第二百十九話 『脱出作戦』
突然の謝罪、そして頼み。
ボスにこんな姿を見せられてしまっては、断れるはずもない。
「――――もちろんですよ!!」
プティマとキャトロングの二人が、同時に言葉を返した。
後ろにいるルコートもグランデの目をじっと見ながら頷いている。
「――――よし、じゃあ、お前たちに任務を与えるが……その前に言っておくことがある。ウェルビークで盗った物を取り返すことはできない。奴らのうちの一人はキャトロング以上、残りの二人の実力も読めない。既に奴が手にしているダイヤを含め、力づくで奪うことは難しいだろう」
「……まあ、別にいいわよ。またおんなじようなの盗ってくればいいだけだし……」
ほとんどの実行役は、キャトロングとプティマが担当している。
反対に、ルコートとグランデはバックアップを担当することがほとんど。
ウェルビークでの盗みに、最も貢献したのはプティマだ。
だから内心、少し嫌だったが。
謝罪の言葉を受けた直後とあっては、そう言わざるを得ない。
「ああ。それに今は、この森から『脱出』することを第一に行動したい。追跡の源を特定できなかった以上、さっきプティマが言っていた通り、ここが見つかるのも時間の問題だ。『引っ越し』するしかない」
今度のグランデの言葉には、先程よりも顔をしかめるプティマ。
盗賊団が活動を開始して以来、拠点を変更したことはない。
この場所はもはや、実家のように住み慣れた土地なのだ。
その思い出深い場所を急に現れた侵入者に追い出されるなんてたまったもんじゃない。
本来ならば返り討ちにしてやりたいところだが、強いって言うのもムカつき具合に拍車を掛ける。
でも、しょうがない。
捕まるよりは、何千倍もマシだ。
「……できるだけ持っていきたいが、奴らがいる以上、全てというわけにはいかん。それに、あまり時間も無い。プティマ、キャトロング、ルコート、お前たちが特に大切な物を並べてくれ。生活道具は、新拠点でまた調達しよう」
リーダーに言われるがまま、荷物を整理する三人。
キャトロングは、最も苦労して手に入れたある村に伝わる宝剣を。
プティマは、初めて成功した時に手に入れた、鳥型の時計をテーブルの上に置いた。
「……お前はいいのか? ルコート」
「ああ。俺たちにとって最も大切なのは、あんただ。それがあればいい」
「…………そうか……」
他にも諸々荷物を纏めたところで脱出作戦へ。
「……では、作戦を伝える。……キャトロングとプティマには、奴らの足止めを行ってもらいたい」
ルコートから敵の動きは確認済み。
今、三人がこの場所から少し離れたところを歩いており、分身の二十体が各地を捜索している。
出入口付近は特に警備が厳重だ。
常に三人以上が見張っている。
それらを考慮しても、この状況で飛び出すのは袋の鼠だ。
そんなことは全員分かっている。
だから、グランデの作戦に異を唱える者はいない。
「――――その隙に、俺とルコートが脱出を図る。脱出が完了したらこっちで戻す」
「……了解……!!!」
実に単純だが、彼らの運命が掛かっている重要な作戦。
一番厄介なリュノン軍団。
しかし、キャトロングが戦った時、戦闘では他の分身は消えていた。
一人が戦闘になれば、捜索が疎かになるのは明らかだ。
キャトロングとプティマの両方を、三人と出入口から最も離れた分身の所へ飛ばす。
そして戦闘になれば、ゴールが開くはずだ。
「――――では、また会おう。プティマ、キャトロング」
「待っててくださいよ!! ボス!!」
「ボス……行ってくるわね!!」
笑顔を見せた二人に手をかざすグランデ。
すると、二人の肉体から、身体が飛び出して行った。
向かう先はもちろん、リュノンの分身がいる所。
――――これこそが、グランデの能力である。
彼は触れた物や人から、実体を持った霊体を飛ばすことができる。
その霊体は同じ意識、同じ能力を持った分身のようなもので、いつでも消して本体に戻すことが可能だ。
さらに、霊体側の意思でも消すことができる。
また、霊体が所持している物も、同時に戻ってくる。
キャトロングやプティマがすぐにアジトへ帰還したこと。
そして、村を襲撃してすぐに消え、これまで足取りが全く掴めなかったことも、全てこの能力にある。
だが、飛ばすことのできる距離には限界があるという欠点もある。
ただし、戻す際にはその限りではない。
「――――ルコート、我々も仕事に掛かるぞ。奴らの分身が消えたら教えてくれ」
「……ああ……」
抜け殻になったキャトロングとプティマを寝かせるグランデ。
リュノンがいなくなったら、二人を背負い、荷物を持って脱出する算段だ。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――リュノンサイド。
「……リュノン、奴ら、そのダイヤ盗りに来てへんか?」
ゆっくりフラフラしながら森の中を進む翔英、リュノン、ルナレジェン。
狙いは、大丈夫と思わせて回収に来る奴らを叩くこと。
しかし、
「……いや、盗りに来ない……。他にも二人、変なの見つけたけど、そこにも来ない……」
その誘き出しは、グランデにギリギリ見切られている。
「……そうか……。長年逃げてきたこともあって、向こうも一筋縄じゃいかんようやな……」
焦りが出て来るルナレジェン。
宝を捨ててすでに脱出したか……?
もしそうなら、今日はもう終わりだ。
……いや、それは考えにくい。
『それができる』なら、とっくにそうしている。
脱出できないからこそ、あの女をよこして来たり、宝をバラまいたりしているのだ。
――――まだ、奴らはこの森のどこかにいる。
「……!! ルナレジェンさん……!! ショウエイ……!!」
「……どうした? リュノン」
「……俺の前に、二人……!! 来た……!!!」
「……なんやと……!?」
そう言っている間に二人、リュノンの元へ。
キャトロングとプティマが到着した。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――――よう、また会ったな、小僧……。さっきの借りを返しに来てやったぜ……!!」
「あたしたちの未来のために、あんたには消えてもらうわァ!!!」
「……!! 負けられるか……!! お前たちなんかに……!!!」
今度は、二対一。
リュノンの前に、キャトロング&プティマが立ちはだかる。




