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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第七章
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第百九十二話 『主将戦』

 ――――動き出す。

 ティローナの元へ。


 ドラウクは力を込め、待ち構えるティローナに拳を放つ。

 対するティローナはその軌道を正確に読んで回避すると、反撃の一撃を腹にお見舞いする。

 完全に敵を破壊するつもりの一撃を。


 しかし、内部からのダメージはやはり発生しない。

 カウンターを貰ったドラウクは、すぐさま体制を立て直し距離を取る。


 「……どうして……」


 カルダが効かないのだ。

 本来ならばもう勝利しているほどの攻撃を与えているはずなのに、一発も有効打が与えられていない。


 「……やはり強いな、ティローナ……」


 ドラウクが呟く。


 攻撃に転じようと迫ったが、簡単にカウンターを返されてしまった。

 この女を倒すには、能力を全開に放つことを避けられないだろう。


 「(……この人……カルダ流に完璧に対応してくる……。どうして魔物が……)」


 カルダ流の攻撃を防ぐ方法。


 それは、ティローナ自身が自分でやっているように、打ち込まれた場所に魔力を同じように爆発させ、威力を相殺するしかない。

 だが、受けた相手がその行動を取ることは、まずありえないことだ。


 なぜなら、分からないから。

 戦いの中でその対策方法を見つけ出すなんて、どんな実力者でも不可能だ。


 これまで、カルダを使って戦った相手は全員その場で倒して来た。

 もしティローナの力を知っているとしても、魔物が対策方法まで知っているなんてことは考えられない。


 そもそも、思いつかないはずだ。


 ――――しかし、実際に彼は対応して見せている。


 「……ねえ。なんで知ってるの……? カルダ流を抑える方法を……」


 敵の対応に疑問を感じたティローナはドラウクに尋ねる。

 できるだけ、情報を彼から聞き出そうと。


 しかし、


 「……簡単なことだ。あんな欠陥武術の弱点を見抜くなんてな……!!」


 教えてくれなかった。

 しかも、台詞と共にまた突っ込んで来る。


 ティローナはそんな彼の両手に注目した。


 さっきよりも力が集まっている。

 黒い光を帯びているほどに。


 「(……あれは、ヤバいかも……!!)」


 これまで以上の危機感を抱き、集中力を高めるティローナ。

 ドラウクは、


 「喰らえ!!」


 と、ティローナの腹に拳を噛ます。

 両腕でガードするティローナだが、


 「ええ……!? ……ああっ……!!」


 ドラウクの拳が爆発した。

 ティローナの腕が半壊した。


 カルダ流が内部から破壊する技ならば、ドラウクが使用する拳は触れた物を外部から破壊している。


 ――――さらにもう一発。


 怯んだティローナに畳み掛けるドラウク。


 ティローナはバックステップで緊急回避。

 ドラウクも追ってくる。

 そしてまた、破壊の拳を繰り出した。


 「……危ない……!!」


 その一撃は間一髪回避。

 だが、ティローナが避けた先に建っていた民家がボロボロに破壊された。


 その様子を見てゾッとするティローナは、さらにバク転をしながらドラウクとの距離を取る。


 「――――よく避けるな。まあ、そうでなくては面白くない。この日を待っていたんだ。そう簡単に終わっては困る」


 「……なんなの……この力……。それに…………いや、どうせ答えてくれないよね」


 「……ん……?」


 「――――よくわかったよ。あなたには、カルダが効かないってことが。でもだからって、負けるわけにはいかないよ」


 息を整え、再びファイティングポーズを取るティローナ。

 顔つきが変わったことを警戒するドラウク。


 「――――だから私、もうあなたにカルダ流は使わない」


 「……使わないだと? ……まあ、懸命な判断だな。――――だが、カルダを使わないで大丈夫なのか? お前の戦法はそれしかないだろう」


 「……確かにね。――――でも、もう一つだけ私に残されているものがある。それは――――これ」


 拳を構えたティローナが言う。


 そう、彼女のもう一つの戦法は、素手で戦うこと。


 「……カルダ無しで戦うという事か。……はっ……! それで今の俺に勝てるわけがない……!!」


 意気揚々と宣言するドラウク。

 そんな彼に対して、今度はティローナの方から向かって行った。


 「馬鹿が……! 破壊力は俺の方に…………なっ……!!」


 ティローナが視界から消えた。

 右左と見回すドラウク。


 そんな彼の後頭部に、後ろから蹴りが飛んできた。


 「があっ……!!」


 初めてティローナの攻撃がクリーンヒット。

 しかも効果は抜群だ。


 「(……なんだと……!! カルダ無しでこの威力か……!! それに……ここまで速いとは……!!)」


 衝撃で帽子が取れるドラウク。

 だが、内心の衝撃は比べものにならない。


 父が敗北したこと、カルダが通用しなかったことで動揺していたティローナ。

 ティローナが本調子になれば、これぐらいわけはない。


 「はあ……!!!」


 すぐにティローナが畳み掛けて来る。

 ドラウクの対応も間に合わず、今度は顔面にクリーンヒットした。


 「(……!!! これが……ティローナの拳か……!! ふざけやがって……なんて威力だ……!!!)」


 一発顔面に当たっただけで意識が傾いてくる。

 その隙を逃さず、さらに数発叩き込むティローナ。


 ――――ティローナは止まらない。


 普段はカルダ流を使い、速攻で敵を葬るティローナ。

 彼女は、戦うことを良しとしない。


 ただ、そうなってしまったから、戦っているだけだ。


 できるだけ長引かせたくない。

 できるだけ苦しませたくない。


 だから、素手で戦うことは苦痛だ。


 何回も殴らなくてはいけないから。

 いつになったら倒れてくれるのか、分からないから。


 でも、ティローナは戦い続ける。


 あの人を追ってきたことで得た今の立場。

 それを、自分に課せられた使命だと思っているから。


 そして、あの人にもう一度会うためにも。


 「はあっ……!!!」


 「ぐあああっ……!!!」


 数発の拳がドラウクの全身に叩き込まれた。


 最後に放った拳は顔面にヒットし、その衝撃で吹っ飛んでいくドラウク。


 その際に、身に着けていた黒いマスクも破壊された。


 「……!! クソがァ……!!」


 まだ立ち上がってくる。

 やはり五将悪というべきか、そう簡単に倒れはしない。


 しかし、完全にティローナが圧倒している。


 勝利は、時間の問題だ。


 ――――と、思われたが。


 「……え…………」


 ティローナの心臓が止まり掛ける。

 目に映った男の姿に胸を刺されて。


 「……う、うそ…………」


 激しい動揺が駆け巡っていく。

 先の物とは桁違いだ。


 「…………トライフ………?」


 素顔を晒した男の姿。

 それが、探し求めていた男と完全に重なったから。

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