表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第六章
154/154

第百五十三話 『狂気人』

 「――――な……何だとォ……!!!! 何が起こったのよ……!!!?」


 声を荒げるジャーザンス。

 今明らかに、ガロトが自ら剣に飛び込んでいった。

 

 そして、地に倒れた。


 翔英は倒れるガロトの背中を見つめ、涙を流している。 


 ――――翔英は先の攻防の一瞬、意思を感じ取っていた。

 

 トドメを刺さんと向かってくるガロトだったが、彼の目に光が戻っているのが見えた。

 

 あまりの驚きで動きを止める翔英だったが、そんな翔英に頷いて見せたガロト。

 

 そこで翔英は「このままでいろ」というガロトの無言メッセージを感じ取った。

 

 翔英は剣を構えたまま、立ち止まった。


 そして、構えた剣に、ガロトは自らの腹を突き刺した。


 翔英は、ガロトの記憶が一瞬だけ戻り、自らの意思で戦いを終わらせてくれたのだと感じ取った。

 

 「――――ガロトさん…………」


 翔英が呟く。

 再び、恩師の名前を。


 ガロトはもう、ピクリとも動かない。

 生物としての役目を終えて尚、動きを止めることの無かった彼は、ようやく眠ることができた。


 「…………ちっ。なんてこった。マジかよ。俺、一人?」


 そう言いながら、今起こったことを考察するジャーザンス。


 ガロトの意思が戻ってきてしまった。

 それ故に起こってしまった結果だと。


 そして、「制御装置を外したのはミスだった」と考える。

 タイミングが悪かった。


 おそらく、力だけでなく余計な物までガロトに与えてしまったようだ。

 それが、この結果。


 「でも、しょうがないよね。もう起きちゃったんだから。後悔しても仕方ないよね。――――じゃあ、私が戦うよ」


 今日一日で手駒を全て失ってしまったが、ジャーザンスにとっては些細なことではない。

 ガロトならまた直せば復活するだろうし、配下だってまたどっかで攫ってきて改造すればいい。

 

 ワンダフィンだけは少々惜しいが、奴も精々五将悪程度。

 またどこかで同じような奴に会えるだろう。


 ――――今は、このショウエイ・キスギだけ倒せば、勝ちだ。


 ジャーザンスが動き出した。


 この肉体にも大分馴染んできたようで、準備は万端だ。


 対する翔英も剣を構えて歩き出す。


 ――――決着をつけるために。 


 「…………お前を倒す」


 「うん。いい気合いだね」


 悲しみと怒りを向こうへと退かし、この戦いに全てを注げる覚悟だ。


 「――――行くぞっ……!!!」


 「いちいち言わなくていいよ別に」


 これまでの全てを掛けて飛びかかる翔英。

 そのまま、天高く上げた剣を仇敵目掛けて振り下ろした。


 その一撃を何とか躱すジャーザンス。

 

 だが、追撃の速度は常識を超えている。


 翔英の一閃が、ジャーザンスの胸を捉えた。

 

 「うわあっ!!!」


 さらに畳み掛ける翔英。

 

 相手の手の内は分からない。

 だから、反撃はさせない。

 このターンで一気に決めるつもりだ。

 

 攻撃の手は止めない。

 奴が完全に膝を着くまで。


 そして、翔英のターンがずっと続くこと、数十秒。

 

 ついに、ジャーザンスが崩れ落ちた。


 「トドメだ!!」と心の中で叫びながら、引導を渡そうと狙いを定める翔英。

 

 ――――決まった。

 

 手応え大ありだ。


 白目を剥きながら、ジャーザンスが倒れていく。

 

