第百九十二話 『主将戦』
――――動き出す。
ティローナの元へ。
ドラウクは力を込め、待ち構えるティローナに拳を放つ。
対するティローナはその軌道を正確に読んで回避すると、反撃の一撃を腹にお見舞いする。
完全に敵を破壊するつもりの一撃を。
しかし、内部からのダメージはやはり発生しない。
カウンターを貰ったドラウクは、すぐさま体制を立て直し距離を取る。
「……どうして……」
カルダが効かないのだ。
本来ならばもう勝利しているほどの攻撃を与えているはずなのに、一発も有効打が与えられていない。
「……やはり強いな、ティローナ……」
ドラウクが呟く。
攻撃に転じようと迫ったが、簡単にカウンターを返されてしまった。
この女を倒すには、能力を全開に放つことを避けられないだろう。
「(……この人……カルダ流に完璧に対応してくる……。どうして魔物が……)」
カルダ流の攻撃を防ぐ方法。
それは、ティローナ自身が自分でやっているように、打ち込まれた場所に魔力を同じように爆発させ、威力を相殺するしかない。
だが、受けた相手がその行動を取ることは、まずありえないことだ。
なぜなら、分からないから。
戦いの中でその対策方法を見つけ出すなんて、どんな実力者でも不可能だ。
これまで、カルダを使って戦った相手は全員その場で倒して来た。
もしティローナの力を知っているとしても、魔物が対策方法まで知っているなんてことは考えられない。
そもそも、思いつかないはずだ。
――――しかし、実際に彼は対応して見せている。
「……ねえ。なんで知ってるの……? カルダ流を抑える方法を……」
敵の対応に疑問を感じたティローナはドラウクに尋ねる。
できるだけ、情報を彼から聞き出そうと。
しかし、
「……簡単なことだ。あんな欠陥武術の弱点を見抜くなんてな……!!」
教えてくれなかった。
しかも、台詞と共にまた突っ込んで来る。
ティローナはそんな彼の両手に注目した。
さっきよりも力が集まっている。
黒い光を帯びているほどに。
「(……あれは、ヤバいかも……!!)」
これまで以上の危機感を抱き、集中力を高めるティローナ。
ドラウクは、
「喰らえ!!」
と、ティローナの腹に拳を噛ます。
両腕でガードするティローナだが、
「ええ……!? ……ああっ……!!」
ドラウクの拳が爆発した。
ティローナの腕が半壊した。
カルダ流が内部から破壊する技ならば、ドラウクが使用する拳は触れた物を外部から破壊している。
――――さらにもう一発。
怯んだティローナに畳み掛けるドラウク。
ティローナはバックステップで緊急回避。
ドラウクも追ってくる。
そしてまた、破壊の拳を繰り出した。
「……危ない……!!」
その一撃は間一髪回避。
だが、ティローナが避けた先に建っていた民家がボロボロに破壊された。
その様子を見てゾッとするティローナは、さらにバク転をしながらドラウクとの距離を取る。
「――――よく避けるな。まあ、そうでなくては面白くない。この日を待っていたんだ。そう簡単に終わっては困る」
「……なんなの……この力……。それに…………いや、どうせ答えてくれないよね」
「……ん……?」
「――――よくわかったよ。あなたには、カルダが効かないってことが。でもだからって、負けるわけにはいかないよ」
息を整え、再びファイティングポーズを取るティローナ。
顔つきが変わったことを警戒するドラウク。
「――――だから私、もうあなたにカルダ流は使わない」
「……使わないだと? ……まあ、懸命な判断だな。――――だが、カルダを使わないで大丈夫なのか? お前の戦法はそれしかないだろう」
「……確かにね。――――でも、もう一つだけ私に残されているものがある。それは――――これ」
拳を構えたティローナが言う。
そう、彼女のもう一つの戦法は、素手で戦うこと。
「……カルダ無しで戦うという事か。……はっ……! それで今の俺に勝てるわけがない……!!」
意気揚々と宣言するドラウク。
そんな彼に対して、今度はティローナの方から向かって行った。
「馬鹿が……! 破壊力は俺の方に…………なっ……!!」
ティローナが視界から消えた。
右左と見回すドラウク。
そんな彼の後頭部に、後ろから蹴りが飛んできた。
「があっ……!!」
初めてティローナの攻撃がクリーンヒット。
しかも効果は抜群だ。
「(……なんだと……!! カルダ無しでこの威力か……!! それに……ここまで速いとは……!!)」
衝撃で帽子が取れるドラウク。
だが、内心の衝撃は比べものにならない。
父が敗北したこと、カルダが通用しなかったことで動揺していたティローナ。
ティローナが本調子になれば、これぐらいわけはない。
「はあ……!!!」
すぐにティローナが畳み掛けて来る。
ドラウクの対応も間に合わず、今度は顔面にクリーンヒットした。
「(……!!! これが……ティローナの拳か……!! ふざけやがって……なんて威力だ……!!!)」
一発顔面に当たっただけで意識が傾いてくる。
その隙を逃さず、さらに数発叩き込むティローナ。
――――ティローナは止まらない。
普段はカルダ流を使い、速攻で敵を葬るティローナ。
彼女は、戦うことを良しとしない。
ただ、そうなってしまったから、戦っているだけだ。
できるだけ長引かせたくない。
できるだけ苦しませたくない。
だから、素手で戦うことは苦痛だ。
何回も殴らなくてはいけないから。
いつになったら倒れてくれるのか、分からないから。
でも、ティローナは戦い続ける。
あの人を追ってきたことで得た今の立場。
それを、自分に課せられた使命だと思っているから。
そして、あの人にもう一度会うためにも。
「はあっ……!!!」
「ぐあああっ……!!!」
数発の拳がドラウクの全身に叩き込まれた。
最後に放った拳は顔面にヒットし、その衝撃で吹っ飛んでいくドラウク。
その際に、身に着けていた黒いマスクも破壊された。
「……!! クソがァ……!!」
まだ立ち上がってくる。
やはり五将悪というべきか、そう簡単に倒れはしない。
しかし、完全にティローナが圧倒している。
勝利は、時間の問題だ。
――――と、思われたが。
「……え…………」
ティローナの心臓が止まり掛ける。
目に映った男の姿に胸を刺されて。
「……う、うそ…………」
激しい動揺が駆け巡っていく。
先の物とは桁違いだ。
「…………トライフ………?」
素顔を晒した男の姿。
それが、探し求めていた男と完全に重なったから。




