第百九十話 『勝利への歩み』
切り札である搦め手により、動きを封じられた翔英。
そんな彼に迫るジェシス。
――――そう、彼女は何故か迫ってきていた。
もう翔英は動けないのだから、わざわざ近づく必要など微塵もないのに。
本当は遠距離攻撃を得意としているのだから、距離を保ったまま勝負を決めに来ればいいのに。
なぜか、ジェシスは目の前まで接近した。
「……やってくれたな……。『反射鏡』と『魔法弾』のみならず、『拘束術』まで使わせるとは……。何たる屈辱だ……。……使わぬと決めていたのに……」
動けぬ翔英に接近しながら、ジェシスは本心から悔しそうに嘆く。
翔英はそんな彼女を戸惑いながら見つめ返す。
ジェシスが最初から本気を出さなかった理由。
どうやらそれは、今言ったことが関係しているようだ。
理由は分からないが、彼女は自分の魔法や魔術を嫌っているらしい。
だからこそ、最初は拳で向かってきていたのか。
――――まあ、そんなこと、今のこの状況で知ったところで意味が無いが。
「……しかし、これで勝負ありだ。もう『あれら』を使う必要もない。――――せめてトドメは……『これ』でつけてくれる」
拳を握り締めながら言うジェシス。
そして、身動きの取れる翔英の前で、正拳突きの構えに入った。
「……できる限り早く死なせてやろう。私はそう悪趣味ではないのでな」
「………………」
「はっ……!!」という気合いの掛け声とともに、翔英の顔面に拳を放つジェシス。
当然、一人で動けない翔英にクリーンヒットした。
痛い。
痛いは痛い。
でも、『ただ痛い』だけだ。
これまで受けてきた激痛に比べれば、そう折れるような痛みではない。
こんな痛みでは、まだまだ倒れることはできない。
俺を解放するには、物足りなさ過ぎる力だ。
翔英は歯茎から血を流しながら、ジェシスを不敵な笑みを浮かべながら睨みつけた。
「……これじゃあ、いつまで掛かるか分からないな。こんなパンチじゃさあ。全然大したことないよ、あんたのパンチ」
「……!! ……何だと……!! ……ふざけるな……!! 本当に大したことがないか……お前の身をもって知るがいい……!!!」
翔英の挑発に激怒するジェシス。
突かれたくないところを言及されたことで、怒りを拳に滲ませながら、翔英の顔面にさらに二発お見舞いした。
やっぱり痛い。
……でも、
「……うーん……。――――うん、あんまり効かないわ。重みが足りないよ」
「……!!! な……そんな……馬鹿な……」
余程ショックが大きかったのか。
ジェシスは激しく動揺しながら、一歩二歩と後ずさり。
「(……よし……いいぞ……!!!)」
偶然ではあるが、翔英の望み通りの場所にジェシスが動いた。
その場所は少し翔英から離れた、彼の真ん前。
翔英は残されたある一つの攻撃手段に望みを繋いでいた。
正直、ジェシスが遠距離からトドメを刺しに来ていたら終了していた。
だが、ジェシスは接近しながら勝ちに来てくれた。
しかも、何とか耐えられそうな拳で戦いに来てくれた。
さらに、ちょっと距離を取ってくれた。
もう一度、向かってきてくれれば。
タイミングを外さなければ、逆転の道が開き始める。
「……いや、そんなはずはない。……あれほど努力したのだ……。お前ごときに耐えられるほど、私の拳は甘くないっ!!」
「……なら、もう一回やってみなよ。分かるからさ」
「……ふざけるなっ!!!」
――――来た。
挑発が効いた。
ジェシスのよくわからないこだわりを見ても、必ず来てくれると思ったよ。
ジェシスはもう一度気合いを入れ直し、今度こそ翔英を倒そうと助走を着けながら拳を振りかぶった。
――――しかし、
「……なっ……!! ……なんだと………」
飛び掛かったジェシスの腹部に、大剣の剣先が突き刺さった。
翔英が刺したというよりは、ジェシス自らが剣に飛び込んできたような形だ。
大ダメージを避けられないジェシス。
剣を抜くことができないまま、膝を着いた。
「……重っ……けど……!! 力が……弱まったぜ……!!!」
ジェシスに大きなダメージが入ったことで、翔英を縛っていた力も弱まっていた。
翔英は力づくで腕輪を外すと、ジェシスから剣を抜き、さらに足元の枷も解除する。
「……くっ……バカな……剣の形が……」
「こっちのターンだ!!」
再び剣を戻した翔英。
このチャンスを絶対に逃がさまいと、怯んでいるジェシスに襲い掛かる。
翔英の狙いは完全に成功した。
通常サイズで突き出したまま止まっていた腕と剣。
この状態でできるとすれば、剣の形を変形されることだけ。
もし、剣が伸び先にジェシスが来てくれれば、変形の反動で突き刺せることができると翔英は考えていた。
ジェシスは翔英の我慢と誘導にまんまと引っ掛かり、突然現れた剣の元へ、自らダイブしてしまった。
「ま、待て!!!」
――――斬。
翔英のスピードが勝り、ジェシスの腹部をすれ違いざまに切り裂いた。
血を吐きながら倒れるジェシス。
戦闘不能。
今後こそ、完全に決まった。
「……よし……終わり……!!!」
顔面から血を流しているとはいえ、翔英は立っている。
まだ動けている。まだ歩けている。
しかも、強敵を相手に、最初から一人で戦い、終わらせることができた。
――――ミドルハイムにて発生した、聖鳳軍三軍、ショウエイ・キスギVSドラウク軍副官、ジェシス。
勝者、ショウエイ・キスギ。




