↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第七章
PR
206/268

第二百五話 『壊す拳と護る拳』

 ――――私、分かった。


 戦うのは嫌だ。

 その相手がトライフなんて、絶対に嫌だ。


 だけど、友達や仲間が死んでしまうのは、もっと嫌なんだ。


 ショウエイくんの必死で戦う姿。

 あれを見せられて、動かない訳にはいかない。


 私の代わりに戦ってくれていたんだ。

 カルダート家の問題に、ショウエイくんを巻き込んでしまった。

 

 でもショウエイくんは、何も言わずに戦ってくれた。

 この村を護るために、戦ってくれた。


 ――――きっと、戦うことの本当の意味って、そう言う事。

 

 自分のために戦うっていうのは、あまり気が進まないことだけど、

 誰かのためになら、私は戦える。


 たとえその相手が、誰であっても。

 護るためならば、きっと。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 「――――ははは!!! 嬉しいぜティローナ……!! ようやくお前が戦う目をしてくれた……!! ようやく対等だ……!!」


 トライフの前に立ちはだかるティローナ。

 そんな彼女を見たトライフに、喜びの感情が込み上げる。


 彼が、ミドルハイムに戻って来た理由。

 それは、こうやってティローナとの決着を着けるためだ。


 「――――だが、一つ残念なことがあるな……ティローナ。今のお前は、後ろにいる死に掛けのカスを気にしすぎている。意識が少しでもそっちに向くのは気に入らねえな。俺との戦いの時は、俺にだけ意識を向けてほしいもんだ。――――だから……!!」


 チラチラ翔英の安否を確認するティローナの姿が、トライフの勘に触ったらしい。

 トライフは、先に後ろの翔英の息の根を止めようと動き出す。 

 ティローナもトライフの動きを止めるべく走り出した。


 だが、


 「――――なら、あなたもティローナにだけ意識を向けなさい。……トライフ」


 ティローナの後ろから声が聞こえる。

 その声はトライフに動揺を与え、彼の動きを止めるに至った。


 「……ちいっ……!! ニーファ……!!!」


 「お母さん!!!」


 ミドルハイムに戻って来ていたニーファ・カルダートがようやく登場。

 翔英の前に立つと、かつての家族に悲しみの目を向ける。


 そして、僅かに残された力を持って、瀕死の翔英に回復術を掛け始めた。


 「…………トライフ。……なぜ、このようなことをするのですか。その拳は、傷つけるためのものではないはずです」


 「うるさいぞニーファ……!! お前もすぐに消してやるから待っていろ……!!」


 「……トライフ……。……変わってしまいましたね……」


 「お母さん!! ショウエイくんをお願いね!! ――――私は……トライフを止めるから……!!!」


 「……大丈夫なのですか……? ティローナ……」


 「うん!! 大丈夫……!! だから……ショウエイくんを死なせないでね!!」


 ティローナの目を見たニーファ。

 

 その目はいつか見たものと同じだ。

 重い覚悟を背負って、それでも尚、壁を超えて行こうとする者の目。


 マービアンもニーファも、ティローナがトライフと戦えるはずがないと思っていた。

 でも、あの目を見て、その心配は無くなった。


 ――――今の娘ならば、どんな敵からも皆を護ってくれる。


 「……分かりました……!! お願いしますね……!!」


 翔英をおんぶしながら、戦場から脱するニーファ。

 ティローナのマンマークを外すことのできないトライフは、それを防ぐことはできない。

 

 ――――いや、防ぐ気など元々ない。

 あいつらも後から消せばいい。


 今は、枷の外れたティローナと、全力で戦えることを喜ぼう。


 「――――ラッキーだよ、ティローナ。何も気にすることなく、本気のお前の強さをようやく、壊すことができるんだからな」


 「……私は、嫌だよ。本当は戦いたくないよ。――――でも、皆を傷つけるあなたを、もうトライフだとは思わない。私が好きだったトライフは、もういなくなってしまった。――――私の使命は、今のあなたを止めること……!!!」


 トライフとティローナ。


 壊す拳と護る拳。


 自分のために鍛え上げた力と他者を助けるために堪え続けた力。

 

 始まりは同じだった。

 だが、その目的や動機は、異なるものだった。


 互いに逸れてしまった二つの拳が、激突した。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ――――そして、戦場を離れてすぐ、翔英は……


 「――――ニーファさん………!! 少し……止まってください……!!」


 「え……!? ショウエイくん……」


 村の外にある結界に走るニーファの足を止めていた。

 声を掛けられたニーファは言われた通り走るのを止め、背中から翔英を下ろす。

 

 ここはまだ村の中。

 二人の戦いの余波が飛んで来る。


 「俺をその避難所に連れてくんですよね……!! 大丈夫です、ここで……!!」


 「……え……? 何を言うのです。あなたはまだ……」


 「大丈夫です……!! もう、動けます……!!」


 「……でも……」


 「安心してください……!! もう戦うつもりはありません……!! けど……ティローナさんの近くに居させてください……!! ティローナさんが戦っているんです……絶対に戦いたくない人と……!! こんな俺だけど……ティローナさんの側にいてあげたい……!!!」


 「…………分かりました。ただし、私も一緒です」


 翔英の想いを飲み込んだニーファは、また道を少し引き返す。

 邪魔にならない程度の距離がある所まで。

 

 二人が見える。

 殴り合っている二人が見える。


 翔英はティローナの気持ちが痛いほど分かる。

 表情は良く見えないが、きっと激しい痛みに耐えながら戦っているのだろう。


 ――――代わってあげたい。

 だけど、今の俺では役に立てない。


 ごめんなさい、ティローナさん。

 でも、負けないで、ティローナさん。

 

 結局、ティローナの代わりを全うすることはできなかった。

 今の自分にできることは、彼女の側で、彼女を想うことだけ。


 「――――勝ってください……!! ティローナさん……!!!」


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 「――――おらア!!!」


 「――――やあっ!!!」


 ぶつかる拳。

 攻撃力はトライフが優勢。

 ティローナは一瞬怯む。


 だが、進み続ける。

 拳を振り続ける。


 「――――いいぜティローナ……。これだ……これを待っていたんだ……!!」


 「……!! トライフ……」


 「――――さあ、ティローナ!! 最後の勝負だ!! 忘れられない思い出にしよう!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。