第百八十六話 『主将と副将』
「(……ティローナさんじゃない……!!)」
翔英が声を掛けた女性。
ティローナかと思って話し掛けたが、全くの別人だった。
服装は白と黒の道着、髪型は黒髪のポニーテール。
身長も含め、後ろ姿はほぼ同じだが。
顔は人間ではない。
顔立ち自体は整った容姿の女性だ。
しかし、さっきのあいつように口元が変色しており、口からは鋭利な牙を覗かせている。
この状況でここにいるということは明らかに――――敵だ。
「……お前も……この村を襲ってる奴らの仲間か……!!」
剣を構えながら翔英が言う。
辺りにはもう誰もいないが、こいつもおそらくこの村の人を標的にしているはずだ。
放置するのはまずい。
ここで足止め、いや、倒さなくては。
「……仲間ではない。そいつらは私の部下だ。その様子だと、何人か私の部下を倒したようだな。あの女以外に、戦える者がこの村にいたとは」
「……部下だと……!?」
「そうだ。――――私の名はジェシス。ドラウク様から、奴らの指揮を任されている」
翔英は感じ取った。
このジェシスという女、指揮を任されているということもあり、これまでの奴らとは別格だ。
だが、それ以上に怒りがある。
さっきのあいつとこの女のせいで、この村はこんなことになっている。
止めなければ。
自らの全てを持って。
「……何のために、こんなことをするんだよ……!!」
「簡単なことだ。ドラウク様はこの村の滅亡を望んでいる。私たちはドラウク様の意思の元、この村を破壊するのが使命だ」
「……それがなんでかって言ってんだよ……。この村の人たちがお前たちに何かしたのか……!?」
「そうだ、ドラウク様はこの村に強い憎しみがある。……そしてそれは、私も同じ。この村が消えるのは、私たち二人の願いだ」
「……そんなこと、俺がさせるか……!!」
覚悟を決め、飛び掛かる翔英。
ジェシスは一撃目を難なく躱し、逆にカウンターをお見舞いする。
だが、翔英もそれを剣で受け止めた。
「……その身のこなし、只者ではないな。部下どもではきついかもしれん」
「ああ。さっきも、ゼッジとかいうデブを片づけさせてもらったからな……!!」
「……ゼッジが負けるとは。……ならば好都合だ、お前の相手を私がするのは。もはや部下では勝ち目がないだろう」
「……そうか。でも、俺にも好都合だよ。お前みたいなヤバそうな奴を野放しにしなくて済むんだからな……!! ――――行くぞ!!」
己の使命。
それを理解する両者。
両陣営、こいつを止めることができるのは、自分しかいないことがわかった。
翔英は村のために、ジェシスは主のために。
全てをぶつける。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そしてこちらは、
「――――よし、終わり……!!」
ティローナサイド。
ティローナは翔英が向かったのとは反対方向。
村の東側から行っていた。
そこにも何体か魔物がいたが、全て瞬殺。
とりあえず、こっち側の救助も完了した。
ティローナと翔英は知らないが、もうこの村を襲った魔物はジェシスのみになっていた。
襲撃から数十分で、五十体近くいたドラウク軍はたった二人の人間の手(偏りが凄い)に葬られていた。
村人の方も、生きている者全員が村から離れ、避難が完了していた。
「……ショウエイくんが行った方へいかないと……!!」
それを把握していないティローナは、村の真ん中、西の方へ。
まだまだティローナは元気一杯。
なんなら一撃もまともに喰らっていない。
急いで、村中を回るつもりだ。
だが、そんなティローナの元へ、ある男が近づいていた。
「……え……!?」
その男に気付いたティローナは、驚きの声をあげる。
男に対してではない。
その男に対しても驚くべきところはあったかもしれないが、彼女が注目したのはそこではない。
「お父さんっ!!!」
彼女の父親、マービアン・カルダートに対してだ。
マービアンは男に抱えられていた。
ぐったりと眠りながら。
プロレスラーのような大男であるマービアンを軽々と運んできた男にも驚きだが、ティローナの注目は父に向いている。
さっき翔英と合流した際、彼はこう言っていた。
「マービアンさんは、敵のボスと戦っている」と。
ということは、この男が、この惨状の元凶。
そして、父は負けたのだ。
この男に。
「お父さん!!!」
ティローナは父の元に掛けて行った。
ティローナは父の強さをよく知っている。
もっと若い頃は、個人の魔物退治屋を営んでいたそうだ。
さらに、一度も敗北したことはなかったという。
ティローナ自身も、父が誰かの前に倒れることなんて見たことがない。
ティローナにとって父は、厳かな強者という認識だった。
「お父さんから離れて!!」
ティローナが叫ぶ。
一刻も早く、父の身柄を確保しなくては。
すると男は、マービアンを投げ飛ばした。
「ええ!?」
ティローナはびっくりしながらもマービアンをキャッチする。
すぐさま、息の確認。
……していない。
息をしていない。
ティローナは無言で、マービアンを地に寝かす。
そして、現れた男を激しく睨みつけた。
「絶対に、許さない!!!」
悲しんでいる暇はない。
戦闘の意思を構えるティローナ。
「……次は、お前がそうなる。ティローナ・カルダート」
対する男は、地に寝かされたマービアンを指差しながら言う。
そして、ティローナと同じようにファイティングポーズを取った。
――――この男こそが、今回の首謀者。
五将悪、北拠点のドラウク。
そして、このミドルハイムに今、両陣営の一番手と二番手がそれぞれ対峙した。
互いに残りの戦力はもういない。
ドラウク側は部下が全滅。
残りの配下は、副官であるジェシスただ一人。
ティローナ側は、そもそも戦える者がほとんどいない。
唯一の戦闘可能者マービアンも、今、ドラウクに倒されてしまった。
この二つの戦いに、ミドルハイムの行方は委ねられている。
翔英とジェシス。
ティローナとドラウク。
それぞれの意思が今、激突する。




