第二百三話 『死闘の末』
――――負けられない。
絶対に負けられない。
こんなところで終われないんだ。
それに、これ以上ティローナさんに背負わせたくない。
好きな人に傷つけられることの苦しみは、『よく知っている』
しかもそれが、本人の意思によるものなんて、あまりにも酷すぎる。
ここは、俺が戦わなくちゃいけない。
今この瞬間にここにいたのは、きっと、俺にこの村を護ってくれって導きがあったんだ。
どうして俺がこんな目に。
そんな風に考えてはいけない。
俺がここにいる理由を、俺の手で示すんだ。
「――――うおおっ……!!!」
目潰しに続き胸を刺した翔英。
このチャンスを逃すまいと勝負に出る。
敵が怯んだ隙に、一気に決着を着けなくては。
ここで終わらせられなかったら、終わる。
気合いの掛け声とともに、トライフに斬撃の嵐を喰らわせていく。
――――効いている。
格上の魔物にだって、翔英の攻撃は確実に効いている。
そんな様子を複雑な想いで見つめるティローナ。
依然、動くことはできない。
「……調子に……乗んなよ…………ガキ……!!」
しかし、トライフもただでは倒れない。
痛みを気合いで耐えながら、翔英のボディに破壊の一撃を繰り出す。
翔英は咄嗟に反応。
剣を胸の前に構え、繰り出す拳に当てた。
だが、破壊のエネルギーは防ぎきれない。
剣にはヒビが生まれ、翔英の手元を離れた。
「はっ……!! 残念だったな……!! 俺の…………」
武器を無くした翔英に、今度こそ拳をブチ当てようとするトライフ。
だがそれよりも僅かに速く、翔英が人差し指をトライフの首に刺した。
「あ……!? 何がして…………ぐァ……!!!」
そして、爆発。
翔英がこの村に来てから、ずっと鍛え続けて来た技術。
カルダ流が――――炸裂した。
狙ったわけではない。
ただ、咄嗟に指を出したことで、発動した。
「……な……!! ……今……のは……!! ……まさか……!!」
胸が張り裂けるトライフ。
その衝撃は立つ足を奪い、トライフは後ろ向きに倒れ込んだ。
本来のトライフに、カルダ流が通用することはない。
実際、マービアンやティローナの技術をトライフは無効化してきた。
しかし、まさか、こんな関係のない人間が使用するなんて、夢にも思わなかった。
カルダ流になんて全く備えていなかった。
それをいきなり、使ってきやがるとは―――――
「ぐああ……!!!」
だが、攻撃を放った翔英の方も崩れ落ちた。
咄嗟に放ったために、相殺が間に合わなかった。
ただでさえ、痛みを蓄積しているのに、指まで壊れてしまった。
「(……くそっ……!! もうちょっとだ……!! 立ち上がらなくては……!!!)」
近くに落ちていた剣を戻し、それで身体を支えながら立ち上がろうともがく翔英。
トライフはまだ起き上がって来ない。
後、一撃。
何とか、叩き込めば。
「うおおおおおお!!!!」
――――立ち上がった。
奴よりも先に。
「いっ……!!!!」
指だけじゃない。
全身が痛い。
間接的に何発か。
直接的に一発。
あいつの拳を喰らってしまっている。
歩くのすらギリギリだ。
トライフも身体を起こそうと足掻く。
でも、なんとか、
――――先に、奴の前まで。
膝を着いた体勢のトライフ。
少し上を見上げたまま、動きを止めている。
思ったより、さっきのカルダが致命傷になっていた。
丁度首にクリーンヒットしたことで、息をすることすら精一杯だ。
互いに重症を負っているが、先に動けたのは翔英の方だった。
「(……くそっ……!! お前……なんぞに……!!!!)」
震える手で、何とか剣を掲げる翔英。
そして決着を着けるべく、剣を振り下ろした。
トライフもまだ諦めてはいなかった。
翔英が剣を振るのと同時に、破壊の拳も彼に叩き込もうと飛び出した。
しかし、拳と剣のリーチの違いもあり、またしても僅かに翔英の攻撃が勝っていた。
「(……そんな……負けるのか…………俺は…………ティローナにまだ勝てていないのに……。負けるのか…………ティローナ以外の人間に…………)」
自分の拳が届かないこと。
相手の剣が先に届くことが見えたトライフ。
そして、自身が行く道も見えた。
またしても、受け入れられない道が。
激しい後悔と憎悪の中、翔英の一撃がトライフの胸を捉えた。
――――だが、
その一撃は、トライフには当たらなかった。
二人の一騎打ちの間に挟まった、無礼者がいたから。
その女はいつの間にか二人の間に割り込み、翔英の攻撃をトライフから庇った。
「――――ああっ……!!!!」
翔英の一撃を肩代わりした女は、彼の斬撃をモロに喰らい血を吹き散らす。
黒髪のポニーテールや白と黒の道着が特徴的な女だ。
その後ろ姿は、戦況を見つめているティローナ・カルダートに酷似している。
――――彼女の名は、ジェシス。
翔英に敗れて戦線離脱を余儀なくされていた、トライフの副官。
彼女も動けるような状態ではなかったが、上官の危機を察知したことで、奇跡的にここまで辿り着いていた。
ジェシスが持つ、ドラウクへの強い想いが可能にしてしまった、翔英の誤算。
そして、トライフが放っていた拳は、彼女の背中を貫通して翔英に飛んできた。
「がはっ……!! ……そんな……」
トライフの一撃は翔英を吹き飛ばす。
翔英はこの一撃で、完全にダウンしてしまった。
「(……くそっ……馬鹿だ俺は…………!! 勝って……勝てたのに…………あの時…………ちゃんと動きを止めておけば…………)」
後悔に苛まれる翔英。
もう、目を動かすことしかできない。
意識を保つことすら難しくなってくる。
だが、相対する二人。
トライフとジェシスもまた、瀕死の重傷。
二人も、勢いよく地面に崩れ落ちた。




