第百八十八話 『副将戦』
――――翔英サイド。
彼が対峙しているのは、ドラウク軍の副官ジェシス。
ここまで瞬殺してきた雑兵とは一線を画す彼女の前に、翔英の猛攻は止まっていた。
しかしそれは、
「……お前も、意外とやるではないか……」
ジェシスの方も同じだった。
ジェシスも強敵を相手するのはかなり久しぶりだ。
今日も、この村に強敵はいないと思っていたため、軽い気持ちでこの村に来ていた。
だが、予想外。
なぜかティローナが戻ってきていた上に、よくわからないこの男までいる。
「……お前、何者だ?」
「……聖鳳軍三軍のショウエイ・キスギだ」
「……聖鳳軍か。なるほど、通りでやるわけだな。――――しかし、三軍とは。それは意外だ」
ジェシスは息を整え、両手を空手家のように構えた。
その姿は、ティローナ・カルダートに酷似している。
「――――そして、聖鳳軍には私も恨みがある。それを聞いて、よりお前を殺したくなったぞ」
「(来る……!!)」
飛び出すジェシス。
翔英もいち早く攻撃に備える。
一撃目を躱し、逆にカウンターを喰らわせる翔英。
だが、それも大した攻撃にはならず、ジェシスは再び距離を取った。
――――翔英は考える。
この女の武器は、ティローナのような体術だ。
距離を詰めても華麗なステップで攻撃を返されてしまう。
幸い、そこまで攻撃に重みがないため戦闘不能にはならない。
しかし、こっちも攻撃を当てづらいために、苦戦も避けられない。
何かやり方を変えなければ、負ける。
――――ジェシスは考える。
この男の動きは想像以上に速い、そして硬い。
速度は自身ほどではないにしても、すぐに対応してくるために決定打を与えることができない。
だが、あの剣にさえ気を付けていれば致命傷になることはなさそうだ。
ここまで奴は、ただ闇雲に剣を振り回すことしかしていない。
長期戦にはなりそうだが、確実に対応していけば、勝てる。
だが、少し変えてみるか。
――――突撃。
ジェシスは三度、翔英に突っ込んだ。
翔英はこれまで通り、剣を構えながら彼女を迎え撃つ。
だが、
「(……何い……!?)」
フェイント。
翔英に接近する直前、ジェシスは飛び上がった。
そのまま翔英を跳び越すと、後ろ蹴りを足に喰らわせてくる。
思わぬ行動と攻撃場所に対応が遅れ、初めてまともにくらってしまう。
翔英は片膝を着いた。
「もらった!!」
怯んだ隙に正拳突き。
翔英の顔面に拳が飛んでくる。
「(ここだ……!!)」
だが、翔英が動く。
瞬間的に剣を盾に変形させ、ジェシスの拳をブロックした。
「……な、なに……!?」
さっきの奴のように、突如出現した盾に怯むジェシス。
それだけではない。
思いっきり鉄のような硬度を誇る盾を素手で殴ったことで、ジェシスに隙が生じる。
その隙を逃さずに翔英はジェシスの背後へ。
さらに再び剣に戻し、ジェシスの背中を切り裂いた。
「ああっ……!!」と、痛みの声を挙げるジェシス。
しかし、翔英は止まらない。
とりあえずこいつを戦闘不能にするまでは、手を緩めるわけにはいかない。
ゼッジを倒した時のように、牙突を腹に目掛けて飛ばす翔英。
しかし、コロコロ転がって何とか回避。
避けられて焦った翔英の追撃もよけ、一旦距離を取って耐性を立て直す。
「くそっ……!! 仕留めそこなったか……!!!」
そうは言うものの、これで大分優勢になったはずだ。
背中の一撃はかなり深く入った。
ジェシスはかなり慎重になっているはずだ。
ジェシスの得意分野は接近戦。
少し足をやられたとはいえ、また盾を作って隙を突けば、速さはこちらに分がある。
その翔英の予想通り、ジェシスは険しい表情をしながら、中々近づいてこなくなった。
翔英から近寄ろうとすると、その分ジェシスも距離を取ってくる。
接近スピードは同じぐらいなので、距離が縮まらないまま時間が流れていく。
「(……何か待ってるのか……? 回復……? いや、あの傷がそう数分で引くとは思えない……。じゃあ、何か切り札があるな……。――――なら……!!)」
翔英は剣を地面に突き刺し、両手に力を集中させていく。
当然、魔法を繰り出すために。
ヒナノとの修業はかなり大きかった。
やはり飛び道具の習得は、大成功だった。
ジェシスは完全に接近戦、剣での攻撃に対する間合いを取っている。
この距離で攻撃が届くとは思っていないはずだ。
できるだけ、悟られないようにチャージ。
少し、距離を詰めたりもしながら。
「(……よし……!! この距離なら……!!)」
確実に当てられる。
翔英はノーモーションで真っすぐ、光速の電撃をお見舞いした。
「……な……!!?」
「(よし!! 当たった……!!)」
――――ように見えた。
だが、
「ぐわああ!!!」
攻撃を受けたのは翔英の方だった。
「……お前がそんな技を使えたとは、驚いたぞ。まさに、間一髪だった」
ジェシスは無傷。
翔英は電撃を喰らって倒れた。
「……今のは、お前自身の攻撃だ。私の能力で、お前のそれを反射させてもらった」
だが、まだ近づいてこないジェシス。
今のが決定打にはなっていないことは見抜いている。
「……死んだふりをして時間稼ぎのつもりか? 無駄なことだ」
「……バレてたか……」
翔英は立ち上がった。
距離が離れていたことに加え、身体の前に突き刺していた剣が電撃を飛び散らし、深いダメージにはなっていなかった。
「(……それにしてもこいつ……反射能力持ちだったのかよ……やべえな……。……ってことは、こいつに魔法は効かねえってことか……)」
だとすると、結局近づいて勝たなくてはならない。
やっぱり剣で勝利しなくてはならない。
まあ、今の一発目が致命傷にならなかったのはかなりラッキーだ。
遠距離攻撃が効かないとわかっていれば、反射能力に怯える必要はない。
また戦況が停滞してしまったが、頑張って距離を詰めて一気に終わらせてやる。
翔英は剣を抜き、再び構えた。
「……お前がこれほどの強さだとはな。やはり、三軍とは思えない。――――だが、感謝するぞ、ショウエイ・キスギ。今のお前の攻撃のおかげで、決心することができた。……お前と本気で戦う、決心がな」
対するジェシスも、動き出す。




