第二百五話 『壊す拳と護る拳』
――――私、分かった。
戦うのは嫌だ。
その相手がトライフなんて、絶対に嫌だ。
だけど、友達や仲間が死んでしまうのは、もっと嫌なんだ。
ショウエイくんの必死で戦う姿。
あれを見せられて、動かない訳にはいかない。
私の代わりに戦ってくれていたんだ。
カルダート家の問題に、ショウエイくんを巻き込んでしまった。
でもショウエイくんは、何も言わずに戦ってくれた。
この村を護るために、戦ってくれた。
――――きっと、戦うことの本当の意味って、そう言う事。
自分のために戦うっていうのは、あまり気が進まないことだけど、
誰かのためになら、私は戦える。
たとえその相手が、誰であっても。
護るためならば、きっと。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――――ははは!!! 嬉しいぜティローナ……!! ようやくお前が戦う目をしてくれた……!! ようやく対等だ……!!」
トライフの前に立ちはだかるティローナ。
そんな彼女を見たトライフに、喜びの感情が込み上げる。
彼が、ミドルハイムに戻って来た理由。
それは、こうやってティローナとの決着を着けるためだ。
「――――だが、一つ残念なことがあるな……ティローナ。今のお前は、後ろにいる死に掛けのカスを気にしすぎている。意識が少しでもそっちに向くのは気に入らねえな。俺との戦いの時は、俺にだけ意識を向けてほしいもんだ。――――だから……!!」
チラチラ翔英の安否を確認するティローナの姿が、トライフの勘に触ったらしい。
トライフは、先に後ろの翔英の息の根を止めようと動き出す。
ティローナもトライフの動きを止めるべく走り出した。
だが、
「――――なら、あなたもティローナにだけ意識を向けなさい。……トライフ」
ティローナの後ろから声が聞こえる。
その声はトライフに動揺を与え、彼の動きを止めるに至った。
「……ちいっ……!! ニーファ……!!!」
「お母さん!!!」
ミドルハイムに戻って来ていたニーファ・カルダートがようやく登場。
翔英の前に立つと、かつての家族に悲しみの目を向ける。
そして、僅かに残された力を持って、瀕死の翔英に回復術を掛け始めた。
「…………トライフ。……なぜ、このようなことをするのですか。その拳は、傷つけるためのものではないはずです」
「うるさいぞニーファ……!! お前もすぐに消してやるから待っていろ……!!」
「……トライフ……。……変わってしまいましたね……」
「お母さん!! ショウエイくんをお願いね!! ――――私は……トライフを止めるから……!!!」
「……大丈夫なのですか……? ティローナ……」
「うん!! 大丈夫……!! だから……ショウエイくんを死なせないでね!!」
ティローナの目を見たニーファ。
その目はいつか見たものと同じだ。
重い覚悟を背負って、それでも尚、壁を超えて行こうとする者の目。
マービアンもニーファも、ティローナがトライフと戦えるはずがないと思っていた。
でも、あの目を見て、その心配は無くなった。
――――今の娘ならば、どんな敵からも皆を護ってくれる。
「……分かりました……!! お願いしますね……!!」
翔英をおんぶしながら、戦場から脱するニーファ。
ティローナのマンマークを外すことのできないトライフは、それを防ぐことはできない。
――――いや、防ぐ気など元々ない。
あいつらも後から消せばいい。
今は、枷の外れたティローナと、全力で戦えることを喜ぼう。
「――――ラッキーだよ、ティローナ。何も気にすることなく、本気のお前の強さをようやく、壊すことができるんだからな」
「……私は、嫌だよ。本当は戦いたくないよ。――――でも、皆を傷つけるあなたを、もうトライフだとは思わない。私が好きだったトライフは、もういなくなってしまった。――――私の使命は、今のあなたを止めること……!!!」
トライフとティローナ。
壊す拳と護る拳。
自分のために鍛え上げた力と他者を助けるために堪え続けた力。
始まりは同じだった。
だが、その目的や動機は、異なるものだった。
互いに逸れてしまった二つの拳が、激突した。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――そして、戦場を離れてすぐ、翔英は……
「――――ニーファさん………!! 少し……止まってください……!!」
「え……!? ショウエイくん……」
村の外にある結界に走るニーファの足を止めていた。
声を掛けられたニーファは言われた通り走るのを止め、背中から翔英を下ろす。
ここはまだ村の中。
二人の戦いの余波が飛んで来る。
「俺をその避難所に連れてくんですよね……!! 大丈夫です、ここで……!!」
「……え……? 何を言うのです。あなたはまだ……」
「大丈夫です……!! もう、動けます……!!」
「……でも……」
「安心してください……!! もう戦うつもりはありません……!! けど……ティローナさんの近くに居させてください……!! ティローナさんが戦っているんです……絶対に戦いたくない人と……!! こんな俺だけど……ティローナさんの側にいてあげたい……!!!」
「…………分かりました。ただし、私も一緒です」
翔英の想いを飲み込んだニーファは、また道を少し引き返す。
邪魔にならない程度の距離がある所まで。
二人が見える。
殴り合っている二人が見える。
翔英はティローナの気持ちが痛いほど分かる。
表情は良く見えないが、きっと激しい痛みに耐えながら戦っているのだろう。
――――代わってあげたい。
だけど、今の俺では役に立てない。
ごめんなさい、ティローナさん。
でも、負けないで、ティローナさん。
結局、ティローナの代わりを全うすることはできなかった。
今の自分にできることは、彼女の側で、彼女を想うことだけ。
「――――勝ってください……!! ティローナさん……!!!」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――――おらア!!!」
「――――やあっ!!!」
ぶつかる拳。
攻撃力はトライフが優勢。
ティローナは一瞬怯む。
だが、進み続ける。
拳を振り続ける。
「――――いいぜティローナ……。これだ……これを待っていたんだ……!!」
「……!! トライフ……」
「――――さあ、ティローナ!! 最後の勝負だ!! 忘れられない思い出にしよう!!」




