第二百四話 『想いは同じ』
――――よかった、間に合って。
あなたが負けるなんて、ありえないと思っていた。
既にあなたは、勝負を決めていると信じていた。
でも、私の脳には届いていた。
あなたの危機という情報が。
信じられなかった。
私のミスを疑った。
だけど、もしものためにと、私はここまで来た。
それは、間違ってはいなかった。
――――あの男、ドラウク様をここまで追い詰めるなんて。
明らかに格下のはずなのに、恐ろしい執念を持った男だ。
――――ああ、ドラウク様。
こんなお姿になってしまって。
身体のあちこち傷だらけ。
片目も潰れてしまっている。
こんなにボロボロのドラウク様は、今まで見たことがない。
――――でも、安心してください。
すぐにあなたに相応しいお姿に、戻して差し上げますから。
私に残されたこの僅かな命全てを持って、あなたの傷を癒します。
それが、自分の役目を果たしきれなかった私の、せめてもの償いです。
――――七年前にあなたに初めて出会った時から、この命はあなたのために使うと決めておりましたから。
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ほぼ死に体のジェシスの最期の力。
彼女は本来、多様な魔法を使用するタイプの魔物である。
その技術は、現在の魔凰軍において、二番目に高いと言われている。
そのため、瀕死の状態となっている今ですら、対象の肉体を回復させる程度の力を使うことができる。
だが、いつしかジェシスはそれらを使うことを躊躇うようになっていった。
それどころか、全くかじって来なかった体術を使用するようになった。
――――なぜか。
それは、彼に振り向いて欲しかったから。
トライフは部下たちに常に、ティローナの行方を監視させていた。
当然、ジェシスもその仕事を与えられており、見たくもない女の行方を追っていた。
ある時、ジェシスはトライフに尋ねた。
「この女は、ドラウク様の何か?」
と。
彼は答えた。
『最も憎き、最も愛しい女』
だと。
ジェシスは理解した。
この女は、ドラウク様の人生を壊したのだと。
だからジェシスはずっとティローナを殺そうと企んだこともあった。
だが、話を聞いていく内に、ジェシスは分かってしまった。
ドラウクの心は、ティローナの元にしかない。
もしティローナが死んだら、この後ドラウクがどうなってしまうのか想像もつかない。
それほど、彼はティローナという女に執着していた。
だからジェシスは考えた。
『私が、ティローナ・カルダートの代わりになればいい』
と。
ティローナが死んだら、その気持ちを私にぶつけてほしい。
それがどれほど大きなものでも、私は必ず受け止める。
そのためにはまず、私が、ティローナに近づかなくては。
そう思う後、ジェシスは服装や髪型をティローナに寄せていった。
その行動はエスカレートしていき、戦術を魔法から体術へとシフトチェンジ。
さらに、魔法の類の技を使用するのを躊躇うようになっていった。
憎き女の偽物になってまで、彼に振り向いて欲しかった。
しかし、当のトライフはジェシスの行動を快く思っていなかった。
ティローナの真似事を急に始めたのも当然腹が立っていたが、それ以上に、そもそもトライフがジェシスを副官にしたのは、彼女の技術を評価してのことだったから。
何度か注意もしたが、ジェシスが考えを改めることはなかった。
トライフ側も、副官や部下のことなど正直どうでもよかったため、もう放っておくようになっていった。
それから、ジェシスは非常事態以外の魔法を禁じた。
だが、今はまさにその非常事態。
愛すべき上官を救うべく、命を懸けた魔法を投与する。
それは効果を発揮していき、ゆっくりではあるが、トライフの傷がどんどん癒えていく。
その時間を止める者は誰も居ない。
やがて――――トライフは身体を起こした。
「…………よかった…………ドラウク様…………」
もう、ピクリとも動くことができないジェシス。
復活した上官を見上げながら、少しずつ足元から消えていく。
トライフも少しだけ、崩れ行く副官の顔を確認した。
――――それを見たジェシスは笑った。
もちろん、上官が元気になったという喜びもいっぱいだ
だが、それ以上に――――
「……はは…………ザマアみろ…………ティローナ……カルダート…………ドラウク様は…………私を見ている……。…………少なくとも、今、この瞬間だけは…………私だけを…………」
動揺するティローナを勝ち誇ったように見つめるジェシス。
ティローナの方は、その視線に気づいていないが。
そのまま、ジェシスの全身はこの世から消え去った。
「――――はははははっ!!! 形成逆転だな!!!」
復活したトライフ。
後ろを振り返ることもなく、嬉しそうに笑いながらぶっ倒れている翔英の方へと向かって行く。
ジェシスの回復により、完全にトライフの肉体は回復している。
しかし翔英の方は動けない。
もう、戦いにすらならない。
「終わりだぜ、ガキ」
容赦なく動き出すトライフ。
今度は翔英の方が、悔し涙を流しながらトライフを見上げた。
「――――おあっ……!!!」
しかしまた、こちらにも壁が立ちはだかる。
突風のように掛けてきた蹴りに、トライフは吹き飛ばされた。
「……来やがったか……!! ティローナ……!!!!」
ティローナ・カルダート。
心も体もズタボロだった彼女が、再び立ち上がった。
「ごめんね……ショウエイくん……。私の問題を、あなたに押し付けてしまって。……でも、私、気づいたの。自分のためじゃない。誰かを助けるためなら……戦うことができるって……!!! 絶対、護るよ……!! ショウエイくん……!!!」
愛していた人と戦う覚悟、そして、大切な仲間を護る覚悟を決めたティローナ。
未来を護るため、過去に立ち向かう。




