第二百話 『痴話喧嘩』
「――――どうして……どうしてなの……わかんないよ……何否定って……? 何を否定したいの……!?」
「お前の強さだよ。ティローナ」
「……だから何それ……!? ……意味がわかんないよ……!! 何私の強さって……!!」
「そのまんまの意味だ。お前の力を、俺の手で打ち負かす。それが、今の俺の望みだ。そのために、そのためだけに、俺はここまで生きてきたんだ」
……やはり分からない。
言っていることは分かる。
でも、なぜそんなことを言うのか全く分からない。
なんでそんな風に私の力を否定しようとするのか、分からない。
それよりも、ようやく会えたのに、ずっと会いたかったのに、なんで……
「……ねえ、トライフ……。どうしてあなたがそんなことをしなくちゃいけないの……? 私、あなたに会いたくてしょうがなかった……。ずっと、あなたが帰ってくるのを待っていたのに……。……私……私…………」
ずっと伝えたいことがあった。
帰ってきたら、絶対言おうと思っていたことがあった。
この想いを外に出したかった。
今、言うのは明らかに間違っている。
でも、でも、
「――――あなたのこと大好きだったのに……!!」
言わずにはいられなかった。
抑えらなかった。
初めて会った時からずっと、トライフのことが好きだった。
孤独だった自分に、人の温かみを教えてくれた彼。
自分の痛みや苦しみを分け合おうとしてくれた彼。
そしてあの日、私を護ると言ってくれた彼。
脳に焼き付いて、離れなかった。
「ずっとずっと好きだったのに……!! 私のヒーローだったのに……!! どうしてこんなことになるの……!!? ねえ、トライフ……!! 私、あなたのこと思い出さなかった日なんてなかった……!! だって……大好きだったから……!!」
戦闘中。
泣き叫ぶティローナ。
告白を受けたトライフ。
少し天を見つめると、そっと口を開く。
「――――俺もだよ、ティローナ」
「…………え……?」
「俺も大好きだった、お前のこと」
「…………なんで……」
「初めて会った時からずっと好きだった。お前のために生きたいって本気で思ってた。ティローナ、お前は……俺の生きる意味そのものだった」
涙が溢れ出て来る。
何なのだろう、この涙は。
嬉しい。
その感情が無いと言ったら嘘になる。
悲しいって、感情も強い。
でも、それだけじゃない。
――――わからないよ。
鼻を啜りながら涙を拭くティローナ。
そんな彼女の様子を見守るトライフ。
しかし、すぐにトライフの表情が一変した。
「……だけどな……ティローナ。――――それは間違いだった。――――お前には、俺の力なんて必要ない。誰かに護られる必要なんてない。お前にとって俺の強さは、何の意味の無い物だったんだ」
「……そんなこと……ない……」
「強すぎるんだよ、お前」
冷たい一言。
よく知っているあの人の言葉とは思えない。
吐き捨てるような言葉。
あの温かさは、どこに行ってしまったの。
――――それに、
「……どうして……どうしてそんなこと言うの!!? 私、なりたくてなったわけじゃない!! 本当は強くなんてなりたくなかった!! ――――でも、あなたに会いたかったから!! あなたに会うには強さが必要だと思ったから、そうなっただけなのに!! ひどいよトライフ!! あなたのために、私頑張ったのに!!!」
重ねてきた想いを叫ぶ。
全て、紛れもない事実。
痛みにも耐えた。苦しみにも耐えた。
ただひたすら――――あなたのために。
だが、その想いは、彼には届かない。
「……ふざけてんじゃねえぞ、お前……」
「……え……」
また、見たことない顔をしている。
あの優しいトライフが、私に憎悪の感情を向けている。
やめて……。
そんな顔しちゃダメ……。
「本当に俺のためを想うなら、護られる弱者でいろよ!! 俺の生きる意味を奪うなよ!! なんでそんなに強くなるんだよ!!! 『なりたくてなったわけじゃない』だ……? 大概にしろよふざけんのも!!! だったら俺は、そんな風に思ってたお前に追い抜かれたってのか!!? 護るべき人間に置いてかれる気持ち考えたことあんのかお前は!!!」
「…………なに……それ………。……おかしい……おかしいよトライフ……!!!」
「おかしいのはお前だティローナ!! そもそもなんでそんなに強いんだよ……なんであの時は弱者のフリをしてたんだよ……。……なんでそんなに美しいのに……化物みてえな動きが出来るんだよ……。全部おかしいんだよお前は!!!」
「……ねえ……やめてよ………お願い……だから……」
「……さっき言ったよな、ティローナ。『お前は俺の生きる意味だった』って。お前は俺に生きる意味を与え、そして、俺の生きる意味を奪ったんだ。だから……決めたんだよ。俺の生きがいを奪ったお前の強さを……俺の手で……ぶっ壊してやるって……!!」
「…………トライフ………」
悔しくて、言葉が出てこない。
悲しくて、涙が止まらない。
こんな風に言われるなんて思わなかった。
あなたのために頑張って来た。
それは紛れもない事実なのに。
なんでこんな風に言われなくちゃいけないの?
どうして大好きだった人に理不尽な言葉をぶつけられなきゃいけないの?
何だったの?
私のこれまでの努力の全ては。
こんなことを言われるために、強くなったんじゃないよ。
こんな顔をされるために、聖鳳軍に入ったんじゃないよ。
ただ、あなたに、『頑張ったね』って、『凄いね』って。
『一緒になれて嬉しい』って、言われたかっただけなの。
あなたに『会いたかった』だけなの。
もう、嫌だよ。
生きていけないよ。
私の方だって、もう、生きる意味なんて……
――――放心。
ただ涙だけが永遠に垂れて来る。
止まらない。止まらない。止まらない。
「――――さあ、構えろよ。ティローナ」
「…………ええ…………?」
「何度も言ってんだろ? お前を否定しに来たってさ。せめて構えてくれよ。無抵抗のお前を殴れってのか?」
「…………いやだ……いやだいやだいやだいやだ!! 戦いたくない……!! あなたとなんて戦えるわけない……!!! お願い!! 辞めてよトライフ……!! ……優しいあなたに戻ってよ……!!」
泣き叫びながら情に訴えるのが精一杯のティローナ。
そんな彼女に怒りを覚えるトライフ。
戦意が消え失せたティローナには、もう動くことすらできない。




