第二百二話 『弟として』
「――――ショ……ショウエイくん……」
ティローナの危機に駆け付けた翔英。
とりあえず、敵の攻撃を押し返す。
「大丈夫ですか!? ティローナさん!!」
続いてティローナの安否確認。
ジャーザンスの時ほどではないが、かなりの重症を負っているように見える。
まさか、ティローナさんがここまでやられるとは……。
この魔物、マービアンを倒しただけでなく、ティローナにも勝っている。
ゼッジが言っていた通り、かなりヤバい奴だ。
今の翔英でどうにかできる相手ではないだろう。
でも――――やらなければ。
そう思いながら、翔英はトライフに剣を向ける。
「……お前か……。マービアンと一緒にいたガキ。まさか、ジェシスを倒したのがお前だったとはな。お前なんぞにやられるとは、相変わらず使えない奴だ」
トライフのセリフに翔英はびっくり。
ジェシスが言っていた通りだった。
それにしても、ひどい言い様だ。
翔英にとっても、ジェシスにとっても。
「おい! そんな言い方ないだろう……!! あいつも俺も、頑張ってるんだぞ!!」
「……ふん、そんなことよりも、よくも邪魔してくれたな。俺とティローナの一対一の時間を」
「そりゃ邪魔するよ! ティローナさんは大切な人なんだから! 殺させるわけにゃいかねえ!!!」
「…………ショウエイくん……」
今度は翔英のセリフにトライフがびっくり。
いや、機嫌を損ねる。
「……大切な人だと……? ティローナがお前の……? ……なんだよそれ……。お前!! ティローナとどういう関係だ!!」
「ええ……!? ……どういう関係たって、そうだな…………。お姉さん……みたいな……?」
「お姉さんだと……!!? ……つくづく不愉快な奴だ…………。殺してやる!!」
トライフの殺意が固まった。
激しい怒りのままに、思いっ切り突っ込んで来る。
トライフが放った一撃を何とか回避する翔英。
だがすぐに蹴りが伸びてくる。
何とか剣に当てて衝撃を殺し、受け身を取るが。
「……な……!!」
剣が掛けている。
幸い、剣はすぐに再生することができるが、あれを肉体に喰らってしまったらかなり不味い。
まともに戦っても勝ち目はない。
何か、考えなくては。
そのための時間を作らなくては。
「……お前こそ……ティローナさんの何なんだよ……!! そんなことで怒りやがって……!!」
「あ……? 『俺がティローナの何か』だと……? ……なんだろうな……今となっちゃ、中々答えにくい質問だ……。おいティローナ!! 何だと思う!!? お前にとって、俺は!!」
……何なんだこいつ。
ティローナさんに直接聞いたぞ……?
気持ち悪い奴……。
だが思ったより時間を稼ぐことができている。
今のうちに何か策を考えたい。
一方、急に話を振られたティローナは、泣きながら答えた。
「……そんなの……もうわからないよ……トライフ…………」
そう答えるティローナを見た翔英は、作戦を練るどころではなくなってしまう。
あのティローナの異変。
そして、『トライフ』という名前。
――――まさか……こいつ……。
「お前……まさか……!! ティローナさんと一緒にカルダ流を習ってたって人か……!!?」
「……ん? ああ、そうだな。よく知っていたな。誰に聞いた?」
マジかよ。
こいつ、ティローナさんが会いたいって、好きだって言っていた人か。
……は……?
何してんのこいつ。
ミドルハイムを襲って、ティローナさんをこんな風にして。
もしかして、ティローナさん、『だから』負けたのか……?
好きだった人に、抵抗もできないまま、ここまで傷を負わされたってのか……?
「……何してんだよお前……!!! 何してんだよお前!!!」
「……なんだ急に」
「なんでお前、ティローナさんを傷つけてるんだよ!!! ティローナさん、お前にずっと会いたがってたのに……!! なんでそんな姿になって、こんなことしてるんだ!!!」
「お前には関係ないだろ! 黙ってろガキ!!!」
「関係なくない!!! そんなの……許せるわけがない……!!!! 最低だよお前!!! あんなにお前のこと想ってたんだぞ、ティローナさんは……!!! それをこんな風に踏みにじるなんて……!!!」
激しい怒り。
ティローナが抱けなかった代わりに、この男が怒りを爆発させる。
関係ないと言われたらそうなのかもしれない。
確かに、翔英はこの二人に何があったかなんて知らないし、カルダート家との関わりもたった数日ばかりのものだ。
――――でも、泣いていた。
ティローナはトライフの話をする時、綺麗な涙を零していた。
たった少しでもこの村に、この家に関わった者として、こんな暴挙を見過ごせるはずがない。
急に力が湧いてきた。
この男に確かな怒りを抱いたことで、戦う力が少しだけ湧いてきた。
ティローナさんは戦えない。
ティローナさんにこれ以上の苦しみは背負わせられない。
必ず――――お前を倒してやる。
「絶対に許さない!!!」
プラン作りはどこへやら。
あまりの怒りに、真正面からトライフを迎え撃とうとする翔英。
そんな翔英に対して、トライフの方も怒りを寄せている。
「……許さねえだと……? それはこっちのセリフなんだよ。お前みたいな余所者に介入されるのがどれほどムカつくことか分かるか? お前みたいな雑魚に勝てると思われるのがどれほど気分の悪いことか分かるか? ――――殺してやるよ小僧!!!」
トライフが向かってきた。
あの拳に触れられてはいけない。
だが、速い。
そして、重い。
腹への一撃。
来るのは分かってた。
でも、回避は間に合わない。
だから、盾を作った。
それで、受け止めたつもりだった。
だが、盾を突き破り、トライフの拳は飛んできた。
「がはっ……!!!」
「ショウエイくん!!!」
外から身体が破壊される音がする。
――――しまった。
連戦に次ぐ連戦なんて言い訳にならない。
こいつ……思ったより、ずっと強かった。
「死ね!!!」
……でも、ただで負けるのは、ごめんだ。
「はあっ……!!!」
蹲りながら溜め続けたマナ。
それを近づいてきたトライフの顔面へ一気に放出した。
「うぐ……ああ……!!!」
雷撃直撃。
不意打ちとはいえ、一発当ててやったぞ。
「……くそっ……!! お前……!!! 絶対に許さんぞ……!!!!」
片目が潰れている。
狙ったわけではないが、眼球に当たったらしい。
でも……ここまでかな。
――――いや、まだ動ける。まだ。
壊されたのは腹の一部だけだ。
呼吸は何とかできる。
腕だって、足だって動く。
急ぎ盾を拾って構える翔英。
そこにまた、トライフが拳を繰り出してくる。
さっきやった奴、喰らえ。
「うごお!!」
初見殺し、再び。
翔英が作り出して伸びた剣が、トライフの腹に突き刺さった。
「負けねえぞ、俺あ!!!!」




