第百九十六話 『二輪の花』
「(……うわあ……こんなにいるんだあ……)」
会場の中に入ったティローナは、全体の説明があるホールへと案内された。
かなり広いホールだ。
前方にズラッとパイプ椅子が並んでいる。
そのうちの半分以上には既に受験者が着席している。
「(……えっと……ここ……だよね……)」
ティローナは、受付の際に渡された紙を見ながら着席する。
席は指定されているようだ。
ティローナが座ったのは、右から十五番目の席。
丁度真ん中辺りだ。
――――そして、後から入って来たトライフは、
一番左の席へと腰を下ろした。
始まるまであと数十分。
ティローナは、激しい緊張に押しつぶされそうになっていた。
両側も見渡しても、図体のでかい男や怖そうな武器を持った男ばかりが目に映る。
左隣の男なんて、堅気がどうか怪しいほどの眼光を放っている。
この空間において、手ぶらの十七の少女は明らかに浮いている。
というか――――
「(……女の子……私一人だけだ……)」
見渡す限り、男しかいない。
ティローナは顔を手で覆った。
『私なんかが受かるわけがない』
会場の雰囲気に飲み込まれ、もうほぼ諦めてしまった。
あれだけ頑張ったけど、きっと、この人たちはもっと凄い人たちなんだろう、と。
「――――ここかしら」
右隣に誰かが座った。
その声に反応し、ティローナは隠していた顔を表に向ける。
右に目を向けたティローナの瞳には、自分よりもよっぽど小さな女の子が座っているのが映った。
彼女もティローナの視線に気づき、そちらに目を向ける。
驚いたようなティローナの表情に少し微笑むと、
「お隣ね。よろしく」
と、彼女は言った。
「うん……」と、頷くティローナ。
さらに彼女は続ける。
「緊張してるの? もっとリラックスした方がいいわよ」
「……え? あ、ああ、ありがとう…………」
可愛らしい子だ。
三つか四つくらい年下だろうか。
「――――あなた、名前は?」
「え……えっと、ティローナ・カルダート……」
「私、ヒナノ・スエリア。天才よ。よろしくね、ティローナ」
「うん……。よろしくね、ヒナノちゃん……」
ガチガチになっているティローナの肩をほぐそうとして話し掛けてくれたヒナノ。
それにしてもこの子、凄い自信だ。
何だかこの子を見ていたら、ウジウジ悩んでいた自分が馬鹿らしくなってくる。
私より小さな女の子が受けに来ているのだ。
しかもこんな堂々と。
『もしかしたら、大丈夫かも』
そんな風に、彼女に勇気づけられた。
そして、
「――――大変お待たせしたね」
開始時間となり、今回の試験官となる男が舞台に現れた。
受験者たちの注目は一斉にそちらに向いた。
中には、安心している者や笑っている者もいる。
「この度は集まってくれてありがとう。私が、今年の試験官を担当する、マーノ・ジャッロだ。皆、よろしく」
優し気な笑顔を浮かべ、全体を見渡しながら話すマーノ。
当時の試験官では、受験者からの評判もかなり高い、当たりと呼ばれている男だ。
「早速だけど、今回の試験内容について、お伝えするよ。――――今回は、ペアでの模擬戦を行う。予めこちらでペアを組ませてもらっている。その相手と、向こうにある闘技場で戦ってもらう。特にルールは設けない。こちらが止めるまで、戦闘を行ってもらう感じだ」
ざわめく会場。
マーノの試験内容は二パターンだ。
こっちでよかったと思う者もいれば、もう片方が望みだったと脳内で嘆く者もいる。
ティローナ・カルダートの場合は、どちらも心配しかないが。
「今年の受験者は四十人。受験番号順に順番で行う。つまり、一番の人は二番と、三番の人は四番の人と、という感じだ」
ティローナは口をあんぐりと開けて驚いた。
そして、左を見渡して数を数え、右に視線を移す。
隣のヒナノは、ティローナに強気な笑顔を見せる。
「何か質問あるかな?」
「はい! 一つよろしいですか!?」
左の方の受験者が手を挙げた。
マーノは笑顔で頷く。
「合否の基準はどのようになるのでしょうか!?」
「総合力で決めさせてもらうよ。相手を圧倒すればいいわけではない。不公平にならないように、私が決めた基準を満たしている者全員に合格を出すつもりだよ。それから、定員などもない。極端な話、君たち全員が合格になるかもしれないし、もしかしたら、一人も合格者が出ないかもしれない」
「ありがとうございます!!!」
「よし、じゃあ全員で闘技場へ移動するよ。私に、着いてきてくれ」
マーノを先頭にホールを後にする受験者一行。
その道中、
「ティローナ。よろしくね」
「うん……。ヒナノちゃんと戦わなきゃいけないなんて……やだなあ……」
「手加減とか全くいらないから、本気で掛かってきなさい。――――お互い、悔いのないようにやりましょ」
「……ありがとう……!! ヒナノちゃん……!!」
またまたヒナノに元気づけられた。
隣に彼女がいて本当によかった。
そうだ。
諦めちゃいけない。不安に飲まれちゃいけない。
あれほど努力したのだ。
あの日々はきっと、無駄ではなかったはずだ。
覚悟を決めたティローナ&自身を宿したヒナノ、決戦の舞台へ。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして、本番。
一番と二番が舞台。
ティローナやヒナノたちは、二階席へと案内された。
彼女たちは待機している間、上からそれぞれの戦いを眺めて時間を過ごす。
ティローナは十五番、ヒナノは十六番。
合計、七戦分待つことになる。
第一戦目、ティローナは前で手を組みながら、戦闘を見降ろしていた。
席は自由。
今はヒナノは向こう側にいる。
ただ、ここでティローナは違和感を覚える。
それは一戦目の光景。
お互い、屈強な男同士のバトルだったが、
驚きがないことが驚きだった。
あまり迫力や凄さを感じない。
大体マービアンと同じくらいの体格だが、彼に比べると素人のような動きに見える。
それは、二戦目から六戦目も同じだった。
「――――よし、十五番と十六番、下に降りて」
「(来たっ……!!!)」
出番が来た。
やっぱりカチコチになりながら、階段を降りていく。
対するヒナノは、そのままフワリと飛び降りてきた。
「(え……!? 何今の……!? ヒナノちゃん、何者なの……!?)」
視線の先にはそのヒナノ。
細長い杖を持っている。
「――――さあ、行くわよティローナ!! さっきも言ったけど、本気で来なさい!」
「……う、うん……!! 私も……負けないよ……!!」
「――――それでは、始め!!」
ティローナ・カルダート、十七歳。
ヒナノ・スエリア、十四歳。
今年ただ二人の、女性同士の戦い。
それは――――歴史に残る伝説となる。




