第百九十三話 『待ち望んだ再会』
「――――そんな……。……間違いないのですか……?」
「…………うむ……」
ミドルハイムの外。
ニーファが作成した結界の中。
周りには、既に避難が完了した村人たちが座っている。
ここにいれば、ひとまず安全だ。
後は、娘が侵入者を倒してくれれば。
しかし、マービアンが伝えた先の出来事の内容に、ニーファは激しく動揺していた。
「……そうですか……。……ですが…………」
「……ティローナもやがて気づくかもしれん。そうなれば……おそらく、ティローナに……」
マービアンは回想する。
先程、ドラウクと戦った際のことを。
翔英がミドルハイムに向かった後、マービアンは村を襲おうとする賊との戦いに身を投じた。
敵が醸し出すオーラから、この男が人間ではなく魔物であることを感じ取ったマービアン。
彼は、人間相手には使わない、カルダ流を用いて敵を葬ろうと挑んだ。
だが、敵にカルダは通じなかった。
予想外だったが、敵が対策方法を知っていることを受け入れ、素手での戦いに入った。
素手でもドラウクと渡り合う強さを見せていたマービアンだったが、やがて彼の動きは止まることになる。
戦っているうちに、拳も交えるうちに、この男の拳が記憶に宿っている拳と一致したことで。
動揺を消すために、マービアンは問うた。
その答えが、さらに動揺を膨れ上がらせることになる。
敵のアンサーを聞いたマービアンは、一瞬戦意を消してしまう。
その隙を突かれ、マービアンは彼に敗北するに至った。
――――という話をニーファにしたマービアン。
ニーファは激しいショックを受けた。
マービアンも同様だ。
「……戦うことが出来なくなってしまうでしょうね……。……ですが、それは私たちも同じです……。正直、受け入れられません……」
「……あいつは言っていた。「カルダを潰しに来た」と。……何があったのかは知らないが、この八年間で、あいつは変わってしまった……」
「……私も行きましょう……。あの子一人に、背負わせるわけにはいきません……」
「……だったら、俺も行く……。本来なら、俺が片づけねばならんことだ……」
立ち上がったニーファ。
その後ろに続こうとするマービアン。
だがニーファは、ふらふらと立ち上がった彼を再び座らせた。
「……なりません。あなたはまだ重体。ここにいてください」
「……それは、お前も同じだろう……。お前の術は既に……」
「……いいえ、あなたとは違います。まだ私は動けますし、術も、何とか使うことができます。……それに、あなたも彼と戦えないでしょう……。私は、そうだと分かっていれば戦えます」
「そんなこと…………いや、分かった……」
確かに歩くことすらギリギリの自分なんぞ何の役にも立たない。
ましてやメンタルもやられてしまっている。
マービアンは再び腰を下ろした。
「……では、私は行きますね……」
反対にニーファは戦場へと戻っていく。
願わくは、ティローナが既に勝利していることを期待して。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――だが、そのティローナは既に。
激しい動揺に陥っていた。
マービアンの比ではない、立っていることすら難しいほどの動揺が、彼女を襲う。
マスクを取り、帽子を外し、素顔を晒した敵の姿。
『完全に同じだ』
自身が待ち望んでいた人間のものと。
だが、喜べない。
本当は今すぐに抱きしめに行きたいのに。
この男は、村を襲い、人々を襲い、父親を、そして自分を殺そうとしている男だ。
……いや、少し考えてみる。
彼が、そんなことをするわけがない。
彼は守る側の人間だ。
もしこの男が彼ならば、襲うことなんてありえるはずがない。
似ているだけだ。
そうに違いない。
それによく見れば、口元が変色しているし歯がギザギザしている。
良く知っている彼は、そんな魔物みたいな外見はしていない。
「……トライフ……じゃないよね……」
ティローナは呟いた。
聞こえるか聞こえないかギリギリの声で。
返答が怖かったから。
だが、彼は、
「…………やっと気づいたか、ティローナ」
と、少し笑いながら答えた。
「……なっ……!!!! …………なんで……」
そう答えた彼の姿は、さらにティローナの記憶を呼び起こした。
その笑み、そして、名前の呼び方。
同じだ。悲しいほどに同じ。
言葉が出てこないティローナに対して、ドラウクはさらに続ける。
「……そういえばこの辺り、よく二人で来たよな。――――ほら、向こう見てみろよ。あそこのベンチ、昼飯食べたりしたろ? 懐かしいな」
「……………………」
「……っていうか、ティローナ、何年振りか分かるか? 俺たちがこうやって顔を合わせるの。――――八年ぶりだよ。この村に来るのも、八年ぶりだ。お前が帰って来てるって聞いた時は驚いたよ。後で会いに行こうと思ってたから」
「……………………」
「……それよりさ、随分気付くの遅かったな。もっと早く気付いて欲しかったよ、ティローナ。お前から気付いてくれるのずっと待ってたんだぜ?」
「……………………」
「それに比べて、マービアンは割と早かったな。ショックだよ、ティローナの方が早く気付いてくれると思ってたからさ。それから……そうだ。お前に言いたいことがあったんだよ。――――誕生日おめでとう。ティローナ」
「……………………」
――――何となく、そんな気はしてた。
カルダ流に対応してくることだってそうだし、その声や目元もどこか彼を彷彿とさせるものだった。
でも、絶対気のせいだと思った。
だって、もし本当に彼ならば、こんなことをするはずがないから。
こんなことをしていることが、何よりも彼ではない証明になっていた。
だから、言わなかった。
表に出さなかった。
このまま、村を襲った敵として倒すつもりだった。
なのに、どうして―――――
「……ねえ、なんで……なんであなたが、こんなことしてるの!!!?」
「…………どうした?」
「なんでよ!! どうして!!? 何をしてるの!? なんで!! なんでなんでなんで!!!! なんであなたがそうなの!!?」
「…………落ち着けよ、ティローナ……」
「落ち着けるわけないよ!! どうしてこんなことをしてるのか答えてよ!!! ねえ!! トライフ!!!!」
「…………ティローナ…………」
――――九年前、初めて会った彼。
彼は、私の心の中に深く深く入り込んだ。




