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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第七章
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第百八十二話 『動き出す』

 翔英がミドルハイムに来てから、九日間が経った日の夜。

 

 当然今日も、先程まで四人で頑張っていた。

 

 ニーファとティローナは先に帰宅。

 翔英とマービアンは、少し道場に残っている。


 この間までは考えられないことだが、二人で話そうとここに残ったのだ。


 「――――中々いい感じだな。集中すれば、魔物を倒す程の威力を繰り出せるだろう。ただし、集中できれば、だがな……」


 「はい……!! ありがとうございます……!! 痛みも、大分なくなってきましたよ……!!」


 マービアンが加わってからは、成長のスピードはかなり加速している。

 表面には出さずとも、アスリートのコーチのように付きっ切りで助言を行ってくれており、翔英も随分マービアンのことが好きになって来た。

 ティローナとニーファも、彼らがこんな風に話せることを喜んでおり、「先に帰ってくれ」と言われたときには、思わず笑顔を見せていた。


 「――――ところで、ショウエイ・キスギ。……お前に、少し話したいことがあるのだが……」


 「……話したいこと? 何でしょう?」


 認識が改まったのは、翔英の方だけではない。

 マービアン側も、かなり翔英に気を許すようになっていた。


 「……じ、実はな、明日は、娘の誕生日なんだ」


 「ティローナさんの!? へー、おめでとうございます!!」


 「……そ、そこでだな、ティローナは何をプレゼントしたら喜んでくれるのか聞きたいんだ」


 それも、相談事をするくらいに。


 娘に比較的近い年齢の同性。

 そんな相手がこうしてできたことも、彼にとっては嬉しかった。


 「……なるほど……。そうですね…………」


 「お前だったら何をあげる?」

 

 「……俺だったら……」


 現代基準の物ばっかり出て来る。

 無難な答えしか思いつかない。


 「服とかじゃないですかね。ファッション系。アクセサリーとか」


 「…………ほう……」


 「まあでも、家族からのプレゼントって、何でも嬉しいものですよ。それにティローナさんだし。マービアンさんが一生懸命選んだ物なら、きっと喜んでくれますよ」


 間違いなく――――

 ティローナは文句を言うような人ではない。

 プレゼントなんて尚更だ。


 きっと心から喜びの言葉を出してくれるだろう。


 「…………ああ……」


 「……マービアンさん! もしよかったら、俺もプレゼント選びに行きますよ!」


 「なに!? ……いいのか?」


 「はい!!」


 「…………助かる」


 何でか分からないけど、おじさんと二人で買い物に行くことになった。

 

 翔英からすればお礼がしたかったので、丁度いい機会だが。

 

 「……では、明日。稽古を始める前に買いに行こう。ニーファとティローナにも、開始時間を遅らせるかもと伝えておく」


 「分かりました。――――近くのお店ですか?」


 「……ミドルハイムには、プレゼントになるような品があまりない。隣町の『ワンババ』まで行こうと思っていた。あそこには、豊富な服が売っているとニーファから聞いたことがあるんでな。ここから先、歩いて三十分くらいだ。修業がてら、走って行こう」


 「おお……分かりました……。……走ってか……」


 しょうがない。

 お世話になっているカルダート家のためだ。

 面倒くさいけど、その町へ行こう。 


 「――――よし……そろそろ戻ろう。ニーファとティローナも待っているはずだ」


 「了解です……!! ――――あっ……ところで、ティローナさんはおいくつになるんですか?」


 「…………二十五だ」


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 ――――次の日。


 約束通り二人は、ミドルハイムの隣町、ワンババへと訪れていた。

 朝早くから走らされるのはきつかったが、いい運動になったとポジティブに捉えよう。


 今翔英がいるのは、ワンババの服屋。

 昨日マービアンが言っていた通り、確かに品揃えは豊富だ。

 隅々まで見ていたら、時間があっという間に過ぎてしまいそうだ。


 「――――これなんてどうですか? マービアンさん」


 「…………いいと思う」


 結局、プレゼントは翔英が決めてしまった。


 『銀色の花のアクセサリーが付いたネックレス』


 なんとなくティローナに似合いそうだなって思っただけだが、マービアンが拒否するはずもなく決まってしまった。


 他にも、ティローナが好きだという料理を作るための食材と、ケーキも買って行った。


 「……よし……! こんなもんですかね?」


 「……ああそうだな。帰ろう」


 ミドルハイムへ帰宅する翔英とマービアン。

 

 今日の練習が終わったら、誕生日パーティーが開かれるのだろう。

 そこに余所者の自分が参加できるなんて光栄の至りだ。


 今度は両手に荷物があるので、さすがに歩いて帰っていく。


 「――――ところでマービアンさん。これ、マービアンさんが渡してくださいね。俺が選んだってことも言わないで」


 帰り道、気さくに話し掛ける翔英。

 あくまで、父から娘への贈り物ということにしたい。

 翔英はただの付き添いだと。


 「……分かった。……すまないな」


 「謝らないでくださいよ。むしろ、感謝しっぱなしなんですから。ティローナさんにもニーファさんにも、あなたにも…………って、あれ……?」


 前を歩いていたマービアンを追い越していた翔英。

 彼の方を振り返り、彼の様子を確認する。


 なぜだか分からないが、マービアンは急に立ち止まっていた。


 「……どうしたんですか? 忘れ物でも思い出しました?」


 「…………違う」


 「……え……?」


 マービアンが何かを睨んでいることに気付く翔英。

 また後ろを振り向くと、翔英の視界にも男が映った。


 どうやら、マービアンは彼を見ているらしい。

 ということは、立ち止まった理由も彼に。


 「……あの人がどうかしましたか? 知り合いですか?」


 「……いや、そうではない。……だが、この感じは……」


 「…………?」


 マービアンと男を交互に見る翔英。


 ――――近づいてきている。 

 

 マービアンは依然動こうとはしないが、あちらの方はこっちに向かってきている。

 まあ、そりゃそうなんだけど。


 だが、そりゃそうじゃないことが、翔英の目の前で起こった。


 翔英を挟むようにして、彼の方も立ち止まったのだ。


 「え……? 何……?」


 動揺する翔英はマービアンの方へ。

 見つめ合う二人の対角線から脱出だ。


 すると、男の方が口を開く。


 「……マービアン・カルダート。――――早速だが、死んでもらう」 


 と。

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