第百八十七話 『故郷の未来』
対峙するティローナとドラウク。
ティローナは驚く。
この男が、自分の名前を呼んだこと。
そして、この男が明確な敵意を持って、ミドルハイムに攻撃を仕掛けていることに。
「……少し聞かせて。あなたの目的は何……? この村の人たちを、お父さんをこんな目に遭わせて、何がしたいの……? ……それに、あなたは何なの?」
「……そんなことはどうでもいいだろ。――――まあ、俺が何なのかくらいは答えてやるか。俺は、魔凰軍のドラウクだ。……この村を壊すのは上の命令ではなく、俺の意思だがな」
「……魔凰軍……。やっぱり、あなたたちの行動は理解できない……。本当は戦いたくないけど、あなたがこの村を襲うなら、やるしかない……!!」
少し眉をひそめたドラウクに向かおうとするティローナ。
しかし、
後ろから「ボンッ」という音が聞こえ、慌てて後ろを振り返る。
ドラウクもティローナを迎え撃とうとしていたが、さらに後ろに視線を動かしている。
「なに……!?」
そちらに視線をやったドラウクが言う。
起き上がっていた男に対して。
「待て、ティローナ……!! 少し、俺の話を聞け……!!」
「お、お父さん!!?」
マービアン・カルダート。
ティローナとドラウクの二人とも、死亡確認をしていたはずの男が立ち上がっていた。
「大丈夫なの!? お父さん!!」
「……ああ、何とかな……」
復活した父に駆け寄るティローナ。
マービアンは依然、動くことすら難しい感じだが。
しかし、確実にトドメを刺していたと思っていたドラウクは動揺を隠せない。
「……なぜ……なぜだマービアン……!! お前は確かに死んでいたはずだ……!!」
「……ふん。貴様には教えてやらん……」
「……ちっ……」
マービアンが復活した理由。
それは、カルダ流の派生技の一つである、一時的に心臓を停止させる技を使い、さらにその後に、予め体内に仕込んでいた魔力の時限爆弾を使って機能を復活させたからだ。
ティローナには使うことができない、応用技を組み合わせた芸当である。
「……それよりも、ティローナ。お前に伝えておかねばならないことがある……」
そして、彼がこの行動を取ったこと。
それは、戦闘中に自身の敗北を悟ったことを意味していた。
「……奴は、カルダ流の対策方法を知っている……。おそらく、普通に技を繰り出しても相殺されてしまうだろう……」
「ええ!? 対策方法……!? 魔物が……!? なんで……!?」
「それは…………」
「――――おっと、俺の前で呑気にお喋りなんてさせないぜ!!」
会話中の親子に襲い掛かるドラウク。
ティローナはすぐに体制を立て直し、彼の方に向かって行く。
だが、
ドラウクはティローナを無視し、後ろでくたびれているマービアンの方へ。
「……しまった!!」
「今度は確実に……!!」
身体をバラバラにしてやる。
さっきはティローナにマービアンの死体を見せるために、彼をそのまま持ち帰って来たドラウク。
今度はそうしない。
確実に、息の根を止めてやる。
「……速い……!!」
足の速さはほぼ互角。
スタートダッシュが遅れたティローナは追いつけない。
マービアンの方も回避や反撃ができるような状況ではない。
動くことすらできない彼に、ドラウクの拳が迫り来る。
「寿命が少し伸びただけだったな!! 死ね!! マービアン!!」
「くっ……!!」
――――だがそこに、ドラウクとマービアンの間に、
光の盾が挟み込まれた。
「これは……!!」
盾に怯んだ間に、追いついたティローナが飛び蹴りを喰らわす。
ドラウクはガードするも、マービアンとは引き剥がされた。
「ちいっ……!!」
ドラウクはイライラしながら視線を左に。
そこには、
「……これ以上、皆を傷つけることは許しませんよ」
「ありがとう!! お母さん!!」
ニーファ・カルダートの姿があった。
結界術で村人を避難させていた彼女。
生存者全員の避難が完了したため、こちらに合流したようだ。
ニーファは後ろの夫、そしてボロボロの村を見渡すと、いつもの仏のような顔を一変。
眉間に怒りのしわを寄せた。
「……あなた、覚悟はできておりますね?」
「……ニーファ……。……厄介な女だ……」
「お母さん!! お母さんは、お父さんをお願い!! この人は、私が倒すから……!!」
隣に並んだニーファに声を掛けるティローナ。
娘のお願いに母は頷き、敵に背を向けた。
「頼みましたよ、ティローナ。私も、できるだけ早く戻ります」
「うん……!!」
ドラウクをティローナがマークしている間に、ニーファはマービアンに回復術を掛けた。
しかし、村人や避難所の構築に体力を酷使し続けたため、彼の重症は治すことができない。
歩けるようにするのが精一杯だ。
ニーファは夫の身体を起こし、肩を貸しながら外へ歩き始める。
ニーファが構築した避難所は少し距離がある。
このペースでは、ティローナの元に戻るのはかなり時間が掛かりそうだ。
「……すまないな……ニーファ……」
「何を言うのです。こんなこと、昔は毎日でしたよ」
「……確かにな。……そうだ、ティローナに言ってやらねば……いや、今は言わない方がいいか……。……そういえば、ショウエイはどうした……!? あいつは先に、ミドルハイムに戻ったはずだが……」
「……ショウエイくんですか……? ……おそらく、この村のどこかで戦っているはずですよ。先程、『剣を持った黒髪の青年に助けられた』という人が何人かいました。剣と聞いたので確信は持てませんでしたが、どうやら彼のようですね」
「……そうか……」
ニーファの魔力とマービアンの体力。
それぞれが限界に達している。
この村に戦闘可能な人間は、カルダ―ト家しかいない。
普段は、ニーファとマービアンしかいない。
だが、この襲撃があったタイミングで、強すぎる愛娘が帰っていたことと、他所から来ていた頼もしい青年がいたことは、不幸中の幸いだったか。
やはり、故郷の行方は、二人の若者に託すしかないようだ。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
二人が避難所へ向かっていた頃。
その翔英は、
「……くそっ……!! こいつ……やっぱり強い……!!」
敵の副官、ジェシスに苦戦していた。




