第二百九話 『集結せよ』
その頃、魔凰軍本部では――――
「ラスドラーゴ様!! 大変です!!」
「……どうした……?」
「北の地、ミドルハイムにて、ドラウク様及びジェシス様、そして、ドラウク軍が全滅した模様です……!!!」
「……ええ……。……死んだのか? ドラウクが……。……んん、確かにあいつの力が感じられんな……」
駆け込んできた伝令係に苦い顔を見せる魔凰軍司令。
今後の活動のためにも、ドラウクの力は必要だった。
「何勝手に死んでんだ」とキレたいところだが、できるだけ平静を装うラスドラーゴ。
しかし、なんでよりによって今日なんだ。
今日は集合の命令を出していたのに。
しかも『軍ごと』って。
ドラウク軍も戦力の一つに数えていたのに。
ジェシスの魔法も惜しいし。
何より、あんなに強さを求めて接触してきたドラウクなのに、急にやられてどうすんだ。
ラスドラーゴはため息を一つ吐くと、伝令係を下がらせた。
口うるさい奴らにいびられるのを、部下に見せたくないから。
「――――おいラスドラーゴ!! また死んじまったのかよ!! ほんっとに役立たずばっかだな! お前の部下は!!」
――――ほら来た。
魔王の間の裏側から、トゲトゲの突起が体中に着いている大男が煽りながら顔を出す。
その大男はゆっくりとラスドラーゴの方へ歩いてきた。
「……うるさい。どいつもこいつも私の言う事を聞いてくれんのだ。実行の日まで死ぬなと言っているのに」
「それはお前の人望不足だぜ。もし俺がトップだったら、間違いなく忠実に働いてくれるぞ」
「……つまらん冗談はやめろ」
「おお、言うようになったじゃねえかラスドラーゴ。今はお前と戦う気はねえが、あんまり生意気なこと言わねえ方がいいぞ」
空間に穴を開けるような異質な空気がぶつかる。
もし一般兵がここにいたら、体調不良で死んでしまうかもしれない。
「相変わらずつまんない会話ね。ダクライズ、ラスドラーゴ」
それが、二人の魔物により起こされているのに、さらにもう一体部屋に現れた。
ロングへアを携えた魔女のような風貌をした、美しい中年女性の魔物。
彼女もまた、ダクライズやラスドラーゴに劣らない殺気を宿している。
「マビュート。お前も完全に動けるようになったようだな」
「ええ、やっとだわ。今すぐあのクソ人間を殺しに行きたいけど、もうこの世にいないんでしょ? 残念だわ」
「ダクライズ、マビュート。ハビニックはどうした?」
「ああ、あいつならまだ固まってるわよ。情けないわホント。ま、例の日には間に合うと思うけど」
自身が出て来た方を振り返りながら答えるマビュート。
ダクライズは呆れたように首を振っている。
ラスドラーゴは頷き、かつての同僚二人を纏めようと動く。
「……分かった。これから、今後の話をお前たちを含めた全体にしようと思っていたが。ハビニックは後でにしよう」
「…………待ってくれ………ラスドラーゴ…………俺も、何とか動ける……」
二人が出てきたのと同じ部屋から、三体目の魔物が登場した。
細身の怪獣のような姿をした、何とも弱そうな魔物だ。
彼は、ロボットのような動きで、身体中を引きずりながらラスドラーゴの元へ。
「ハビニック。きつそうだな」
「……いや、大丈夫だ……」
割と心配そうにハビニックを見つめるラスドラーゴ。
ダクライズとマビュートの二人は、嘲笑するように彼を見降ろしている。
「――――よし、じゃあ、お前たちはここで待っててくれ。今日、あいつらもここに来るように言ってある。そろそろ来るはずだ」
「あいつら?」
「決まってるだろ。今の私の部下たちだ。――――おっ、丁度来たみたいだな」
魔王の間の扉が開き、魔物たちが入って来た。
彼らは空間に空いているゲートを通り、ここまでワープしてきたようだ。
「――――こんにちは、ラスドラーゴ」
その先頭、若い男性の姿をした魔物が入場。
爽やかな笑顔を浮かべ、上官にキチンと挨拶を交わす。
その後ろにはボロボロの服を着た老人。
最後尾では、ダウナーな雰囲気の魔物が歩いている。
彼は、自分たちが通って来たゲートを消した。
「……ああ、動けるようになったんだね三人とも。こうしてちゃんと立っているのを見るのは初めてだよ。ダクライズ、マビュート、ハビニック」
「……ご無沙汰ですね。ロジェさん。おかげ様で運動できるようになりましたよ」
先頭のロジェに言葉を返すダクライズ。
その口調に敬意の類のものは全くない。
上司の息子とはいえ、繋がりはほとんどないのだ。
ロジェは、三人が倒されてから生まれた子供だから。
本当は敬語を使うのも嫌だが、仕方なく。
「……どうなってんのよラスドラーゴ。ロジェさんにじいさんにファンドル。私たちがよく知ってる奴らしかいないじゃない」
「久しぶりじゃなマビュート。少し老けたな」
「じいさん? 今すぐ死にたいの?」
「……おい、マビュートもマイヤールも今は後にしてくれ。……それよりファンドル、マビュートの言う通り、なぜお前たちしかいないのだ。レウラとミワルナはどうした?」
二人を仲裁しつつ、最後尾にいるファンドルに問いかけるラスドラーゴ。
ラスドラーゴは幹部全員に召集命令を出していた。
死亡したスリーラとドラウクはともかく、あの二人が来ないのはおかしい。
ファンドルは少し面倒くさそうにすると、やはり面倒くさそうな口調で答える。
「命令拒否ですよ。二人とも行きたくないそうです。あいつらとあんまり話したくないので、説得は諦めました」
「……!! なんだと……!! いや……そりゃそうか……忘れてた……」
ほとんど自由にしていたので忘れていた。
あいつら、特に来てない二人は、全然命令聞いてくれないんだった。
いや、たまに出すくらいだし、久しぶりだし、もしかしたらって思ってたけど、やっぱダメだったか。
「……分かった。だがこれは、魔王様直々の命令だ。今回ばかりはそうはいかん。ファンドル、私を連れて行け。私が直接二人を説得する」
「……了解しました……」
レウラとミワルナの元へ、ファンドルの力でワープしようとするラスドラーゴ。
しかし、
「待て、ラスドラーゴ。――――そいつのとこへは俺が行く。礼儀を知らんガキに、立てるべき先輩ってのを教えてやる」
「私も行くわ。どんな子か見に行って見たい。安心して、力づくで連れてきてあげるから」
「…………分かった。任せよう」
二人の元へ向かうのは、ダクライズとマビュートに変更。
ファンドルは頷き、二人をそれぞれ東拠点と南拠点へと飛ばした。
――――東拠点。
「……ラスドラーゴ……。貴様自らが来るとはな……。じゃがいやじゃぞ、わらわは今一人でいたいのじゃ」
「……いや、そうはいかねえな。先輩の言う事は聞くもんだぜ」
「……!! ラスドラーゴじゃない……!! 誰じゃ貴様は……!!」
――――南拠点。
「――――あなたがミワルナね。あなたのボスから連絡よ。今すぐ本部に来なさいって」
「……ああ? 誰……? ……誰よお前!!!!!! 勝手に入って来て何言ってんのこのババア!!! 殺すわよ!!!!」
「…………どうやら、一回身体で分からせた方がよさそうね……。お嬢さん」




