第百九十九話 『終わりの出会い』
――――終わった。
いや、分かっていただろう。
聞くまでもなかっただろう。
あいつとの差は、一目瞭然だった。
これからどこにいけばいい。
何をすればいい。
今更、あそこへは戻れない。
他に行く当てもない。
もう、生きる目的もない。
護る者を失った俺は、どこに行ったらいいんだ。
――――帰り道。
トライフは一人、ふらついた足で会場を後にした。
しばらく立ち上がれなかったので休んでから動いたため、他の受験生より遅れて会場を出た。
ティローナとヒナノは、合格者としての業務が残っていたため部屋を移動した。
ティローナに会うわけにはいかない。
トライフはふとそう思い、できるだけ急いで会場を出た。
――――といっても、帰る場所が無い。
自らが立てた誓いのせいで、あの場所には戻れなくなってしまった。
どうするか……。
ティローナは今日にでも俺がいないことに気付くだろう。
すぐにでも俺を探そうとするだろう。
……ダメだ。
見つかるわけにはいかない。
今ティローナに会ったら、俺は死んでしまう。
会いたいけど会いたくない。
どこか遠いところへ行って、そこでひっそりと暮らそう。
この情けない拳は、永遠に使わないようにしよう。
そこで生きる意味が見つからなかったら、この命は終わらせてしまおう。
恥を持ちながら生き続けるよりはいい。
ティローナには悪いけど、俺のことは忘れて、できるだけ幸せに暮らしてくれ。
それから、本当にごめん。
約束、守れなくて。
中央都市を抜け、当てもないままミドルハイムとは反対方向へと歩いていくトライフ。
自身の今後を考えると絶望しかない。
「ティローナがこの世にいる」ということだけが命を繋ぎ止めている。
だがそれも、いつまでもつだろうか。
――――知らない村についた。
これと言って特徴の無い普通の村だ。
だが、まだここでは近すぎる。
さっさと抜けて、奥に行ってしまおう。
そそくさと村を抜けようとするトライフ。
できるだけ、ティローナとミドルハイムから遠いところへ行かなくては。
しかし、
「――――あいつは……!!!」
トライフの急ぎ足は村の出口付近で止まった。
視線の先には男がいた。
嫌でも思い出してしまう男が。
大柄な体格といかつい顔。
今日、試験で対戦した男だ。
一人で座っている。
奴を見た瞬間、途端に怒りが湧いてきた。
ティローナの強さはどうしようもなかった。
だがそれ以上に、自身があんな惨めな思いをしたのは、こいつのせいだ。
こいつのせいで、ティローナはあんな目をしたのだ。
それに、普通に戦えば俺の方が余程強いはずだ。
許せない。
俺がお前のせいでこんな目に遭っているのに、のうのうとしやがって。
思い知らせてやる。
お前が怒らせた男の強さを。
「――――おらっ……!!!」
トライフは座っていた男の顔面を思いっきり殴り飛ばした。
男はあまりの衝撃に状況が読み取れない。
そんな男に対して、トライフは無言で殴り続ける。
さっき、自分がされたように。
そして、これまでの怒りや悲しみをぶつけるように。
途中から、全く抵抗されなくなった。
動かなくなった。
それでも、トライフは拳を振り下ろし続けた。
これが、生きる目的を無くした男の姿だ。
だが、
「――――何やってるんだお前は!! こいつを捕らえろ!!!
騒ぎを駆け付けた男たちによって、トライフは取り押さえられた。
怒りのままに抵抗し続けたが、疲労と数に抑えられ、捕縛された。
その後、トライフは地下牢獄へと連行されていった。
でももう、どうでもよかった。
何なら、ティローナに会わなくて済むだけよかったと思った。
このままここで、一生を終えようとも思った。
――――その、次の日。
「――――ほう。中々いい目をしている人間が入って来たな」
トライフの前に、小さな男の子が姿を現しそう言った。
どこから入って来たのか。何者なのか。
疑問は他にもあったが、今の俺にとってはどうでもいいことだ。
そっぽを向くトライフに、子どもはさらに話しかける。
「――――私の名はラスドラーゴ。私は今、仲間を集めている。どうだ? ここから出してやる代わりに、私の元につかないか?」
「…………生憎だが、俺はもう上に用はないんだ。行ってやることもない。それに、お前なんぞの下に付くなんてごめんだ、ガキ」
「ガキか……では、これを見せよう」
変形するラスドラーゴ。
人間と魔物の中間体である、中サイズの姿に変身した。
「……これでも何十年も生きているのだ。――――話を戻そう。私なら、お前に力を与えられる。口ではそう言っているが、お前の目はどうしようもなく強さを求めている。例えばほら、こんなのはどうだ?」
動揺するトライフに手をかざすラスドラーゴ。
すると、トライフの身に異変が起こった。
「……なんだ……これは……」
「少しばかりお前に眠る力を呼び起こさせてもらった。今のお前なら、そんな錠や牢、簡単に壊せるはずだ」
トライフは力を少し込めてみた。
すると、外部から激しい力が働き、彼を縛る錠が破壊された。
さらに牢を殴ってみると、同じように粉々に。
「その力は、お前のほんの一部の力だ。もっと試してみたいと思わないか? お前の本当の力を」
「……これが俺の『本当』の力か……。――――いいぜ、あんたと一緒に行ってやる。やりたいことができた。だが、俺はあんたを利用するだけだ。俺のためにな。あんたの下につくわけじゃない」
「ふっ、いいだろう。では、着いてこい。――――そうだ。お前の名は何という?」
「……………ドラウクだ」
ラスドラーゴの勧誘を受けたトライフは、彼と共に本部へと戻っていった。
トライフはこう捉えていた。
これが、自身の真の力。
あの村での教えは、自分の力を出し切れない、無意味なものだと。
そう考えるうちに、自分を勘違いさせたカルダ流が憎くなった。
自分の本当の力で、カルダ流を否定したくなった。
その後、ラスドラーゴに力を引き出される代わりに、肉体は人間の物ではなくなっていった。
だが構わなかった。
本当の力を手に入れられるなら。
やがて自身の流派を鍛えるうちに、具体的な目標が出来た。
カルダ流を超える。
そして、ティローナの強さを否定するという目標が。
北拠点を任されるようになってからは、ティローナが死なないように監視していた。
時が来たら必ず、自分の手で否定するために。
そして、鍛錬を続け自身の流派を完成させた今年。
その、ティローナの誕生日。
彼は、ミドルハイムの壊滅及び、ティローナの否定への実行に移った。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――現在。
「――――理由か……。そうだな、お前を……お前たちを否定するためだよ。ティローナ」
「……!! 否定……?」
こうして、すれ違い続けた二人は、再会する。




