反応が一気に増えたのでな。こうすることは分かっていたぞ。――――ふんっ……!!」


 受け止めた一人を殴り飛ばすルコート。

 リュノンは怯み、一斉に地面に倒れ込む。

 

 「やはり一人では、我らには勝てん。いくら分身を増やそうともな」


 「……いやっ……一人じゃないぜ……」


 「……!?」


 反応が遅れた。

 一気に増えたのは、分身だけだと思っていた。

 

 一人、違うのがいた。


 「よいしょ!!!」


 そいつは剣を持っていた。

 そして、さらに後ろからルコートを斬り付けた。


 「お待たせ! リュノン!!」


 「……待ってたぜ……ショウエイ……」


 ようやく、待っていた友人が駆け付けた。

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