第二百二十四話 『ひとりじゃない』
――――こいつだ。
間違いなく、この男だ。
覚えている。
この男の顔を。
「――――絶対に行かせない……!! ここで必ず……終わらせてやる……!!!」
脱出を図るグランデとルコートに対して立ちはだかるリュノン。
覚悟を決め、戦闘態勢に入る。
この場所に集中するために、各地に散らばっていた分身を消去した。
他にも仲間がいるんじゃないか?
という心配はない。
自身の記憶が証明している。
こいつが、頭だということを。
こいつを倒せば――――終わる。
「……ルコート。二人でこいつを始末しよう」
対するグランデがルコートに作戦を持ち掛ける。
速攻でリュノンを突破する。
それが彼の考えだ。
リュノン一人ならば、勝てる。
しかし、
「……ボス。プティマが言っていた例の奴が、プティマ達の所にいる。――――そして、もう一人は、ここに向かってきている……」
「……問題ない。その前にこいつを倒せばいいだけだ。プティマのところにいる奴がプティマに触れたとしても、ここには来れまい」
「…………了解した……」
渋々リーダーの提案を受け入れるルコート。
ルコートの望みは、盗賊団の存続。
それは、リーダーのグランデ無しでは絶対に成り立たない。
自身を含めたメンバーの代わりはいくらでもいる。
本心を言えば、グランデだけを先に行かせたいところだ。
聖鳳軍の上位陣が何人も集まってきたら、勝ち目がない。
――――まあでも、リーダーの言う通り、さっさと終わらせてしまえば、何の問題も無いが。
愛用のグローブを取り出すルコート。
素手で構えるグランデ。
リュノンは分身を近くに増やす。
計三体。
数だけで言えば、四対二になった。
「――――ほう……。それが例のヤツか。こうして目の前にしてみると、何とも面白いものだな」
「……ボス。こいつらは全員分身だ。この中に本体はいない。本体と思われる反応は、少し離れたところにある」
「…………ちっ……」
正解。
リュノン本体は、今、こちらに向かってきているところだ。
「そういえばそうだったな。――――と、いうことは、お前らを殺しても特に意味はないわけだ。……ま、お前の生死など、俺にとってはどうでもいいことだがな……!!」
グランデがリュノンの元に走って来る。
キャトロング戦に続き、素手での戦いを強いられるリュノン。
だが、先の戦いのように、上手く工夫して戦えば丸腰でも勝てるはずだ。
リュノンの方も動く。
洗礼されたコンビネーションで、グランデを取り囲む。
残り一人は、少し離れたところで、動いて来ないルコートをマークする。
「おらっ!!」
リュノンのコンボが炸裂。
グランデもキャトロングと同じように、三発以降を受け止められない。
「(――――そりゃそうだ……!! 俺は……お前を倒すためにここまで鍛え上げてきたんだ……!!! ただ盗みだけをしてきたようなお前に……!! 負けるはずがない……!!!)」
気合いを込めながら、一撃一撃、仇敵に叩き込んでいくリュノン。
これまでの雪辱を晴らすように。
もう届かない想いをぶつけるように。
「(……あいつが動いた……!!)」
ルコートも動き出した。
右手にグローブをはめながら、リュノンの陣の中に侵入。
そして――――
「何っ!!?」
グローブを高く掲げると、人が入れるくらい巨大に膨らんだ。
それをリュノン一体に振り下ろし、スポッとリュノンを包み込む。
「げっ……!!! 何だこれっ……!!!」
完全に不意を突かれたルコートの搦め手に怯むリュノン。
と同時に、一瞬他のリュノンにも隙ができる。
「でかしたぞルコート!!!」
その隙を見逃さず、蹴りを喰らわすリーダーグランデ。
クリーンヒット。
グランデの蹴りは脇腹に直撃し、リュノンは苦しみながら吹き飛んだ。
「ぐっ……!!!」
当然、そのダメージは他のリュノンにも及び、それぞれが膝を着く。
さらにもう一ッ発。
グランデの拳が飛んできた。
「ぐああっ……!!!」
「お前のその分身、ダメージも共有しているのか。……なんて欠陥能力だ。――――もしかして、お前が死ねば本体も死ぬのか? いや、それとも死ぬ前に消えるのか? どっちにしろ、そんな力じゃ我々二人には勝てんぞ」
「くっ……!!!」
――――こいつ、ただの盗賊じゃない。
今のパンチもさっきのキックも、想像以上に重い。
前に戦った奴の釣り竿よりも、何倍も効く攻撃だ。
――――舐めていた。
会うことが出来れば、そこで決着がつくと思っていた。
それは勘違いだった。
『会ってから』が本番だった。
こうして会って、勝つことが一番の壁だった。
……でも、負けられない。
そうだとしても、負けられるはずがない。
リュノンは立ち上がり、グローブに捕まっている分身を消去した。
さらに一体、近くの分身二体を消去し、リュノンは一人に。
そして、敵二人から少し距離を取った。
作戦変更。
こいつら二人相手にするには、的を増やすのは危険すぎる。
だったら、こうして距離を取りながら時間を稼ぎ、待つ。
「――――ほう……。意外に冷静だな」
敵の考えを読み取るグランデ。
確かに、リュノンにとっては勝負を急ぐ必要はない。
待ちわびた仇敵に遭遇したことで動揺してしまったが、重い攻撃を受けたことで、普段のクレバーさを取り戻した。
一定の距離を取りながら、二人の攻撃に備える手を選ぶ。
「……だが、その作戦は正解とは言えんな」
グランデが走り出した。
リュノンは備える。
同時にルコートも向かってきている。
「(――――速い……!!)」
警戒しながら後ろに下がるリュノンと、目の前の獲物目掛けて全力疾走するグランデ。
当然、すぐに距離は縮んでしまう。
「くそっ……!!!」
拳を振るうリュノン。
だがその間に、ルコートのグローブが挟み込まれる。
「しまっっ……!!!」
またしてもグローブは巨大化し、リュノンの身体を包み込む。
そしてすぐにご開帳。
目の前に、グランデの拳が飛んで来ていた。
しかし、
「何っ!?」
その分身はタイミングよく消去。
グローブが開いたタイミングを見逃さない。
反対に――――
グランデとルコートの後ろにそれぞれ召喚した三体の分身が、一斉に殴り掛かった。
「ごおっ……!!」
グランデの方には拳が炸裂。
キャトロングに炸裂したように、無防備な顔面に同時攻撃。
かつてないほどグランデはダメージを受けた。
――――しかし、
「くっ……!!!」
ルコートの方は、ブロックされてしまった。
「反応が一気に増えたのでな。こうすることは分かっていたぞ。――――ふんっ……!!」
受け止めた一人を殴り飛ばすルコート。
リュノンは怯み、一斉に地面に倒れ込む。
「やはり一人では、我らには勝てん。いくら分身を増やそうともな」
「……いやっ……一人じゃないぜ……」
「……!?」
反応が遅れた。
一気に増えたのは、分身だけだと思っていた。
一人、違うのがいた。
「よいしょ!!!」
そいつは剣を持っていた。
そして、さらに後ろからルコートを斬り付けた。
「お待たせ! リュノン!!」
「……待ってたぜ……ショウエイ……」
ようやく、待っていた友人が駆け付けた。




