第二百十話 『揃い踏み』
――――なんじゃこいつは。
ラスドラーゴかと思った。
奴のような、圧倒的な負のオーラを感じ取ったから。
じゃが、こいつ……
ラスドラーゴよりも、圧が強い。
目が合っただけで、息の根が止まりそうじゃった。
まるで、ラスドラーゴと初めて会った時のようじゃ。
「……何者じゃ……貴様は……。魔物のようじゃが」
自部屋に突然侵入していた見知らぬ男に戸惑うレウラ。
できるだけ動揺を悟られぬように、あくまで強者の視点から話し掛ける。
「俺はダクライズ。俺が何者かは、後でラスドラーゴから話があるだろう。とにかく、本部に来い。お前が来ねえと始まらねえんだ」
「……嫌だと言ったら……?」
「力ずくで連れて行く。あんまりオススメはしねえぞ?」
「……いいじゃろう。行ってやる」
レウラは反抗することなく、彼と一緒に本部に戻ることにした。
ここでこいつと戦うのは、命に係わると判断したからだ。
おそらく能力をもってしても、こいつに勝つことはできないだろう。
そうだと分かれば、正直断る理由はない。
それに、ラスドラーゴなら断っても大丈夫だが、こいつに歯向かうのはかなり危険そうだ。
「意外と素直じゃねえか。もっと反抗してくると思ったぜ」
「……ここでお主と戦うことに、わらわには何の得もないからの」
「へっ、そうかよ」
ダクライズ。
任務成功。
二人は、本部へと帰還した。
――――その頃、南拠点では。
二人の魔物が衝突していた。
「……言うだけあってやるじゃない。お嬢さん」
魔女のような魔物に、赤髪の若い女の魔物が次々に攻撃を喰らわせていく。
だが、攻撃を受けている側、マビュートは笑みを崩さない。
その様子は、仕掛けている側のミワルナにも激しい動揺を与えていく。
「(……何なのよこのババア……。あたしの魔能を受けてるのに……何故死なないの?)」
ミワルナの攻撃は遠距離攻撃。
彼女が狙った軌道のモノを消し飛ばすことができる。
まともに喰らえば即死の攻撃だ。
しかし、マビュートはそれを喰らって尚、動きを辞めない。
消し飛ばした先から、一瞬で再生しているみたいだ。
「ああああああ!!!!! ムカつくのよババア!!! さっさと死になさいよ!!!!」
フルパワーで、魔能をぶつけるミワルナ。
また、標的の腹を抉り取る感覚はあった。
しかし、
「――――はい、タッチ」
「!!!!」
いつの間にか背後を取られ、首に手を掛けられていた。
ここで初めて、身の危機を感じ取るミワルナ。
と、同時に、魔物としての格の違いを嫌でも思い知らされた。
「さあ、お嬢さん。私と一緒に来てくれば、何もしないわ。本部にワープするだけよ。何がそんなにいやなのかしら?」
「……分かった。行ってやるわ。ラスドラーゴの所に」
一連の攻防で実力差を理解したのか、ミワルナは渋々了承する。
マビュートを笑顔で頷き、ファンドルに持たされていたワープゲートで帰ろうとする。
しかし、
「嘘だよババア!!! 死ね!!!」
背を向けたマビュートに、ミワルナは不意打ちを掛ける。
この距離なら、確実に殺せると判断したから。
だが、
「うがあ!!!!」
それよりも速く、マビュートの殺人パンチが飛んできた。
ミワルナは情けない悲鳴を上げながら、壁の向こう側まで殴り飛ばされる。
「バカねアンタ。殺気がダダ漏れよ。――――ま、元々帰ったらボコボコにしてやろうと思ってたけど。――――あら?」
白目を向いて気絶している。
マビュートはミワルナは拾うと、本部に戻っていった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――――ただいま。じいさん、この子の治療お願いね」
戻ってすぐさま、マイヤールにミワルナを引き渡す。
マイヤールは少しも驚くことなく、彼女の治療を始めた。
「中々いい部下持ってるじゃない、ラスドラーゴ」
「……やっぱりそうなるか。お前ら二人なら、そうだと思ったが」
ラスドラーゴ、ロジェ、ファンドル、マイヤール。
ダクライズ、マビュート、ハビニック。
そして、レウラとミワルナ。
これで魔凰軍の上位陣全員が一度に集結した。
「――――はっ……!! ここは……あっお前……!!」
目を覚ましたミワルナ。
すぐにマビュートへと敵意を向ける。
「無理やり来てもらったわよ。お嬢さん」
「……くそっ、殺してやるわ!!」
「――――待て、ミワルナ。後にしてくれ」
「……ふんっ……」
辺りを見渡すミワルナ。
良く知ってる顔も居れば、見たことないヤバそうな奴もいる。
この場で暴れるのは得策ではないと、馬鹿でも分かる。
ミワルナは出した手を引っ込めた。
「――――よし、では全員揃ったので、これからの大事な話をする。いや、その前に自己紹介か……」
「ちょっと待てラスドラーゴ。ドラウクの奴が来ておらぬではないか? わらわに来させておいて、なぜ奴がいないのじゃ?」
「死んだからだ」
「……ああ、そうだったのか」
「ダサッ!! あいつ死んだの!? あんなに大口ばっか叩いといて!!」
「静かにしてくれ、ミワルナ。話を進めたいんだ」
「あああ!!? 何? せっかく来てやったのに!!」
「……紹介する。レウラとミワルナだ。そしてこいつらは、ダクライズ、マビュート、ハビニック。四十年前に、私と共に魔鳳軍に所属していた」
「……!! 四十年前……!? お主たち以外にも生き残りがいたのか……!!」
「……まあ、大雑把に言うとそういうことだ」
「……まさか……貴様ら……!! 魔王ザラボラスの元で戦ったという奴らか……!?」
「あら、意外と勉強してるのね。その通りよ」
「え? 誰よそいつ?」
「(こいつらが、ラスドラーゴと並んでいたという三体の魔物……。通りで勝てる気がしなかったわけじゃ……)」
「――――で、ここからが本題だが……」
「無視するんじゃないわよ!!!」
「我々は――――聖鳳軍を倒す」
「……!!! 聖鳳軍を!!?」
「そうだ。我々の全戦力を持って、今度こそ奴らを叩き潰す」
「……ま、俺とマビュートだけでも、軽く達成できるだろうが、ラスドラーゴがうるさくてな。お前たちの力も、借りることになった」
「そういうことだ。レウラ、ミワルナ。お前たちにも協力してもらう。いいな?」
「……ふん、『はい』しか答えはないのじゃろう? まあ、協力はしてやる。じゃが、戦闘ではわらわの好きにさせてもらうぞ」
「……ミワルナ。お前にはミワルナ軍全員を率いてもらう。お前の持ち駒も全て使え。奴らに勝つためには、出し惜しみはできん」
「……聖鳳軍か……。ちょっとそれは面白そうね。――――いいわ。私も行ったげる」
「……よし……。――――では、今日の話は、こんなもので終わりだ。詳しいことはファンドルに伝言させる。時間を取らせてすまなかったな。みんな、戻っていいぞ」
それぞれの思いを抱く中、魔鳳軍が、一つの目的のために動こうとしていた。
近く訪れる、決戦の日。
全ては、その日に終わる。




