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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第七章
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第百八十九話 『望まざる戦術』

 「――――本気で……だと……?」


 「ああ、そうだ」


 ……力を隠していたパターンか。

 

 それ自体はよくいるが、こいつの場合の理由はなんだろう。

 その理由を知ることは、戦いにおいてかなり重要になる場合もある。


 もっとも多いのは、力の温存。

 特にこれで終わりじゃない場合は、高確率でそうする。


 ジェシスは翔英を倒した後に、まだティローナとの戦いが残っていると考えているのかもしれない。 


 それか、舐めプをしていたパターンもある。

 ジェシスは割と最初から翔英を危険視していたため、その線は薄いが。


 何にしても、こいつが本気を出したことでどれほど戦況が変わるか。

 それが一番重要だ。


 「(……!! 何か来る……!!)」


 ジェシスが動いた。

 翔英は剣を構えて戦闘態勢に入る。


 翔英とジェシスの距離は五メートル以上ある。

 この距離ならば、対応できるはずだ。

 いくらこいつが、本気を出すと言っても。


 だが、ジェシスはその場から動かない。

 距離を詰めることもしないまま、動いた。


 「な……!!」


 翔英は慌てて緊急回避。

 

 ジェシスの掌から、気弾のようなものが飛んできた。

 これはおそらく、魔法か。


 そのまま飛び道具を連発するジェシス。

 翔英は転がったり剣で弾いたりしながら、何とかやり過ごそうとする。


 しかし、これでは。


 近づくことすらできない。

 遠距離攻撃にはチャージが必要だ。

 攻撃に移ることができない。 


 このままではジリ貧。 

 一瞬のインターバルがあるとはいえ、休むことなくジェシスのエネルギーが飛んでくる。

 

 「くそっ……!! 本気ってこういうことかよ……!! っていうか……!!」


 戦術が変わりすぎだろう。

 

 さっきまでジェシスが取っていたのは、接近戦の肉弾戦。

 ティローナ・カルダ―トのような、ステゴロ戦法だった。


 しかし今度は、完全にシフトチェンジ。

 先程とは打って変わって、遠距離魔法をバンバン繰り出してくる。


 確かにこの戦法はかなり強力だ。

 翔英のような接近戦タイプにはさらに効果が出ている。


 しかしなぜ、最初からこの戦法を使い、本気を出さなかったのだ。


 ――――その答えは、ジェシスが己に課している強いこだわりにある。


 「……そうだ……!!」


 逃げ回るのに疲れた翔英は、一つの対策に出る。

 

 できるだけ大きな盾を形成し、その後ろに小さくなりながら隠れるという戦法に。


「(……この隙に何か考えるんだ……!!)」


 盾はジェシスの遠距離攻撃を止めてくれている。

 しかしその状態が長く続くはずもない。


 今はただ盾の後ろにいるだけだ。


 「……愚かな……!! そんな時間稼ぎが何になる……!!」


 ジェシスは走り出した。

 目指すは盾の後ろ側だ。


 「(やべ……!! いや……待てよ……!! そうだ……こっちから行ってやら……!!」


 ちょっと休憩して息が整った翔英は、ある行動に出る。


 盾を前に出しながら、ジェシスの元に突っ込んでいくという行動。

 シールドアタックに。


 前が見にくいが、盾がかなり大きいため、身体を守りながら近づくことできる。


 「……!! 無駄だ……!!」


 シールドアタックを回避するジェシス。

 そのまま翔英の後ろへ。


 盾を前に突き出している翔英の背中がガラ空きだ。


 「もらった!!!」


 ジェシスは両手でエネルギーを繰り出した。


 ――――瞬間、翔英も動き出す。 


 盾を高速で剣に戻し、振り向き様に気弾を斬る。

 全て弾くとはいかず、少なくないダメージは受けたが、すぐにジェシスに突撃。

 

 先程ジェシスから近づき、翔英も盾を出しながら近づいていた。

 ジェシスの肉体は、すぐ側にまで迫っていた。


 翔英は飛び掛かる。

 渾身の一撃を繰り出しながら。

 

 スピードで勝るために、使用したのは牙突。

 狙いはジェシスの腹部。

 これ一発で、貫通してやる。


 「……!! やらせるものか……!!」


 すぐ側に迫った翔英に対し、応戦の意思を見せるジェシス。

 超至近距離からエネルギーをぶつけようとする。


 「おらあ!!!!」


 しかし、僅かに間に合わない。

 翔英の剣の方が、ジェシスの攻撃よりも速い。


 これで、決まった。

 

 と、翔英は思った。


 「な……!!」


 しかし、そうはならなかった。

 

 翔英の腕は剣を持ったまま、その場に止まっている。

 かなりきつそうな体勢のまま、右手だけが動けずにいる。

 彼の腕には、リングのようなものが巻かれている。


 「……私の勝ちだ……!!」


 ジェシスはさらに三発、右腕に使った物と同じものを出した。

 それぞれ、左手、両足に向けて。


 「……なに……!? 動けねえ……!!」


 ジェシスが使用した技。

 リング状のエネルギーを飛ばし、それを巻き付けたものの自由を奪う技。

 威力はないが、搦め手としてかなりの効力を発揮する。

 

 これで、翔英の四肢は封じられた。


 ――――大ピンチだ。


 このままジェシスがさっきの遠距離攻撃を撃ちまくってきたら、一貫の終わりだ。

 

 「(……チクショウ……!! マジかよ……!! ヤバい……!! 何とかしないと……!!)


 翔英は両手両足に思い切り力を込め、何とか脱出を試みる。

 しかし、力ではびくともしない。

 そもそも、腕に巻かれた物に力を込めることすらできない。


 「(……だめだ……!! こんなところで、こんなところで終わるなんて……!! そんなこと、許されるわけ……!! ……はっ……!!)」


 ふと前を見た翔英。

 彼の目の前には、怒りを孕んでいるような笑みを見せているジェシスがいた。

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