第百五十五話 『心を一つに』
「――――あれ………?」
「……なんだろうこれ……」
「何か……何かが……俺の身体に……」
「――――でも、とても暖かい……」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――驚いていた。
攻撃を仕掛けた方も、死を受け入れた方も。
「――――な……!! なんだあこれは!?」
攻撃を仕掛けた方。
ジャーザンスが声を荒げる。
トドメを刺さんと仕掛けた彼の攻撃は、『何か』に防がれていた。
それが何なのか、ジャーザンスは分からない。
ただ一つ明らかなのは、こいつは、今の自分の攻撃を受け止めるほどの防御力を持っていること。
しかし、一発防がれたからなんだと言うのだ。
ジャーザンスはもう一度、翔英の肉体を破壊しに掛かる。
「――――くそっ!! うっとおしい!!!」
だが、再びジャーザンスの攻撃は防がれた。
「――――これは……まさか…………」
死を受け入れた方。
翔英がそっと声を出す。
そして、すぐに後ろを振り向き、涙を流した。
ゆっくりと目を開いた彼の視界に、映っていた物は。
『マフラー』
金色に光輝くマフラーが、翔英の首に巻かれていた。
――――暖かい。
命を救ってくれたこのマフラー。
冷たく凍っていた翔英の心にまで巻かれているようだ。
――――染みついていた恐怖が解けていく。
そして翔英は理解する。
このマフラーは、天から送られてきたものだと。
ガロト・クラーニクの手によって。
「(……ショウエイ…………)」
そんな翔英を呼ぶ声が彼の頭に響く。
よく、聞き慣れた声だ。
淡々とした低音だが、その奥には温かなぬくもりが宿っているような声。
「(えっ!!! ガロトさん!!?)」
翔英は後ろを振り返りながら、心で言葉を返す。
視線の先には倒れる恩師の姿が見えるが、声はそこからのものではない。
「(――――久しぶりだね、ショウエイ。……今は、そのマフラーを通じて、君に語り掛けている)」
「(……こいつを通じて………)」
首に巻かれたマフラー。
それは、死して尚、部下を守ろうとするガロトの強い思いによる物なのか。
それとも、戦い続け、不本意ながら折れた翔英の涙が呼び寄せた物なのか。
いずれにしても、ありえないようなことだが。
確かに今、翔英には光のマフラーが宿っている。
「(ああ。……そして、すまない。君一人にこんな負担を掛けてしまって)」
「(……何言ってるんですか……俺なんて、最低の人間ですよ………みんなに助けてもらって、みんなの想いを背負ってここまで来たのに。……あなたにだって、『諦めない』って、かっこつけて言ったのに。……結局俺は……負けてしまった……負けを認めてしまった…………)」
「(……いや、そんなことはないよ、ショウエイ。君のその顔が、まだ『諦めたくない』と言っている。本当に最低の人間なら、そんな顔をするはずはない。――――君はまだ、負けてはいない)」
「(……ガロトさん………)」
「(それにショウエイ。――――君は、一人ではない。いつだって君には、仲間が。今は、『私』が付いている。私が君を護る。だから、前を向いてくれ。『二人』で、この男を倒すぞ)」
「(…………ガロトさん……ありがとう……ございます。……分かりました……!!! お願いします……!!!)」
翔英はポロポロと零れる涙を拭き、折れた戦意を師と共に復活させた。
そして、剣を空高く掲げ、目の前の仇敵を睨みつける。
今度は、負けない。
今度は、屈さない。
――――絶対に。
「……なんだい。さっきとは随分違うね」
「……今度こそ、お前を倒す」
一変。
戦う目を取り戻した翔英をいつになく真剣な顔で見つめるジャーザンス。
奴が首に巻いている『何か』。
それが、奴の心を再起させたことは間違いない。
先の攻防で、ジャーザンスも理解している。
自身の攻撃を高速で弾き飛ばした『あれ』の強さを。
だが、
「お調子に乗るなよ!! 人間が!!!」
それだけで、圧倒的有利だった戦況が代わるはずがない。
もう一度、翔英の顔を絶望に染め上げるため、襲い掛かるジャーザンス。
目にも止まらぬ高速で、翔英の腹部に狙いを定めた。
――――しかし、
「うおっ!!!!」
ジャーザンスよりもさらに早く、光速で伸びて来る光のマフラー。
マフラーがジャーザンスの攻撃を完全にカットする。
そして、
「おおらあっ!!!!」
ガロトが攻撃を弾いた隙に、攻撃を仕掛ける翔英。
――――ついに、翔英の攻撃がまともに決まった。
追撃。
その手を止めることはない。
後悔も、怒りも、悲しみも、願いも、これまでの全てがこの剣に込められている。
「…………ちィ……!! てめえみたいな雑魚が……いつまでも、イキがってんじゃねえ!!!」
当然、一方的にはいかない。
ジャーザンスも反撃に出る。
だが、ジャーザンスの攻撃が翔英に決まることはない。
全ての攻撃が、天からの意思によって防がれていく。
「……くそっ……くそっ……!!! なんなんだよその装備は!!! ふざけやがって!! チートすぎんだろ!!!!」
「……そんなんじゃない……!! これは、あの人が遺してくれた思いの結晶だ……!! お前を倒すためにな!!!」
『攻防一体』
翔英が攻め、ガロトが護る。
今の彼らの猛攻を止めることなどできはしない。




