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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第七章
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第百九十五話 『呪いの誓い』

 数か月が経った頃。


 「――――よし……!!」


 トライフは、カルダ流をほぼマスターしていた。

 内部からの完全破壊、そして攻撃した手も無事。

 ただ一つ、長時間使えないことを除けば、継承されたと言ってもいい出来だった。


 「すごい……! トライフ……!!」


 ティローナの方は、全然だった。

 あんまり成長していなかった。

 なぜなら、父の稽古がトライフに集中するようになっていったから。


 ティローナは、トライフの頑張りをただ隣で見ていることが多くなった。

 

 「……よくやったぞ……!! トライフ……!!」


 それはマービアンにとっても、嬉しいことだった。


 マービアンとて、嫌がる娘に稽古を付けるのは心苦しいものだったから。


 ティローナと違ってトライフは、痛みなど気にすることなく、どんどんと練習を重ねっていった。

 彼には、誰かのために強くなりたいという思いがあったから。


 マービアンは、このままトライフをカルダート家に迎え、彼を正当な後継者にしようとも思うようにもなっていた。


 そうすれば、ティローナはもう、強くなる鍛錬を積まなくてもいいと。

 一族として課せられた自身の役目を終えることができると。


 ニーファも、トライフを実の息子のように可愛がっていた。

 父子家庭で育ったトライフも、ニーファの術に憧れ、彼女の優しさに懐いていた。


 ――――そして、さらに数日が経った、ある日。


 トライフは、初めて出会った空き地に、ティローナを呼び出した。


 「……ねえ、トライフ。どうしたの? こんな時間に……」


 静かな夜だった。

 今でも、心に沁みついている、忘れられない夜だった。


 「……ティローナ。ちょっと、話があるんだ」


 「……うん、なんの話……?」


 「……俺さ、少しミドルハイムを離れようと思ってるんだ」


 「え……どうして……?」


 「カルダ流はマスターできた。俺はせっかく手に入れたこの力を使いたいんだ。だから、その機会が最も多いだろう、聖鳳軍の入隊試験を受けに行ってくる」


 「……!! 入隊試験……!?」


 カルダ流は、人間相手に使うことができない。

 魔物相手にしか使うことができない。


 だから、魔物と最も遭遇することが多い、聖鳳軍の立場を望んだ。

 己の力を試したいと思ったから。


 「……ああ。でも、安心しろよ。そんなに離れるわけじゃないからさ」


 「……うん、そうだよね……」


 毎日一緒にいた彼と離れるのは辛かった。

 でも、彼の意思は尊重したい。


 ティローナはこの時、止めようとする言葉を飲み込んだ。

 そんなティローナの様子を見たトライフは、彼女に強い言葉を掛ける。


 「……そんな顔するなよ、ティローナ。――――必ず軍のトップになって、お前を一生護るから。――――だから、このミドルハイムで待っててくれ」


 「……!! う……うん、ありがとう……!! ずっと、待ってるね……トライフ……!!」


 その言葉は、自身に掛けたものでもあった。

 あの時言った台詞。

 それは、単なる約束ではなく、自分の存在意義そのものにもなっていた。


 ――――翌日。


 宣言通り、トライフはミドルハイムを後にして、中央都市へと行ってしまった。


 ティローナは彼が帰ってくるのを待っていた。

 毎日、トライフのことを思い出していた。


 しかし――――トライフが帰ってくることはなかった。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 何度も中央都市に行こうと思った。

 だけど、それはあの時のトライフの言葉を否定しまうとも理解していた。


 だから、何か重要な任務があるとか、どうしても帰って来られないほど遠方で仕事をしているとか、そう希望を抱いて待っていた。


 そのまま、八か月が経った。


 ティローナは、日に日に彼に会いたい気持ちを抑えられなくなっていた。

 そしてある日、ティローナは決意する。


 「ねえ、お父さん……! もう一度、私にカルダ流を教えて……!!!」


 自身もトライフと同じように、聖鳳軍の入隊試験を受けることを。


 約束を否定したくなかった。

 だけど、もうこんなに経つ。


 自分から、会いに行きたい。

 待っているだけじゃいられない。

 聖鳳軍に入れば、また、正式に彼と会うことができるはずだ。


 その時会えたら、謝ろう。

 でもきっと、トライフなら、「なんでもない」って言ってくれるはずだ。


 『――――ごめんねトライフ。でも私、これ以上待てないよ。あなたに会いたい』 


 マービアンは娘の意思を尊重し、再び腰を上げ稽古を付けた。


 ティローナの意欲はかつてないほど高まっていた。


 「彼に会いたい」

 そんな思いで、痛みを忘れ、強くなるために動き続けた。


 次の試験の日まで四ヶ月。

 ティローナは、死ぬ気で鍛錬に励んだ。


 その甲斐もあり、試験直前には完璧にカルダ流をマスターしていた。

 それだけではない。

 フィジカルもスピードもパワーもスタミナも、全てが別人のように向上していた。


 そして、試験当日の早朝。


 「……それじゃあ、お母さん、お父さん。行ってくるね!!」


 ティローナは、一年前の彼と同じように、中央都市へと一人向かった。

 マービアンとニーファは、別人のようになっていた頼もしい背中を、涙ながらに見送った。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 「――――うわあ……ここが中央都市……緊張するなあ……」


 無事に都市へと着いたティローナ。

 緊張で腰を抜かしそうになりながら、会場へと向かっていた。


 受付を済ますティローナ。

 申し込みは、郵便でも行うことができる。

 その点は抜かりない。


 「(……よおし頑張るぞ……!! 待ってて、トライフ……!!)」


 いざ、試験。

 会場へと足を踏み入れるティローナ。


 ――――しかし、そんな彼女の背中を激しく動揺しながら見つめていた男の姿があった。


 彼はすぐに前方に並んでいたティローナに気付くと、一旦その場から姿を消し、帽子を被り、マスクを着けて戻って来た。


 そして、彼もまた受付を済まし、会場へと入っていった。


 彼は、去年に続いて二度目の挑戦だった。


 去年は三次中、一次での不合格に終わった。

 信じられなかった。ありえなかった。


 あまりの恥ずかしさと悔しさに、彼は戻ることが出来ずにいた。


 だから誓った。


 来年こそは必ず合格し、晴れて戻ろうと。

 できれば、去年合格した体で。


 この一年間、一人山に籠り、修業を積み続けていた。

 全ては、この日のために。


 その男は――――トライフ。

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