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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第八章
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第二百十四話 『怒りを宿して』

 対峙するリュノンAとグランデ盗賊団のキャトロング。

 

 ――――その少し東に行ったところでは、リュノンBを、盗賊団の紅一点、プティマが発見していた。


 「(……あいつが侵入者ね……。あの様子だと、あたしたちに明確な敵意を持ってここに来たみたいね。――――ま、いいわ。すぐに終わらせてあげる)」


 険しい顔を見せているリュノンに襲い掛かるプティマ。

 さっきのカードゲームの続きを早く再開したいようだ。


 リュノンはプティマに全く反応しない。

 だが、リュノンBは姿を消した。


 「……!! ええェ!? 消えたァ……!!?」

 

 突如いなくなったリュノンにプティマを動揺を隠せない。

 あちこち森を見渡すが、リュノンの気配は全く感じなくなってしまった。


 「……何なのよォあいつ!!! ふざけやがって!! 何しに来たのよォ!!!」


 言葉を交わすことすらなく、一瞬でいなくなった不届き者に怒りを寄せるプティマ。

 これじゃあわざわざここまで出てきた意味がない。


 プティマは喚き散らしながらアジトに戻った。


 「……ちょっとボス! いきなりいなくなったわよ!! どうなってんのよォ!!?」


 帰って早々地団駄を踏みまくるプティマ。

 だが、待機組のルコートは極めて冷静に告げる。

 

 「……お前が行ったヤツだけではない。他の十九人も急に姿を消した」


 「……ええ!? どういうことよォ!? それは!!!」


 疑問が溢れ出るプティマに、ルコートから説明済みのグランデが口を開く。


 「……キャトロングが行ったヤツは消えていない。おそらく先の十九人は、そいつが生み出していた分身か何かだろう。キャトロングとの戦闘に集中するために、お前が見つけたヤツを含めて分身を消したんだ」


 「……なるほどね。ってことは、本当の侵入者の数は、『四人』ってわけね……」


 「……いや、多分『三人』だな。最後尾の三人のうちの誰かが、分身を操っている。その証拠に、後ろの三人は急に動きを止めている。本当の数は『三人』だ」


 「……おお、さすがだわ、ボス」


 ルコートから伝えられた情報を元に、敵の状況を正確に読み取るグランデ。

 

 確実に敵の手を読んで来る。

 それが、こいつが長年も逃げ続けて来れた理由の一つだ。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一方、森の入口に一番近い、翔英たち三人は――――


 「大丈夫かリュノン!?」


 戦闘に入ろうとしているリュノンを挟み、歩みを止める翔英とルナレジェン。

 

 リュノンは歩くことはできない。

 分身が見つけた仇敵に対して、意識を集中させている。


 「……悪いなショウエイ。今、こいつと戦うから……」


 「……じゃ、ボクらはそいつんとこ行こう、ショウエイくん。そいつの位置だけ教えてくれるか? リュノン」


 「……ここから、真っすぐに十五分くらい歩いたら、バカでかい木があります。……そこを右に行ってください」


 「……了解や」


 敵に集中するリュノンを置いて、ルナレジェンは歩き出す。

 心配しながらも彼女を追う翔英。


 「……ルナさん。リュノンを置いてっていいんですか……!?」


 「……問題ない。リュノンはいつでも分身を消せる。ヤバそうになったら、逃げられる。……一番まずいのは、せっかく出てきた奴らの一人を逃がすことや。リュノンが戦ってる間に、ボクらがそいつのとこにいけば、とりあえず前進できる」


 「……なるほど……。そういうことですか……」


 ひとまず納得。

 翔英とルナレジェンは、リュノンが指示した場所へと走り出す。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 力むリュノンに対して、余裕そうな笑みを見せるキャトロング。

 

 リュノンは思い出していた。

 呼び起こしたくない記憶を呼び起こしていた。


 ――――こいつは、『あの時』いた奴だ。


 「……絶対に許さない……!!」


 リュノンは近くに分身を二体出し、合計三体になった。

 

 「……すげえ、そんなことが出来んのか。何者か知らねえが、俺たちにここまで迫れるだけあるな」


 分身にびっくりのキャトロング。

 だが、びっくりしただけで、びびってはいない。

 むしろ、これくらいの方がやり甲斐があると意気込んでいる。


 「……かかってこいよガキ!!」


 戦闘態勢に入るキャトロング。

 一見すると三対一だが、キャトロングに依然敗北は見えない。


 リュノンは怒りに身を任せながら、一斉に殴り掛かった。

 

 「……っ!! 何!!!?」


 リュノンの一撃がキャトロングの顔面を捉えた。

 二体の攻撃は受け止められているが、その隙を突いたもう一人による全力パンチ。


 「……こ、こいつ……!!」


 思ったよりもずっと戦闘慣れしている。

 

 三体が一斉に飛び掛かるだけでなく、それぞれが邪魔をしないように、攻撃を活かせるように、完璧な連携を取っている。

 

 ただの見かけ倒しだと思っていたが、本当に三人を同時に相手しているかのような感覚だ。


 そしてキャトロングは、こいつが自身よりも強いことも感じ取った。


 「……何者なんだ。お前は……?」


 「……聖鳳軍二軍、リュノン・アーリーだ……。……お前、この名と、この顔に……見覚えがないか……!?」


 自己紹介がてら、敵に自身の罪を思い出させようとするリュノン。

 この戦いの引き金となっている、過去に起きた出来事のことを。


 ――――しかし、


 「……いや、全く身に覚えがねえな」


 「……!! 何だと……!?」


 被害者側は一生忘れなくても、加害者側はそうではない。

 しかも、被害を与え続けてきたこの男たちにとっては、尚更だ。


 「……ふざけやがって……。お前たちのせいで……ルージェは………」


 「――――しかし聖鳳軍……しかも二軍なんて大物が来るとはな。さっきの動きにも納得がいったぜ。……確かに俺一人じゃ、勝ち目は薄そうだな。……じゃ、できるだけ粘らせてもらうぜ」


 キャトロングが動く。

 ポケットから折り畳み式の竿を取り出した。

 そして竿を伸ばし、先端に針のような金具を装着する。

 

 釣り竿を持っているようだ。


 「悪く思うなよ。お前は強い。――――だから、こっちも武器を使わせてもらうぜ」


 釣り竿を振り回しながら言うキャトロング。

 

 だが、勝ち目が薄いと分かったにもかかわらず、余裕の笑みを全く崩していない。

 まだ何か策があるといった様子だ。 


 「……お前たちの……せいだ……!! ――――絶対、罪を償わせてやる……!!」


 激しい怒りを何とか沈め、戦闘に集中するリュノン。

 不気味な盗賊団に一人、挑む。

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