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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第八章
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第二百二十二話 『闇の中』

 ――――皆のためなら、ボスのためなら、なんだってやる。

 あたしたちは、ボスに返しきれない恩がある。

 

 あたしは、ルコートとキャトロングよりも、後に盗賊団に入った。

 だから詳しいことは知らないけれど、きっと二人もボスに助けられたのだろう。


 ボスはあたしに、奪う側に成れるやり方を教えてくれた。

 ただ生きているだけだったあたしに、生きる意味や楽しさを与えてくれた。

 

 だから、そのきっかけをくれた仲間たちのために、あたしは戦う。

 それが、恩に報いるってことだ。


 ボスも、あたしたちを信頼してくれている。

 表情や言葉から、それは手に取るように分かる。

 

 誰かのために頑張れるって、すごいこと。

 それに、特別なこと。


 あたしは――――幸せだ。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ――――ルナレジェンは予想していた。

 それは、消えることができることだけではない。

 

 「所有している物も一緒に移動することができるのではないか」と。

 現に、宝を移動させているのだ。 


 移動地点は奴らのアジト。

 当然、そう考えていたルナ。

 こいつらと一緒に飛んでいけば、さらに近づくことができると踏んでいた。

 

 だからルナは、敵が能力を使う素振りをするのを待ち、そのタイミングを逃さず手を取った。


 その考えは――――半分正解。


 「(――――っつ…………!! な……なんや……これは……!!!)」


 プティマと一緒に飛んだルナレジェン。

 

 一瞬にして現れた光景、そして自身を襲う死を感じるほどの苦しみに、顔を歪める。


 ――――真っ黒。

 一瞬、視界に移ったのは、ただそれだけ。

 

 さらに、身体が壊れるような圧迫や痛みが全身を襲っている。

 息をすることもできない。

 

 生命の危険。

 それを感じるのに十分すぎるような環境に、一瞬にして飛ばされた。


 「(……は……鼻がっ……目がっ……!! ……これはまさか……!!!)」


 真っ暗闇と痛みに適応するため、目と鼻をモグラに変化させるルナレジェン。

 彼女の視界に、プティマの姿が映る。

 

 プティマも死に掛けだ。

 意識がない。

  

 そのすぐ近くには、同じく死に掛けているキャトロングの姿も見える。 


 「(……なんてこった……最悪や……どうなっとんねん……!!!)」


 ――――この感触。

 

 ここがどこなのか。

 信じられないが、答えはすぐに分かった。


 土の中。

 ここは、土の中だ。


 急に地面の下に飛ばされた。

 命の危険を感じる苦しみは、それによるものだ。


 後数分で、確実に窒息死する。


 「(……アカン……!! 早く……出ないと……!!)」


 一番適している動物は何か。

 そんなことを考えている余裕はない。

 

 ルナは急いで腕もモグラに変化させ、地上への脱出を図る。

 

 ――――が、


 「(ちいっ……!!)」


 見殺しにするのは気分が悪い。

 こんな状況でも、悪人相手でも、そう考えてしまったルナレジェン。 


 二人を引っ張りながら、上へ上へと掘っていく。

 少し空間ができると、そこに二人を置き、さらに光が刺す方へ。


 こんなところで死ぬわけはいかない。

 それに、こんな死に方なんて絶対に御免だ。

 

 ルナはひたすら腕を動かしまくった。

 生きるために。


 「(……もうちょっと……や…………でも…………マジで……しんど……)」


 突き上げた手に光が掛かった。

 すかさず腕を巨大化させ、大きな出口をこじ開けた。


 「ぶはっっっ……!!!!!」


 顔を出して一日分の酸素を取り込むルナ。

 人間として光を浴び、大きく息を吸い込んだ。


 「……マジで…………死んだかと思ったわ……」


 数分の間だが、人生最大の「死ぬかと思った」出来事から、脱出できた。

 

 だが、一時的に限界以上の全力を行使したためか、もうあちこちが痛すぎる。


 「……おっと……いかん……」


 ここまで連れてきたんだ。

 忘れてはいけない。


 ルナは再び地に突っ込み、プティマとキャトロングを引き上げた。


 「…………こっちは生きとる…………。……こいつも、人間ちゃうな……」


 生死確認完了。

 プティマの方はまだ息がある。

 

 キャトロングの方は死んでいた。

 ルナレジェンにボコボコにされた状態かつ、プティマより少し早く地面に飛び込んでいたのだ。

 致し方無い。


 「……それにしても、どうなっとんねん……。なんで土の中に……。意味分からんすぎるやろ……」


 息を切らしながら地面に寝転ぶルナレジェン。

 あの森の中とは分かるが、ここがどの辺りか分からない。

 リュノンと翔英の助太刀に行きたいのは山々だが、今すぐには叶いそうにない。


 ……いや、それよりも、こいつらに「意味分からんさっきの出来事」の説明を願いたい。

 だって、意味分からなすぎるから。


 「……しゃあないな……」


 ルナレジェンは生き残った方のプティマの元へ。

 指をストローのように変化させ、身体の中に入ってしまっている土や、付いている汚れを取り除いていく。

 代わりに、少量の水魔法で潤してあげた。

 

 「――――はっ……!!!」


 早。

 まだ十分も経ってないのに、プティマがもう目を覚ました。


 「おはようさん」


 「……!! あんた……!! ……何が……どうなって……!!!」


 目覚めて早々、勢いよく辺りを見渡すプティマ。

 一番最初に目に入っての敵の女。

 その次に、つまらない木々。


 そして、


 「キャトロング!!!」


 「……すまん。そいつは死んでもうた」


 「……くっ……あんたっ……!! よくも……!! ……えっ…………!!! ……何よ、この変な感じ……!! ――――はっ……!!!」


 口や鼻の中の違和感。

 身体の匂い。

 普通じゃない。 


 そして、気絶する直前に見えた、信じられないような体験を思い出す。


 「…………な……なんで…………」


 「……悪いな。君にちょっと聞きたいことがあるんやけど、なんでボクら土の中に出たの? どういう仕組みなん?」


 「…………土……の中…………」


 「うん。マジでびっくりしたわ。死ぬかと思ったで」


 「…………し…………しらない………しらないわ………」


 顔面蒼白。

 激しい動揺と胸の苦しみで、頭が回らなくなっていく。


 「……知らない? そんなわけないやろ。だって君、さっき消えてたやん。そん時はどうなったん?」


 「知らないって言ってんでしょ!!!!」


 事実が飲み込めない。

 全てが飲み込めない。


 自身が土に出た理由を必死に探し回るが、答えは一つしか見つからない。

 

 ――――涙が流れてきた。 

 そして、プティマは膝から勢いよく崩れ落ちた。

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