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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第七章
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第百八十六話 『主将と副将』

 「(……ティローナさんじゃない……!!)」


 翔英が声を掛けた女性。

 ティローナかと思って話し掛けたが、全くの別人だった。


 服装は白と黒の道着、髪型は黒髪のポニーテール。

 身長も含め、後ろ姿はほぼ同じだが。

 

 顔は人間ではない。

 

 顔立ち自体は整った容姿の女性だ。

 しかし、さっきのあいつように口元が変色しており、口からは鋭利な牙を覗かせている。

 

 この状況でここにいるということは明らかに――――敵だ。


 「……お前も……この村を襲ってる奴らの仲間か……!!」


 剣を構えながら翔英が言う。

 

 辺りにはもう誰もいないが、こいつもおそらくこの村の人を標的にしているはずだ。

 放置するのはまずい。

 ここで足止め、いや、倒さなくては。


 「……仲間ではない。そいつらは私の部下だ。その様子だと、何人か私の部下を倒したようだな。あの女以外に、戦える者がこの村にいたとは」


 「……部下だと……!?」


 「そうだ。――――私の名はジェシス。ドラウク様から、奴らの指揮を任されている」


 翔英は感じ取った。

 このジェシスという女、指揮を任されているということもあり、これまでの奴らとは別格だ。

 

 だが、それ以上に怒りがある。

 さっきのあいつとこの女のせいで、この村はこんなことになっている。


 止めなければ。

 自らの全てを持って。


 「……何のために、こんなことをするんだよ……!!」


 「簡単なことだ。ドラウク様はこの村の滅亡を望んでいる。私たちはドラウク様の意思の元、この村を破壊するのが使命だ」


 「……それがなんでかって言ってんだよ……。この村の人たちがお前たちに何かしたのか……!?」


 「そうだ、ドラウク様はこの村に強い憎しみがある。……そしてそれは、私も同じ。この村が消えるのは、私たち二人の願いだ」


 「……そんなこと、俺がさせるか……!!」


 覚悟を決め、飛び掛かる翔英。

 

 ジェシスは一撃目を難なく躱し、逆にカウンターをお見舞いする。

 だが、翔英もそれを剣で受け止めた。


 「……その身のこなし、只者ではないな。部下どもではきついかもしれん」


 「ああ。さっきも、ゼッジとかいうデブを片づけさせてもらったからな……!!」


 「……ゼッジが負けるとは。……ならば好都合だ、お前の相手を私がするのは。もはや部下では勝ち目がないだろう」


 「……そうか。でも、俺にも好都合だよ。お前みたいなヤバそうな奴を野放しにしなくて済むんだからな……!! ――――行くぞ!!」


 己の使命。

 それを理解する両者。


 両陣営、こいつを止めることができるのは、自分しかいないことがわかった。


 翔英は村のために、ジェシスは主のために。

 全てをぶつける。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 そしてこちらは、


 「――――よし、終わり……!!」


 ティローナサイド。


 ティローナは翔英が向かったのとは反対方向。

 村の東側から行っていた。


 そこにも何体か魔物がいたが、全て瞬殺。 

 とりあえず、こっち側の救助も完了した。


 ティローナと翔英は知らないが、もうこの村を襲った魔物はジェシスのみになっていた。

 襲撃から数十分で、五十体近くいたドラウク軍はたった二人の人間の手(偏りが凄い)に葬られていた。

 村人の方も、生きている者全員が村から離れ、避難が完了していた。


 「……ショウエイくんが行った方へいかないと……!!」


 それを把握していないティローナは、村の真ん中、西の方へ。


 まだまだティローナは元気一杯。

 なんなら一撃もまともに喰らっていない。


 急いで、村中を回るつもりだ。


 だが、そんなティローナの元へ、ある男が近づいていた。


 「……え……!?」


 その男に気付いたティローナは、驚きの声をあげる。


 男に対してではない。

 その男に対しても驚くべきところはあったかもしれないが、彼女が注目したのはそこではない。


 「お父さんっ!!!」


 彼女の父親、マービアン・カルダートに対してだ。


 マービアンは男に抱えられていた。

 ぐったりと眠りながら。


 プロレスラーのような大男であるマービアンを軽々と運んできた男にも驚きだが、ティローナの注目は父に向いている。


 さっき翔英と合流した際、彼はこう言っていた。


 「マービアンさんは、敵のボスと戦っている」と。


 ということは、この男が、この惨状の元凶。


 そして、父は負けたのだ。

 この男に。


 「お父さん!!!」


 ティローナは父の元に掛けて行った。

 

 ティローナは父の強さをよく知っている。

 もっと若い頃は、個人の魔物退治屋を営んでいたそうだ。

 さらに、一度も敗北したことはなかったという。 

 

 ティローナ自身も、父が誰かの前に倒れることなんて見たことがない。

 

 ティローナにとって父は、厳かな強者という認識だった。


 「お父さんから離れて!!」


 ティローナが叫ぶ。

 一刻も早く、父の身柄を確保しなくては。


 すると男は、マービアンを投げ飛ばした。


 「ええ!?」


 ティローナはびっくりしながらもマービアンをキャッチする。

 すぐさま、息の確認。


 ……していない。

 息をしていない。


 ティローナは無言で、マービアンを地に寝かす。

 そして、現れた男を激しく睨みつけた。


 「絶対に、許さない!!!」


 悲しんでいる暇はない。

 戦闘の意思を構えるティローナ。


 「……次は、お前がそうなる。ティローナ・カルダート」


 対する男は、地に寝かされたマービアンを指差しながら言う。

 そして、ティローナと同じようにファイティングポーズを取った。


 ――――この男こそが、今回の首謀者。

 五将悪、北拠点のドラウク。


 そして、このミドルハイムに今、両陣営の一番手と二番手がそれぞれ対峙した。


 互いに残りの戦力はもういない。

  

 ドラウク側は部下が全滅。

 残りの配下は、副官であるジェシスただ一人。


 ティローナ側は、そもそも戦える者がほとんどいない。

 唯一の戦闘可能者マービアンも、今、ドラウクに倒されてしまった。


 この二つの戦いに、ミドルハイムの行方は委ねられている。


 翔英とジェシス。

 ティローナとドラウク。


 それぞれの意思が今、激突する。

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