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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第七章
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第百九十七話 『強者の衝突』

 ――――ありえない。


 今見える光景、全てがありえない。


 『あいつ』じゃない。

 目の前にいるのは、あいつじゃない。


 あんなに泣いていた女だぞ?

 強くなりたくないって、嘆いていた女だぞ?


 戦いなんて向いていない。

 彼女が背負った戦いに関する物は、全て俺が引き受けるはずだったのに。


 本当にこれが、あのティローナなのか……?


 ――――いや、間違いない。


 今目の前で暴れているのは正真正銘、共に過ごしたティローナという女だ。


 歯を食いしばって顔をしかめていても、いつの間にかつい見てしまうような美しさ。

 彼女が動く度に舞い上がる綺麗な長い黒髪。


 見間違えるはずもない。


 そして、その動き。


 間違いなく、マービアン・カルダートによるものだと分かる。


 自分とよく似た動きをしているから。


 しかし、そのキレや迫力は段違いだが。


 そして、そのティローナと戦っている女もおかしい。


 まだガキじゃないか。


 なのに、空を駆けながら、夢でも見ているような攻撃を次々と繰り出している。


 炎の海、氷の風。

 繰り出す技全てが、人間の範疇を軽く凌駕している。


 なんなんだこれは。

 夢なら早く覚めてくれ。


 怪物みたいなガキと、化物になってしまったティローナが、暴れまくっている。


 なんだったんだ。

 俺のこれまでの全ては。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 会場にいた全員が、二人の少女の戦いに息を飲んでいた。

 試験官を務めているマーノですら、目の前の二人に恐怖を覚えるほどだった。


 「(……本当に凄い……! ヒナノちゃん…!! こんなの見たことない…!!)」


 ヒナノが次々と繰り出して来る、小さな災害のような魔法。

 それを何とか全て回避しながら、ヒナノとの距離を詰めていくティローナ。


 「(……でもきっと……ヒナノちゃんは本気じゃない…! 私が避けられるように手加減してくれてる……!  ごめんね、ありがとうヒナノちゃん……!!)」


 ヒナノの魔法はギリギリ当たらない。

 これをヒナノが本気じゃないからと考えるティローナ。

 自分がこんなに躱せるはずがない。


 そんなヒナノは、


 「(……なんなの……。……全部避けてくる……。この人……本当に人間なの……?)」


 ドン引きしていた。

 

 もちろんヒナノは手加減などしていない。

 逆に手加減するのは失礼だとし、ほとんどフルパワーで臨んでいる。

 しかし、一発も当たらない。

 

 受験者の中でなんて、自分だけが突出した天才だと思っていたのに。 

 余裕で合格するつもりだったのに。


 下手したら――――やられる。


 舞台を華麗に舞いながら、ヒナノとの距離を詰めてくるティローナ。

 だがヒナノもノンストップで魔法を繰り出し続け、近寄らせないように奮闘する。

 

 ヒナノの狙いは、ティローナの体力切れ。

 ティローナの狙いは、彼女への接近。


 だがお互い、その体力が尽きるには時間が掛かりすぎる。


 「(……このままじゃ埒があかないわ……。というか、もし当たったとしても、この人にどれだけ効くか分からない……。だったら…………)」


 プラン変更。

 ヒナノはこれまで通り魔法を出しながらも、その間隔を少しだけ開け出した。


 当然、ティローナはそのインターバルの分前進し、着実にヒナノとの距離を詰めていく。


 そして、 


 「(ここ……! ごめんねヒナノちゃん……!!)」

 

 ヒナノの波状攻撃を掻い潜り、ついに射程範囲まで近づくティローナ。

 その隙を逃さず、心の中で謝罪しながら、ヒナノの胸に拳を打ち込んだ。


 「え……!!?」


 しかし、


 拳は上手く入らなかった。

 ヒナノの胸に少しだけ触れた状態で止まっている。

 同時に、ティローナの動きも止まっている。


 闘技場の端、数ヶ所から透明の線が出ており、それらがティローナの身体に巻き付いていたのだ。

 

 「……ごめんなさいねティローナ。あなた相手には、こうするしかなかったの」


 ヒナノのあれはインターバルを空けていたわけではなく、その間に別の魔法を使っていた。

 いや、トラップを設置していた。


 「……降参しなさい。この状態のあなたに、攻撃はしたくないわ」


 ヒナノは魔法を放つ構えを取りながら動けないティローナに告げる。

 それを見たマーノも、対戦終了の合図を出そうとする。


 しかし、


 「やあっ!!」


 「え!?」


 ティローナは力付くで、透明の縄を引き千切った。


 他の受験者は何が起こったか分からぬまま、ヒナノだけが、彼女の異常さにおののいている。


 その隙に、ティローナダッシュ。


 今度こそ、ヒナノに攻撃を当てられる。


 「えいっ!!」


 また胸狙い。

 拳を繰り出した。


 それを魔法で身長を縮めて躱すヒナノ。

 さらに一瞬足を加速させ緊急回避。


 しかし、すぐにティローナも追撃してくる。


 だが、


 「がっ……!!」


 ティローナが初めてまともに喰らった。

 予め地面に仕掛けておいた炎の弾が上昇し、追撃しかけたティローナの顎にクリーンヒットする。


 一瞬、ティローナの動きが緩んだ。


 その隙を逃すことなく、さらに仕掛けるヒナノ。

 

 ティローナを中心に何重もの牢を作りだし、彼女を閉じ込めることに成功する。

 

 だが、まだヒナノは手を緩めない。


 地面に手を付けると、ティローナがいる場所を遠隔で連続で爆破した。 


 「……ふう……悪いわね……ティローナ……」


 少しやり過ぎた。

 そんな風に思いながら、牢に近づいていくヒナノ。

 おそらくティローナは気絶しているだろう。

 急いで自分の手で回復してあげたい。


 「――――なっ……!!!」


 しかし、それはヒナノの勘違いだった。


 数十枚に囲んだ牢を拳でぶっ壊しながら、焼け焦げたティローナが突っ込んできていた。


 これほどのダメージを受けていながら。

 まだ動くことを辞めないなんて。


 油断した。

 完全に防御が遅れ、ティローナの振りかぶった拳がヒナノの顔面に入ろうとする。


 「――――そこまで!!!」


 だが、ここでストップが掛かった。


 試合終了。


 もはやこれ以上見る必要もないだろう。

 

 ティローナは本能的に拳を止め、ヒナノはその場にへたれこんだ。

 ティローナの方も、勢いよく前に倒れた。 


 いや、気絶している。

 ストップが耳に入ったことで、プツンとエンジンが切れたようだ。 


 それを受け止めたヒナノは、彼女の治療を開始する。


 「(……負けていたわ……。……完全に、私の負け……。……なんて人なの……ティローナ……)」


 初めての挫折。

 

 自分よりも天才かもしれない同性に、こんなところで出会うなんて。


 でも、逆にワクワクするわ。


 もしまた機会があれば、今度は絶対に負けないと誓おう。


 ここであなたに会えて、よかったわ。

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