第百八十二話 『動き出す』
翔英がミドルハイムに来てから、九日間が経った日の夜。
当然今日も、先程まで四人で頑張っていた。
ニーファとティローナは先に帰宅。
翔英とマービアンは、少し道場に残っている。
この間までは考えられないことだが、二人で話そうとここに残ったのだ。
「――――中々いい感じだな。集中すれば、魔物を倒す程の威力を繰り出せるだろう。ただし、集中できれば、だがな……」
「はい……!! ありがとうございます……!! 痛みも、大分なくなってきましたよ……!!」
マービアンが加わってからは、成長のスピードはかなり加速している。
表面には出さずとも、アスリートのコーチのように付きっ切りで助言を行ってくれており、翔英も随分マービアンのことが好きになって来た。
ティローナとニーファも、彼らがこんな風に話せることを喜んでおり、「先に帰ってくれ」と言われたときには、思わず笑顔を見せていた。
「――――ところで、ショウエイ・キスギ。……お前に、少し話したいことがあるのだが……」
「……話したいこと? 何でしょう?」
認識が改まったのは、翔英の方だけではない。
マービアン側も、かなり翔英に気を許すようになっていた。
「……じ、実はな、明日は、娘の誕生日なんだ」
「ティローナさんの!? へー、おめでとうございます!!」
「……そ、そこでだな、ティローナは何をプレゼントしたら喜んでくれるのか聞きたいんだ」
それも、相談事をするくらいに。
娘に比較的近い年齢の同性。
そんな相手がこうしてできたことも、彼にとっては嬉しかった。
「……なるほど……。そうですね…………」
「お前だったら何をあげる?」
「……俺だったら……」
現代基準の物ばっかり出て来る。
無難な答えしか思いつかない。
「服とかじゃないですかね。ファッション系。アクセサリーとか」
「…………ほう……」
「まあでも、家族からのプレゼントって、何でも嬉しいものですよ。それにティローナさんだし。マービアンさんが一生懸命選んだ物なら、きっと喜んでくれますよ」
間違いなく――――
ティローナは文句を言うような人ではない。
プレゼントなんて尚更だ。
きっと心から喜びの言葉を出してくれるだろう。
「…………ああ……」
「……マービアンさん! もしよかったら、俺もプレゼント選びに行きますよ!」
「なに!? ……いいのか?」
「はい!!」
「…………助かる」
何でか分からないけど、おじさんと二人で買い物に行くことになった。
翔英からすればお礼がしたかったので、丁度いい機会だが。
「……では、明日。稽古を始める前に買いに行こう。ニーファとティローナにも、開始時間を遅らせるかもと伝えておく」
「分かりました。――――近くのお店ですか?」
「……ミドルハイムには、プレゼントになるような品があまりない。隣町の『ワンババ』まで行こうと思っていた。あそこには、豊富な服が売っているとニーファから聞いたことがあるんでな。ここから先、歩いて三十分くらいだ。修業がてら、走って行こう」
「おお……分かりました……。……走ってか……」
しょうがない。
お世話になっているカルダート家のためだ。
面倒くさいけど、その町へ行こう。
「――――よし……そろそろ戻ろう。ニーファとティローナも待っているはずだ」
「了解です……!! ――――あっ……ところで、ティローナさんはおいくつになるんですか?」
「…………二十五だ」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――次の日。
約束通り二人は、ミドルハイムの隣町、ワンババへと訪れていた。
朝早くから走らされるのはきつかったが、いい運動になったとポジティブに捉えよう。
今翔英がいるのは、ワンババの服屋。
昨日マービアンが言っていた通り、確かに品揃えは豊富だ。
隅々まで見ていたら、時間があっという間に過ぎてしまいそうだ。
「――――これなんてどうですか? マービアンさん」
「…………いいと思う」
結局、プレゼントは翔英が決めてしまった。
『銀色の花のアクセサリーが付いたネックレス』
なんとなくティローナに似合いそうだなって思っただけだが、マービアンが拒否するはずもなく決まってしまった。
他にも、ティローナが好きだという料理を作るための食材と、ケーキも買って行った。
「……よし……! こんなもんですかね?」
「……ああそうだな。帰ろう」
ミドルハイムへ帰宅する翔英とマービアン。
今日の練習が終わったら、誕生日パーティーが開かれるのだろう。
そこに余所者の自分が参加できるなんて光栄の至りだ。
今度は両手に荷物があるので、さすがに歩いて帰っていく。
「――――ところでマービアンさん。これ、マービアンさんが渡してくださいね。俺が選んだってことも言わないで」
帰り道、気さくに話し掛ける翔英。
あくまで、父から娘への贈り物ということにしたい。
翔英はただの付き添いだと。
「……分かった。……すまないな」
「謝らないでくださいよ。むしろ、感謝しっぱなしなんですから。ティローナさんにもニーファさんにも、あなたにも…………って、あれ……?」
前を歩いていたマービアンを追い越していた翔英。
彼の方を振り返り、彼の様子を確認する。
なぜだか分からないが、マービアンは急に立ち止まっていた。
「……どうしたんですか? 忘れ物でも思い出しました?」
「…………違う」
「……え……?」
マービアンが何かを睨んでいることに気付く翔英。
また後ろを振り向くと、翔英の視界にも男が映った。
どうやら、マービアンは彼を見ているらしい。
ということは、立ち止まった理由も彼に。
「……あの人がどうかしましたか? 知り合いですか?」
「……いや、そうではない。……だが、この感じは……」
「…………?」
マービアンと男を交互に見る翔英。
――――近づいてきている。
マービアンは依然動こうとはしないが、あちらの方はこっちに向かってきている。
まあ、そりゃそうなんだけど。
だが、そりゃそうじゃないことが、翔英の目の前で起こった。
翔英を挟むようにして、彼の方も立ち止まったのだ。
「え……? 何……?」
動揺する翔英はマービアンの方へ。
見つめ合う二人の対角線から脱出だ。
すると、男の方が口を開く。
「……マービアン・カルダート。――――早速だが、死んでもらう」
と。




