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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第七章
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第百九十三話 『待ち望んだ再会』

 「――――そんな……。……間違いないのですか……?」


 「…………うむ……」


 ミドルハイムの外。

 ニーファが作成した結界の中。


 周りには、既に避難が完了した村人たちが座っている。

 ここにいれば、ひとまず安全だ。

 後は、娘が侵入者を倒してくれれば。


 しかし、マービアンが伝えた先の出来事の内容に、ニーファは激しく動揺していた。


 「……そうですか……。……ですが…………」


 「……ティローナもやがて気づくかもしれん。そうなれば……おそらく、ティローナに……」


 マービアンは回想する。

 先程、ドラウクと戦った際のことを。


 翔英がミドルハイムに向かった後、マービアンは村を襲おうとする賊との戦いに身を投じた。


 敵が醸し出すオーラから、この男が人間ではなく魔物であることを感じ取ったマービアン。

 彼は、人間相手には使わない、カルダ流を用いて敵を葬ろうと挑んだ。


 だが、敵にカルダは通じなかった。

 予想外だったが、敵が対策方法を知っていることを受け入れ、素手での戦いに入った。


 素手でもドラウクと渡り合う強さを見せていたマービアンだったが、やがて彼の動きは止まることになる。


 戦っているうちに、拳も交えるうちに、この男の拳が記憶に宿っている拳と一致したことで。

 

 動揺を消すために、マービアンは問うた。

 その答えが、さらに動揺を膨れ上がらせることになる。


 敵のアンサーを聞いたマービアンは、一瞬戦意を消してしまう。


 その隙を突かれ、マービアンは彼に敗北するに至った。


 ――――という話をニーファにしたマービアン。


 ニーファは激しいショックを受けた。

 マービアンも同様だ。

 

 「……戦うことが出来なくなってしまうでしょうね……。……ですが、それは私たちも同じです……。正直、受け入れられません……」


 「……あいつは言っていた。「カルダを潰しに来た」と。……何があったのかは知らないが、この八年間で、あいつは変わってしまった……」


 「……私も行きましょう……。あの子一人に、背負わせるわけにはいきません……」


 「……だったら、俺も行く……。本来なら、俺が片づけねばならんことだ……」


 立ち上がったニーファ。

 その後ろに続こうとするマービアン。


 だがニーファは、ふらふらと立ち上がった彼を再び座らせた。


 「……なりません。あなたはまだ重体。ここにいてください」


 「……それは、お前も同じだろう……。お前の術は既に……」


 「……いいえ、あなたとは違います。まだ私は動けますし、術も、何とか使うことができます。……それに、あなたも彼と戦えないでしょう……。私は、そうだと分かっていれば戦えます」


 「そんなこと…………いや、分かった……」


 確かに歩くことすらギリギリの自分なんぞ何の役にも立たない。

 ましてやメンタルもやられてしまっている。


 マービアンは再び腰を下ろした。


 「……では、私は行きますね……」


 反対にニーファは戦場へと戻っていく。


 願わくは、ティローナが既に勝利していることを期待して。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ――――だが、そのティローナは既に。


 激しい動揺に陥っていた。

 マービアンの比ではない、立っていることすら難しいほどの動揺が、彼女を襲う。


 マスクを取り、帽子を外し、素顔を晒した敵の姿。


 『完全に同じだ』


 自身が待ち望んでいた人間のものと。


 だが、喜べない。

 本当は今すぐに抱きしめに行きたいのに。


 この男は、村を襲い、人々を襲い、父親を、そして自分を殺そうとしている男だ。


 ……いや、少し考えてみる。


 彼が、そんなことをするわけがない。

 彼は守る側の人間だ。

 もしこの男が彼ならば、襲うことなんてありえるはずがない。


 似ているだけだ。

 そうに違いない。


 それによく見れば、口元が変色しているし歯がギザギザしている。

 良く知っている彼は、そんな魔物みたいな外見はしていない。


 「……トライフ……じゃないよね……」


 ティローナは呟いた。


 聞こえるか聞こえないかギリギリの声で。

 返答が怖かったから。


 だが、彼は、


 「…………やっと気づいたか、ティローナ」


 と、少し笑いながら答えた。


 「……なっ……!!!! …………なんで……」


 そう答えた彼の姿は、さらにティローナの記憶を呼び起こした。


 その笑み、そして、名前の呼び方。


 同じだ。悲しいほどに同じ。


 言葉が出てこないティローナに対して、ドラウクはさらに続ける。


 「……そういえばこの辺り、よく二人で来たよな。――――ほら、向こう見てみろよ。あそこのベンチ、昼飯食べたりしたろ? 懐かしいな」


 「……………………」


 「……っていうか、ティローナ、何年振りか分かるか? 俺たちがこうやって顔を合わせるの。――――八年ぶりだよ。この村に来るのも、八年ぶりだ。お前が帰って来てるって聞いた時は驚いたよ。後で会いに行こうと思ってたから」


 「……………………」


 「……それよりさ、随分気付くの遅かったな。もっと早く気付いて欲しかったよ、ティローナ。お前から気付いてくれるのずっと待ってたんだぜ?」


 「……………………」


 「それに比べて、マービアンは割と早かったな。ショックだよ、ティローナの方が早く気付いてくれると思ってたからさ。それから……そうだ。お前に言いたいことがあったんだよ。――――誕生日おめでとう。ティローナ」


 「……………………」


 ――――何となく、そんな気はしてた。


 カルダ流に対応してくることだってそうだし、その声や目元もどこか彼を彷彿とさせるものだった。


 でも、絶対気のせいだと思った。


 だって、もし本当に彼ならば、こんなことをするはずがないから。

 こんなことをしていることが、何よりも彼ではない証明になっていた。


 だから、言わなかった。

 表に出さなかった。

 このまま、村を襲った敵として倒すつもりだった。


 なのに、どうして―――――


 「……ねえ、なんで……なんであなたが、こんなことしてるの!!!?」


 「…………どうした?」


 「なんでよ!! どうして!!? 何をしてるの!? なんで!! なんでなんでなんで!!!! なんであなたがそうなの!!?」


 「…………落ち着けよ、ティローナ……」


 「落ち着けるわけないよ!! どうしてこんなことをしてるのか答えてよ!!! ねえ!! トライフ!!!!」


 「…………ティローナ…………」


 ――――九年前、初めて会った彼。


 彼は、私の心の中に深く深く入り込んだ。

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