第二百二十二話 『闇の中』
――――皆のためなら、ボスのためなら、なんだってやる。
あたしたちは、ボスに返しきれない恩がある。
あたしは、ルコートとキャトロングよりも、後に盗賊団に入った。
だから詳しいことは知らないけれど、きっと二人もボスに助けられたのだろう。
ボスはあたしに、奪う側に成れるやり方を教えてくれた。
ただ生きているだけだったあたしに、生きる意味や楽しさを与えてくれた。
だから、そのきっかけをくれた仲間たちのために、あたしは戦う。
それが、恩に報いるってことだ。
ボスも、あたしたちを信頼してくれている。
表情や言葉から、それは手に取るように分かる。
誰かのために頑張れるって、すごいこと。
それに、特別なこと。
あたしは――――幸せだ。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――ルナレジェンは予想していた。
それは、消えることができることだけではない。
「所有している物も一緒に移動することができるのではないか」と。
現に、宝を移動させているのだ。
移動地点は奴らのアジト。
当然、そう考えていたルナ。
こいつらと一緒に飛んでいけば、さらに近づくことができると踏んでいた。
だからルナは、敵が能力を使う素振りをするのを待ち、そのタイミングを逃さず手を取った。
その考えは――――半分正解。
「(――――っつ…………!! な……なんや……これは……!!!)」
プティマと一緒に飛んだルナレジェン。
一瞬にして現れた光景、そして自身を襲う死を感じるほどの苦しみに、顔を歪める。
――――真っ黒。
一瞬、視界に移ったのは、ただそれだけ。
さらに、身体が壊れるような圧迫や痛みが全身を襲っている。
息をすることもできない。
生命の危険。
それを感じるのに十分すぎるような環境に、一瞬にして飛ばされた。
「(……は……鼻がっ……目がっ……!! ……これはまさか……!!!)」
真っ暗闇と痛みに適応するため、目と鼻をモグラに変化させるルナレジェン。
彼女の視界に、プティマの姿が映る。
プティマも死に掛けだ。
意識がない。
そのすぐ近くには、同じく死に掛けているキャトロングの姿も見える。
「(……なんてこった……最悪や……どうなっとんねん……!!!)」
――――この感触。
ここがどこなのか。
信じられないが、答えはすぐに分かった。
土の中。
ここは、土の中だ。
急に地面の下に飛ばされた。
命の危険を感じる苦しみは、それによるものだ。
後数分で、確実に窒息死する。
「(……アカン……!! 早く……出ないと……!!)」
一番適している動物は何か。
そんなことを考えている余裕はない。
ルナは急いで腕もモグラに変化させ、地上への脱出を図る。
――――が、
「(ちいっ……!!)」
見殺しにするのは気分が悪い。
こんな状況でも、悪人相手でも、そう考えてしまったルナレジェン。
二人を引っ張りながら、上へ上へと掘っていく。
少し空間ができると、そこに二人を置き、さらに光が刺す方へ。
こんなところで死ぬわけはいかない。
それに、こんな死に方なんて絶対に御免だ。
ルナはひたすら腕を動かしまくった。
生きるために。
「(……もうちょっと……や…………でも…………マジで……しんど……)」
突き上げた手に光が掛かった。
すかさず腕を巨大化させ、大きな出口をこじ開けた。
「ぶはっっっ……!!!!!」
顔を出して一日分の酸素を取り込むルナ。
人間として光を浴び、大きく息を吸い込んだ。
「……マジで…………死んだかと思ったわ……」
数分の間だが、人生最大の「死ぬかと思った」出来事から、脱出できた。
だが、一時的に限界以上の全力を行使したためか、もうあちこちが痛すぎる。
「……おっと……いかん……」
ここまで連れてきたんだ。
忘れてはいけない。
ルナは再び地に突っ込み、プティマとキャトロングを引き上げた。
「…………こっちは生きとる…………。……こいつも、人間ちゃうな……」
生死確認完了。
プティマの方はまだ息がある。
キャトロングの方は死んでいた。
ルナレジェンにボコボコにされた状態かつ、プティマより少し早く地面に飛び込んでいたのだ。
致し方無い。
「……それにしても、どうなっとんねん……。なんで土の中に……。意味分からんすぎるやろ……」
息を切らしながら地面に寝転ぶルナレジェン。
あの森の中とは分かるが、ここがどの辺りか分からない。
リュノンと翔英の助太刀に行きたいのは山々だが、今すぐには叶いそうにない。
……いや、それよりも、こいつらに「意味分からんさっきの出来事」の説明を願いたい。
だって、意味分からなすぎるから。
「……しゃあないな……」
ルナレジェンは生き残った方のプティマの元へ。
指をストローのように変化させ、身体の中に入ってしまっている土や、付いている汚れを取り除いていく。
代わりに、少量の水魔法で潤してあげた。
「――――はっ……!!!」
早。
まだ十分も経ってないのに、プティマがもう目を覚ました。
「おはようさん」
「……!! あんた……!! ……何が……どうなって……!!!」
目覚めて早々、勢いよく辺りを見渡すプティマ。
一番最初に目に入っての敵の女。
その次に、つまらない木々。
そして、
「キャトロング!!!」
「……すまん。そいつは死んでもうた」
「……くっ……あんたっ……!! よくも……!! ……えっ…………!!! ……何よ、この変な感じ……!! ――――はっ……!!!」
口や鼻の中の違和感。
身体の匂い。
普通じゃない。
そして、気絶する直前に見えた、信じられないような体験を思い出す。
「…………な……なんで…………」
「……悪いな。君にちょっと聞きたいことがあるんやけど、なんでボクら土の中に出たの? どういう仕組みなん?」
「…………土……の中…………」
「うん。マジでびっくりしたわ。死ぬかと思ったで」
「…………し…………しらない………しらないわ………」
顔面蒼白。
激しい動揺と胸の苦しみで、頭が回らなくなっていく。
「……知らない? そんなわけないやろ。だって君、さっき消えてたやん。そん時はどうなったん?」
「知らないって言ってんでしょ!!!!」
事実が飲み込めない。
全てが飲み込めない。
自身が土に出た理由を必死に探し回るが、答えは一つしか見つからない。
――――涙が流れてきた。
そして、プティマは膝から勢いよく崩れ落ちた。




