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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第八章
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第二百十五話 『瞬間に』

 森林の奥、対峙する二人、いや、四人。

 キャトロングと、リュノン三人。


 釣り竿を振り回すキャトロングに対して、リュノンに武器はない。

 愛用の短剣は、入口付近にいるリュノン本体が所持している。

 さすがに、物を増やすことはできない。


 「行くぜっ!!!」


 伸ばした釣り竿を飛ばして来た。

 それを難なく回避するリュノン三体。


 フォーメーションを取りながら、三位一体で攻撃を仕掛けていく。

 

 釣り竿が飛んで行ってる間に、殴打を決めていくリュノン。

 その攻撃は確実に敵のライフを削っていく。


 だが、防戦一方のキャトロングが笑った。

 

 彼の飛ばした釣り竿が、リュノンの背中へと戻ってきている。


 「(馬鹿め……!! 串刺しだ……!!)」


 リュノンの分身は痛覚をも共有している。

 これが背中に刺さったら、一気に数倍のダメージが送られてしまう。


 「……おっと……! 危ねえっ……!!」


 ブーメランのように戻ってきた死角からの攻撃を回避するリュノン。


 だが、回避しても尚、竿は追撃を止めない。

 ……と、いうか、明らかに長さが伸びている。

 無限に長さを伸ばしながら、一体のリュノンを執拗に追い続けている。


 「どこまで逃げても無駄だ!! こいつは、対象を突き刺すまで自動で伸び続けるからなあ!!」


 一人が回避に手一杯になった。

 すると、攻めている二人も感覚が複雑になり、攻撃に重みがなくなっていく。


 「軽いぜ!!」


 主なリュノンの弱点は二つ。

 感覚の共有による動きが鈍ることと、深刻な火力不足。


 普段は短剣で補っているが、今はそれを持っていない。


 重みがなくなったリュノンの攻撃は弾かれ、キャトロングの片腕に押されてしまった。

 それによって回避のリュノンも反応が遅れ、竿が腰にカスってしまう。


 「っつ……!!」


 すぐに体制を立て直して逃げるリュノン。

 しかし、


 「あれあれ? 以外と大したことなかったな。ま、俺に勝てても、俺とこいつには勝てねえだろうぜ!!」

 

 釣り竿をタッグを組んで形成逆転のキャトロング。

 まず一体仕留めようと、両手で釣り竿を振り回し、さらに加速させた。


 「よっっしゃあ!!! まず一匹!!」


 回避のリュノンの胸に金具が突き刺さったのが見えたキャトロング。

 そのリュノンは苦しそうな顔をしながら姿を消した。


 「次!!!」


 自在に軌道を変え、釣り竿を二体目のリュノンへ。


 ――――だが、


 「うおおっ!!? ぎゃああ!!」


 キャトロングは思いっきり後ろから殴り飛ばされた。

 いつの間にか背後から忍び寄っていた六体のリュノンから、同時に顔面パンチを喰らった。


 油断していたところに一斉に右ストレート。

 キャトロングの顔面は鈍い音を立て、そのまま彼は気絶した。


 「……ふう…………」


 キャトロングが気絶したことで、無限に釣り竿も動きを止め、首を元のサイズに戻していく。

 どうやらこの武器はキャトロングのマナで操っていたようだ。


 リュノンは体力を温存すべく、増やしていた分身を一旦消した。


 ここまで――――完璧にリュノンの作戦通りだ。


 まず、釣り竿に追われていたリュノンを、刺さる直前に消去した。

 キャトロングはダメージが共有されていると思っていたため、そういう仕様だと勘違いし、仕留めた油断するに至った。


 そしてもう一つの作戦。

 リュノンは、少し離れたところにも、分身を出すことができる。

 さらに、本体が遠隔で発動すれば、本体からだけでなく、分身からも分身を出すことができる。


 ここは森に囲まれた戦場。

 

 リュノンは、こっそり木の影に計六体の分身たちを設置していた。


 後はもう、完全に油断した敵に攻撃を当てるだけ。

 弱点の火力不足は、一斉パンチで補った。


 戦闘経験の差で、リュノンの勝利だ。


 「……こいつ……どうしようか……」


 気絶している仇敵を目の前に、リュノンは考える。


 こいつが主犯ではない。

 頭を潰さなければ、盗賊団は止まらないだろう。


 自身の記憶を辿っても、リーダーと思われる男はこいつではないことは間違いない。


 こいつから情報を聞き出そうか。

 いや、ルナレジェンたちを待って、例の道具で確実に追跡した方がいいかもしれない。


 とにかく今日終わらせなければ。

 長きに渡る因縁を。


 ――――結論。

 こいつを見張りながら、二人を待つことにした。

 

 本体のリュノンも追いつこうと、現場までダッシュしている。


 ――――そして、二分後。

 

 「あそこや!! ショウエイくん!!!」


 「はいっ!!!」


 ようやく、翔英とルナレジェンが現れた。

 二人は手を振るリュノンを発見し、全力ダッシュで彼の元へ。


 「ルナさん! ショウエイ!! とりあえず、奴らの一人を倒しました……!!」


 「おおっ! さすがだなリュノン!!」


 「…………で、その敵さんはどこにおるん?」


 「え? ほら! そこに…………なにっ……!?」


 いない。

 ぐったりと気絶していたはずのキャトロングの姿が消えている。

 

 『目を離した隙に』


 そんな話ではない。

 リュノンが翔英たちに目を向けた数秒間。

 その間に、敵は消えていた。


 「そんな……!? ありえない……ありえない……!! あいつ……どこへ……!! はっ……!!」


 さらに驚くリュノン。

 あの、長すぎる釣り竿を一緒に消えている。


 まさか、あれを持って数秒でこの森から脱出したのか?

 しかも、気絶していたのに。


 予想外、過ぎる。


 「……嘘だろ……。せっかく一人捕まえたのに……なんでだよ……!!! おかしいだろっ!! そんなの!!」


 激高するリュノン。

 彼を心配そうに見つめる翔英。

 

 何と声を掛けるべきか。

 そんなことを一瞬考えた間に、ルナレジェンが冷静に状況を整理する。


 「……リュノン、どうやら『それ』が、あいつらが捕まらない理由と見てよさそうやね。……『突然、消える』。……でも、それが分かっただけでも、少し前進や。――――まだ嘆くのは早いで。ほれ、まだこいつがチカチカしとる。消えた言うても、近くにはいるんや。また探すで、リュノン」


 「……はい……そうですよね……」


 「大丈夫だよリュノン!! きっと見つかる! それに、今度は俺も役に立つよ!!」


 「……ああ、ありがとう……ショウエイ……」


 精神的にかなりしんどい。

 だが、ルナの言う通り、まだまだ止まるわけにはいかない。


 リュノンは再び立ち上がり、奴らを追うために分身を量産した。

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