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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第七章
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第百八十一話 『変化と成長』

 ――――翌日。

 

 「――――よろしくお願いします……!!」


 道場。

 翔英が叫ぶ。


 彼の前にはいつも通り、ティローナとニーファの姿がある。

 そしてその隣には、マービアン。 

 

 翔英が来てから初めて、一家全員がこの場所に揃った。

 三人はそれぞれの顔を見ながらこの状況を懐かしんでいる様子だ。


 「……よし、じゃあ見せてみろ。今の成果を」


 腕を組みながらマービアンが言う。

 女性陣二人とやっていた時には感じられなかった緊張感だ。


 「はい……!!」 


 元気な返事と共に動き出す翔英。

 と同時に、ニーファも衝撃に備える。


 翔英は拳を握り、そのまま勢いよく目の前の障害物へ。

 物は弾け飛んだ。


 ――――上がっている。

 前よりも、数段威力が上がっている。

 大きな穴が空く程度だったが、今は完全に破壊に至っている。


 しかし、


 「いっ……!!!」


 やっぱり痛い。


 瞬間動き出すニーファ。

 回復術で翔英の拳を復元する。


 「……こんな感じです……」


 「……なるほどな」


 進捗状況を確認したマービアン。

 腕組みを解除し、翔英の元へ。


 「威力は申し分ない。だが、それでは実戦では使えんな」


 「……はい。分かってます……」


 「はっきり言おう。お前では、カルダ流をマスターすることはできない」


 「…………はい……」


 はっきり言い過ぎだろう。

 その言葉に、かなりショックを受ける翔英。


 ティローナも父の言葉に反応し、こちらに走ってくる。


 「ちょっとお父さん!! そんなこと言わないでよ!! せっかく頑張ってるのに!!」


 「勘違いするんじゃない。俺は「マスターできない」と言ったんだ。「完璧に」とはいかんが、やり方を変えれば今よりも使えるようになるはずだ」


 「え……!?」


 ティローナをストップさせると、マービアンは翔英の手を掴んだ。

 翔英はいきなりおじさんに手を握られ、歯を見せながら驚いている。


 「――――魔力の解放はなにも『拳』にこだわる必要はない。形を変えたっていいんだ。お前に向いているのは、『指』だろう」


 「指……!?」


 「ああ。指の方が魔力の量が少ない。拳の五分の一以下なんだ。当然な。だからこっちの方が、扱う魔力も少ないというわけだ。――――それにな……」


 ポケットからペンを取り出すマービアン。

 そして、翔英の人差し指の丁度真ん中らへんに直線を引いた。


 「指は拳よりも、中心の感覚が掴みやすい。この線を境目として、自分の中で魔力をぶつけてみろ。さっきよりはやりやすくなるはずだ」


 相変わらずマービアンの表情は硬い。

 しかし、その言葉は確実に翔英の成長を促す貴重なものだ。

 

 翔英は自身の人差し指を見つめ、目の前の大男へと視線をやる。

 少し彼の目を見ると、笑顔を見せながら告げる。


 「――――ありがとうございます……!! やってみます……!!」


 まさかここまで具体的なアドバイスが貰えるとは。

 しかも、これまでのやり方そのものを改善させるような。

 

 ――――この人にお願いしてみてよかった。


 「拳以外でもできるの!? 知らなかった! ……何で私には教えてくれなかったの!?」


 マービアンの説明にティローナが反応。


 ティローナは、『手』だけでしか試したことがなかった。

 張り手だったり、手刀だったり、形を変えることができることは把握しており、それらは戦法としていたが、一部分に留めることができるのは初耳だ。


 「……ティローナ、お前はカルダ流の正統な後継者だ。基本的には、拳で戦うのが良しとされる。今言ったのは、いわば『派生』だ。だから、お前が知る必要はなかった」


 「……でも、教えてくれてもよかったのに!!」


 「ティローナは完璧に拳で戦う事ができるだろう。それに威力は拳の方が数倍高い。指での戦いは、ティローナには似合わんぞ。――――さあ、ショウエイ・キスギ。今言ったようにやってみろ」 


 もう一回ティローナをストップさせ、翔英に目を向けるマービアン。

 

 翔英も頷き、今度は『指』に力を集中させていく。

 印が出来たことで、コントロールがやりやすくなっているのが分かる。

 カルダートファミリーが見守る中、指に炎が宿る感覚が生まれる翔英。 


 そして、ティローナが持ってきてくれた柱に、指銃を食らわせた。


 ズボッという鈍い音が響く。 

 柱には、綺麗な穴が空いていた。


 威力は申し分ない。

 人体に繰り出せば、同じように空洞が生まれそうだ。


 そして、


 「――――待ってください!! ニーファさん!!」


 いつも通り治療に動き出すニーファを制止する翔英。

 

 ブルブルと痛みで震えている指を揺らしながら、ニーファに笑顔を見せた。


 「――――いっったいですけど……前よりは全然大丈夫です……!! 何とか……耐えられるくらいには……!!」


 突き指くらいの痛みはある。

 しかし、昨日までの内部が破裂するような痛みに比べれば、大したことはない。

 

 「……ありがとうございました、マービアンさん……!! 確かに俺には、こっちの方が向いているみたいです……!!」


 「……さっきよりはマシになったが、まだまだ実戦段階ではないな。――――まず、まだ威力が足りない。完全に決まれば、こんな柱など粉々になるはずだからな。それに、痛みを感じるようではダメだ。ティローナのように、痛みをゼロにできなければ習得したとはいえん」


 「……そうですね……」


 「……しかしだ。お前次第だが、完成に近づけることは出来なくもないと、そう思った。――――だから、もう少し見てやる。そんな半端な力を使われるのも、気分が悪いからな」


 「え……!? あ、ありがとうございます……!!」


 数年ぶりに誰かを鍛えられることが嬉しかったのか。

 その表情と言葉の割に、ノリノリで稽古の続行を宣言してくれるマービアン。


 ティローナとニーファも笑顔で顔を合わせる。


 「ニーファ!! こいつの指を治してやれ!!」


 「はい、分かりましたよ」


 指を蘇生させたところで、再開。


 マービアンを加えたトレーニングは、日が落ちるまで行われた。

 その次の日も、同じように。


 その経験を積み重ねていく中で翔英は、ニーファの力を借りなくても戦闘続行できるように、威力を込めれば柱を半壊させられるようになった。


 まだ、どちらかに偏ってしまうが。

 威力を優先すると指が、指を優先すると威力が落ちる。


 しかしそれでも、この二日間で大幅なパワーアップをしたことは間違いない。


 その日の夜には――――


 「中々、モノになってきたな」


 「あ、ありがとうございます」


 「その感覚を忘れるなよ。明日もな」


 「はい……!!」


 二人の距離も、大分縮まっていた。

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