第二百二十三話 『取捨選択』
涙が止まらない。
考えてはいけないことが、次々に頭に浮かんで来る。
「――――大丈夫か……? 何があったんや……?」
彼女の状態は普通ではない。
異常だ。
今にも死にそうに見える。
ルナレジェンも錯乱するプティマの姿に動揺し、思わず心配の言葉を口にする。
だが、プティマは胸が痛くなるような小さな叫びしか挙げず、言葉は返って来ない。
「(……そうかあ……。本当は土の中なんかには出ないけど、なぜか今回出てもうたから……こんな動揺しとるんやな……。ま、無理もないか……。突然地面の中入るとか、信じられんもんな。しかも、ボクおらんかったら死んでたし……)」
と、プティマのショックな気持ちを察し、とりあえず座るルナ。
これはもう、敵の自分が声を掛けても意味がないだろう。
彼女の様子を見守りながら、休憩しよう。
そう考えたから。
――――だが、プティマはそんなことに頭を真っ白にしているのではない。
霊体を消したら、土の中にいた。
ということは、自身の本体は土の中に埋められていたことになる。
意味分からない。
今、本来ならプティマとキャトロングの本体は、グランデとルコートが脱出のために外に運び出しているはずだ。
それがなんで、土の中にあるんだ。
――――理由を必死に考えている。
なんのために、そんなことをする?
あんな言葉と笑顔で送り出してくれたのに。
「また会おう」って言い合ったのに。
土の中にいたんじゃ、もう会えないじゃないか。
――――まさか……。
いや、そんなはずはない。
きっと、何か理由があるはずだ。
そうせざるを得なかった、重要な理由が。
――――プティマは涙を拭き、震える身体を起こした。
そして、すぐ近くで座っているルナレジェンの元へ。
「――――ねえあんた……。一個だけお願いがあるの……」
「……お、もう大丈夫なんか。……なんや? お願いって……」
「あたしに……ボスに会う時間をちょうだい……!! それだけしてくれたら……なんでもいう事聞くから……!! まだあたしを捕まえないで……!! どうしてもボスに聞きたいことがあるの……!!」
今、一人でここから逃げようとすれば、間違いなくルナレジェンに捕まってしまうだろう。
その実力差は、先の攻防で嫌というほど分かっている。
だから、プティマは彼女の情に訴えてみた。
このまま、ボスに会えないで終わるなんて、そんなの絶対に嫌だ。
聞かなくては。
ボスの意図を。なぜこうなったのかを。
――――だが、
「……そらちょっと都合が良すぎるな。君、ボクにお願いできる立場ちゃうで」
断った。
「えええェ!!? ちょっとォ!! ……お願いィ!! 頼むわよォ……!!」
「だって君、ボクおらんかったら生き埋めんなってたんやで。しかも君、めっちゃ悪いやん。これまで自分が何してきたか、分かってないわけないやろ? そんな君の頼み、受け入れる方が難しいで」
「……………そ……それは…………そうだけど…………」
いくら直情的なプティマと言えど、反論の余地が全くない。
こっからどうやって説得すればいいのか分からない。
でも、「会いたい」という想いは本当だ。
そこを武器に、何とかこいつを動かすしかない。
「ねえ、お願い……!!! 助けてもらったことは本当に感謝してる……!! ありがとう……!! それに、今はみんなに本当に申し訳ないと思ってる……!! ごめんなさい……!!! ――――だから……!! あたしをボスに会わせて……!!!」
「……アホか君。お願いすんの下手すぎやろ」
「なッッッ!!!?」
なんてひどい女だ。
氷山のように冷たい女だ。
この気持ちと言葉は、嘘ではないのに。
これだけ言っても、全く聞き入れてくれないなんて。
度重なるショックにまた折れそうになるプティマ。
そんな彼女を見たルナは、彼女が膝を着く前に口を開く。
「…………ま、でも、分かった。君らのボスには、会わせたる。――――でも、ボクの質問に答えてからや」
ルナレジェンは信じている。
きっと今頃、リュノンがそのボスって奴を捕まえようとしているところだと。
森から脱出しようとすれば、必ずリュノンの包囲網に引っ掛かるはすだ。
満身創痍の自身の仕事は、こいつをボスに合流させないこと。
大分盲信しているようだし、ボスの元へ向かわせたら何をしでかすか分からない。
今ならなんでも答えてくれるらしいし、こいつから情報を絞り出すのが先決だ。
「ボスに会わせる」
これも別に嘘じゃない。
「監獄で会わせてあげる」
そういう意味だ。
「ええェ!? ……そんな時間ッ……!! ……まあいいわ……。きっとボスは、また来てくれるだろうし……」
一瞬反発しそうになった自分を慌てて抑え込み、ルナレジェンの質問を承認するプティマ。
そう言ってくれただけでも感謝だ。
今は過程の取引をしている場合ではない。
かといって、こいつにマークされている以上、自由に動くことはできない。
できるだけルナの気を済ませ、早くボスの元へ行かなくては。
それに、このままボスが見捨てていくとは考えにくい。
必ず、助けに来てくれるはずだ。
――――だが、その期待は幻想にすぎない。
グランデの特殊能力は、霊体を飛ばす以外に、もう一つ存在している。
それは、物に空洞を開閉する力である。
彼らのアジト。
それは、この森の中心にある最も巨大な大木の中にある。
グランデはこの能力で大木にスペースを作り、そこに快適な空間を形成しているのだった。
傍から見れば、何もない木に見える。
彼らはその能力を持って、ずっと隠れ続けてきた。
――――そして、グランデとルコート。
二人はあの後、大木から出て予定通り森から脱出を図った。
だが、その後すぐグランデは、背負っていたプティマとキャトロングの肉体を能力を使って地に埋めた。
時間が無いので、そんなに深いところではないが。
理由は二つ。
二人を背負った状態では、リュノンたちから逃げられないと判断したから。
そして、ルナがこうして追ってきた時のためである。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ルナレジェンとプティマ&キャトロングが戦闘を行っていた頃――――
「――――お前……!! これ以上は進ませないぞ……!!!」
逃亡を図るグランデとルコート。
当然、出入口付近にいっぱい配置していた、監視を飛び越えることはできない。
彼らの前に、リュノンが立ちはだかっていた。




