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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第七章
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第百八十五話 『怒りの雷撃』

 ――――町の西側へ走る翔英。

 目指すは微かに見える魔物の後ろ姿。

 

 通り道、幸いにも倒れている人はいなかった。

 この辺りの住人の避難はほぼほぼ完了しているようだ。

 

 だが、

 

 魔物に近づくに連れ、そうではなくなった。

 

 「おいっ!! やめろっ!!!」


 目の前にいる魔物。

 スカーフを頭に巻いた、肥満体の男の魔物だ。

 上半身の服は、今にもはちきれそうに悲鳴を上げている。


 その周りには、数人の人間が倒れている。

 

 そして、彼の手元にも一人。

 

 翔英はそんな奴に近づき、例の力で斬撃を加える。


 「ぐぬ? 何すか?」


 これまでのように、先制攻撃で制することはできなかった。

 一撃目を耐えられ、魔物は翔英に敵意を向ける。


 「その人を離せ!!」


 「ああ? いいっすよ。――――こいつ、もう死んでるんで」


 「な……!?」


 魔物は翔英に向かって村人を投げ飛ばす。

 翔英は彼を受け止め、少し離れた所に寝かせた。

 怖くて生死の確認はできなかったが、おそらく、奴の言う通り死んでいる。

 

 「――――そこら辺に転がっている人間も全員死んでるっすよ。気にしなくても大丈夫っす」


 近くには六人。

 この人たちも全員、間に合わなかった。


 ここまでは全て助けられていたため、何とかなると思っていたのに。


 「……ふざけやがって……。何のためにこんなことしてるんだ……!!」


 「何のためって……知らないっす。ボスの指示でやってるんで。俺の知ったことじゃねえっす」


 「……あいつか……。――――それよりも、意味も分からないのに……そんな軽い気持ちで、こんなことをしたのか…………。……絶対に許さない!!」


 怒り爆発。

 犠牲になった村の人たちのため、これ以上の犠牲を増やさないために、強く剣を握り締め敵に飛び掛かっていく翔英。


 そんな翔英を魔物は真正面から迎え撃つ。


 そして、翔英が放った一撃をそのお腹で受け止めた。


 しかし、翔英に普通の防御は通じない。


 敵の腹には、少なくないダメージが生まれた。


 「……何すって……!!」


 速攻で片づけるために、さらに追い打ちを掛ける翔英。

 だが、これまでのようにはいかない。


 敵はすぐに立て直し、逆に翔英に攻撃を加えた。


 翔英は剣で拳を受け止めるも、そのパワーに後ろに飛ばされてしまう。

 さらに、翔英が傷をつけたはずの場所が完治していた。


 こいつ、さっきまでの奴らとは違う。


 ――――その感想を抱いたのは翔英の方だけではない。


 「……いや、あんた、何者っすか? この村に戦える奴なんてほとんどいないって聞いてたんすけど」


 「……聖鳳軍のショウエイ・キスギだ。ちょうど用があってこの村に滞在していた」


 「……なるほど、聖鳳軍。今の感じだと、二軍……いや、三軍ってとこっすかね」


 「…………さあな……」


 彼と話している間に、作戦を考える翔英。


 おそらくこいつは再生能力持ちだ。

 ちょっとずつ攻撃を与えていっても、すぐに身体が全快になってしまう。


 最大火力で一気に攻撃をぶつけないと。


 「俺の方も自己紹介をしておくっす。魔凰軍、ドラウク軍のゼッジっす」


 「……ドラウク軍……ってことは、やっぱあいつはレウラと同格か……」


 翔英は思い出す。

 ラスドラーゴがあの時言っていた、レウラは各支部を統括する魔物の一人ということを。

 ということは、さっきマービアンの所に置いてきたあいつは、レウラに並ぶ魔物ということか。


 「……レウラ? 馬鹿言っちゃいけねえっす。それはただ立場が同じってだけっす。ドラウク様とレウラ様じゃ、レベルが違うっすよ」


 「……なに……!?」


 マービアンは大丈夫だろうか。

 自分が戦った感覚しか知らないが、レウラはかなり厄介な相手だったと記憶している。


 ――――心配だ。


 やはりこんなところで、足止めされているわけにはいかない。


 「……ゼッジって言ったか……? 悪いけど急がせてもらうぞ……!!」


 「はい。俺もまだ仕事があるんで、むしろ助かるっす」


 ゼッジの言葉を聞き終わる前に、翔英は奴の懐へと侵入。

 そして、可能な限り最速で身体を刻んでいく。


 しかし、


 「無駄っすよ!! 俺にはそんな攻撃意味ないっす!!」


 まだ弾き飛ばされた。


 やはり再生が速い。

 傷を負わせたところから瞬く前に回復していく。


 ――――どうする。


 剣の威力じゃ勝てない。

 おそらく剣の形状を変えたとしても同じことだろう。


 カルダ流を使うか……?


 いや、まだこいつで終わりじゃないのに、あれを使うのはリスクが高い。

 近くに味方がいないんだ。

 逆にピンチになる可能性もある。


 「……やっぱ……これしかねえか……」


 ゼッジから少し離れた場所。

 翔英は棒立ちになり、掌にエネルギーを集中させ始めた。

 剣を握りながら。


 「な……何かする気っすね……!! そうはさせないっす!!!」


 チャージしているのを感じ取ったゼッジ。

 同時に危険を感じ取り、翔英に真っすぐ向かってきた。

 そのまま、翔英の腹に攻撃を加える。


 その瞬間、翔英は動いた。 


 剣を変形。

 大きな盾を作り出す。


 「なんすかこれは!!」


 ゼッジのパンチは盾がブロック。

 その隙にゼッジの背後に周る翔英。

 盾は置いたままだ。


 突如どこからか出現した盾に動揺するゼッジ。

 その間に、今度こそは本当に魔法のためのチャージを。


 十秒あれば出せる。

 もう少しで、行ける。


 「な……!! そうはさせないって言ってるっす」


 しかし、振り向いたゼッジが翔英に攻撃を仕掛ける。


 今度はノーガード。

 翔英はゼッジの攻撃をまともに喰らってしまった。


 ――――でも、チャージ完了だ。


 「……ちぃ……!! お返しだ!!!」


 ゼロ距離。

 翔英に接近していたゼッジの腹に両手を掲げる。


 両手から、雷を体内に直接送り込んだ。


 「ぎゃあああ!!!」と、悲鳴を上げながら怯んでいく。

 やはり直接触れてのダメージは相当効いているようだ。


 「トドメだ!!」


 再び盾を剣に戻し、ボロボロになった腹を貫通する。


 手応え、ありだ。


 「ぐ……ぐぐ……!! くっそお……!! 認識を誤ったっすう……!!!」


 ――――爆発。


 ゼッジの肉体は、跡形も無く消え去った。


 「……よし……!!」


 勝利。


 時間は掛かってしまったが、大したダメージがないのは幸いだ。


 「……いや、喜んでる場合じゃない……!!」


 翔英はすぐさま移動。

 今度は中央の方へ。


 すると、


 「……あっ……あれは……!!」


 黒髪の女性の後ろ姿が見えた。

 あれは間違いなく、


 「ティローナさん!! こっちは終わりました……!! 何人かは助けられなかったけど…………え……!?」


 ティローナだと思った。

 しかし、その女性は翔英の方を振り向くことすらなく、回し蹴りを噛ましてきた。


 「――――何だ貴様は……!! 私をあんな女と間違えるな……!!」


 違う。

 後ろ姿や服装、髪型はそっくりだが、顔は全然違った。


 そもそも、人間じゃなかった。

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