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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第七章
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第百九十話 『勝利への歩み』

 切り札である搦め手により、動きを封じられた翔英。

 そんな彼に迫るジェシス。


 ――――そう、彼女は何故か迫ってきていた。


 もう翔英は動けないのだから、わざわざ近づく必要など微塵もないのに。

 本当は遠距離攻撃を得意としているのだから、距離を保ったまま勝負を決めに来ればいいのに。


 なぜか、ジェシスは目の前まで接近した。


 「……やってくれたな……。『反射鏡』と『魔法弾』のみならず、『拘束術』まで使わせるとは……。何たる屈辱だ……。……使わぬと決めていたのに……」


 動けぬ翔英に接近しながら、ジェシスは本心から悔しそうに嘆く。

 翔英はそんな彼女を戸惑いながら見つめ返す。


 ジェシスが最初から本気を出さなかった理由。

 

 どうやらそれは、今言ったことが関係しているようだ。


 理由は分からないが、彼女は自分の魔法や魔術を嫌っているらしい。

 だからこそ、最初は拳で向かってきていたのか。


 ――――まあ、そんなこと、今のこの状況で知ったところで意味が無いが。

 

 「……しかし、これで勝負ありだ。もう『あれら』を使う必要もない。――――せめてトドメは……『これ』でつけてくれる」


 拳を握り締めながら言うジェシス。

 そして、身動きの取れる翔英の前で、正拳突きの構えに入った。


 「……できる限り早く死なせてやろう。私はそう悪趣味ではないのでな」


 「………………」


 「はっ……!!」という気合いの掛け声とともに、翔英の顔面に拳を放つジェシス。

 

 当然、一人で動けない翔英にクリーンヒットした。


 痛い。

 痛いは痛い。


 でも、『ただ痛い』だけだ。


 これまで受けてきた激痛に比べれば、そう折れるような痛みではない。

 こんな痛みでは、まだまだ倒れることはできない。

 

 俺を解放するには、物足りなさ過ぎる力だ。


 翔英は歯茎から血を流しながら、ジェシスを不敵な笑みを浮かべながら睨みつけた。


 「……これじゃあ、いつまで掛かるか分からないな。こんなパンチじゃさあ。全然大したことないよ、あんたのパンチ」


 「……!! ……何だと……!! ……ふざけるな……!! 本当に大したことがないか……お前の身をもって知るがいい……!!!」


 翔英の挑発に激怒するジェシス。

 突かれたくないところを言及されたことで、怒りを拳に滲ませながら、翔英の顔面にさらに二発お見舞いした。


 やっぱり痛い。

 ……でも、


 「……うーん……。――――うん、あんまり効かないわ。重みが足りないよ」


 「……!!! な……そんな……馬鹿な……」


 余程ショックが大きかったのか。

 ジェシスは激しく動揺しながら、一歩二歩と後ずさり。


 「(……よし……いいぞ……!!!)」


 偶然ではあるが、翔英の望み通りの場所にジェシスが動いた。

 その場所は少し翔英から離れた、彼の真ん前。


 翔英は残されたある一つの攻撃手段に望みを繋いでいた。

 正直、ジェシスが遠距離からトドメを刺しに来ていたら終了していた。


 だが、ジェシスは接近しながら勝ちに来てくれた。

 しかも、何とか耐えられそうな拳で戦いに来てくれた。

 さらに、ちょっと距離を取ってくれた。

 

 もう一度、向かってきてくれれば。

 タイミングを外さなければ、逆転の道が開き始める。


 「……いや、そんなはずはない。……あれほど努力したのだ……。お前ごときに耐えられるほど、私の拳は甘くないっ!!」


 「……なら、もう一回やってみなよ。分かるからさ」


 「……ふざけるなっ!!!」


 ――――来た。

 挑発が効いた。


 ジェシスのよくわからないこだわりを見ても、必ず来てくれると思ったよ。


 ジェシスはもう一度気合いを入れ直し、今度こそ翔英を倒そうと助走を着けながら拳を振りかぶった。

 ――――しかし、


 「……なっ……!! ……なんだと………」


 飛び掛かったジェシスの腹部に、大剣の剣先が突き刺さった。

 翔英が刺したというよりは、ジェシス自らが剣に飛び込んできたような形だ。


 大ダメージを避けられないジェシス。

 剣を抜くことができないまま、膝を着いた。


 「……重っ……けど……!! 力が……弱まったぜ……!!!」


 ジェシスに大きなダメージが入ったことで、翔英を縛っていた力も弱まっていた。

 翔英は力づくで腕輪を外すと、ジェシスから剣を抜き、さらに足元の枷も解除する。


 「……くっ……バカな……剣の形が……」


 「こっちのターンだ!!」


 再び剣を戻した翔英。

 このチャンスを絶対に逃がさまいと、怯んでいるジェシスに襲い掛かる。


 翔英の狙いは完全に成功した。

 通常サイズで突き出したまま止まっていた腕と剣。


 この状態でできるとすれば、剣の形を変形されることだけ。


 もし、剣が伸び先にジェシスが来てくれれば、変形の反動で突き刺せることができると翔英は考えていた。


 ジェシスは翔英の我慢と誘導にまんまと引っ掛かり、突然現れた剣の元へ、自らダイブしてしまった。


 「ま、待て!!!」


 ――――斬。

 翔英のスピードが勝り、ジェシスの腹部をすれ違いざまに切り裂いた。


 血を吐きながら倒れるジェシス。

 

 戦闘不能。

 今後こそ、完全に決まった。


 「……よし……終わり……!!!」


 顔面から血を流しているとはいえ、翔英は立っている。

 まだ動けている。まだ歩けている。

 しかも、強敵を相手に、最初から一人で戦い、終わらせることができた。

 

 ――――ミドルハイムにて発生した、聖鳳軍三軍、ショウエイ・キスギVSドラウク軍副官、ジェシス。


 勝者、ショウエイ・キスギ。

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