 ――――しかし、


 「はいはい、ごくろうさまでした」


 翔英の胸に手刀が食い込んだ。

 その手刀は、倒れるジャーザンスの身体を貫き、翔英の胸へと飛び出して来た。


 胸を捉えた一撃。

 血を拭きながら、今度は翔英が地に倒れる。


 「…………どうなって………」


 「――――やあ、こんにちは」


 倒れたジャーザンスの後ろから、知らない男が顔を覗かせる。

 翔英の胸をジャーザンスごと刺したのは、この男のようだ。


 その男は地に伏せる翔英とジャーザンスを観察しながら、嬉しそうな顔を浮かべている。


 そして、事切れたジャーザンスの顔を持ち上げながら、


 「ごめんね。さっき嘘ついちゃったの。こ・い・つは、別に大したことない肉体なんだ。ただの古着。――――これが、本当の僕の強さだよ」


 と、言った。


 そして、さっきまで自分が着ていた人間を遠くへと投げ飛ばす。

 

 「ほら!! あいつも結構重かったけど、この僕の力だったら、あんなに遠くに飛ばせるよ。もっと見せてあげようか?」


 「…………なんなんだよ、お前………」


 嬉々として声を掛けて来るジャーザンスに、声を震わせて答える翔英。

 

 そして、翔英は強く思った。


 ――――この男、ジャーザンスは『イカれている』


 戦法が、思考が、台詞が、行動が、全てが理解できない。


 自分を脱ぎ捨てながら、それを壊しながら攻撃してくる。

 さっきまで自分だったものを、躊躇いなく投げ飛ばしてくる。


 そして、常に半笑いのような口調でベラベラと台詞を口にする。


 『怖い』。

 『ただひたすらに』。


 初めてこの男を見た時から、その狂気の片鱗は感じ取っていた。

 

 目を合わせただけで、心の中に手を入れられたような感じがした。

 会話を交わせば、脳を直接触られるような気がした。


 だが、「臆してはいけない」と。

 翔英は恐怖を跳ね除けていた。


 でも、今、その恐怖は着実に翔英を蝕んでいる。


 ミネカのために、ガロトのために、みんなのために、戦わなくてはいけない。

 

 そんなことは十分に分かっている。

 

 むしろ、「その思いだけで」ずっと剣を振って来た。


 しかし今、自分の胸の傷を見て、未知の恐怖を見上げて、その思いにヒビが入りそうになっている。


 「一人だけで、俺だけで、この男を倒すことなんてできるのか」と。


 『誰か助けて欲しい』


 そう言いそうになる。 


 己自身の力で、戦わなければならない。

 そう強く思っているのは間違いないのに。

 みんなの思いを背負っているのに。


 「――――ところでショウエイくん。この肉体に入るのは結構久しぶりなんだ。だから、ちょっと運動に付き合って欲しいんだ。さあ、立ち上がって。でも安心してね、この身体が完全に馴染むまでは、一緒に遊べるからさ」


 「……………………」


 「ああそっか!! ごめんねえ。痛くて起き上がれない? じゃあ僕が手を貸してあげるよ。ほら、捕まって!!」


 腹を抑えながら横たわる翔英に手を差し伸べるジャーザンス。

 

 その手に、翔英は剣を突き刺した。


 「結構まだ元気あるんだねえ。でも、その攻撃は流石にひどくない? まあ、この程度のケガなら簡単に治せるからいいけどね」


 ジャーザンスは近くに有った溶液を手に掛けた。

 すると、その傷はみるみるうちに引いていく。


 「実験とかでさ。耐久性を試す時とかに便利なんだよねこれ。おっ? 君にも使って上げようか?」


 そう言いながら翔英の胸にも溶液を掛けるジャーザンス。

 するとやはり、刺し傷が治っていく。


 翔英は瞬時に立ち上がり、ジャーザンスに剣を振った。


 「おおいいねえ。相手がこうやってやる気ある方がいいウオーミングアップになるもんねえ」


 しかし、三番目のジャーザンスに翔英の攻撃は決まらない。

 当たってはいるものの、すぐに反撃の拳を喰らい、翔英の方がダウンしてしまう。  


 それでも、『諦めない』という信条をバネに、何度も突撃する翔英。

 

 だが、今の彼の力では狂気を倒すことはできない。


 しかも、倒れてもまた、ジャーザンスが回復してくる。


 終わらない。


 戦いが終わらない。


 そんな状況が続いていく。


 やがて――――折れ始めた、彼の心が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