第百五十二話 『最期の意思』
「――――えっ……!? 今一瞬…………」
ガロトの目が動いた。
そんな風に見えた。
何度も目にしてきた、何度も合わせてきた、彼が生きていた頃の瞳が少しだけ見えた。
だが、今はもう元に戻ってしまっている。
抱いた希望による錯覚だったかもしれない。
受け入れない自分が起こした幻想だったかもしれない。
でも、もしかしたら……
――――いや、今はそんな奇跡を期待している訳にはいかない。
翔英は身体を起こして、剣を前方へと構えた。
そしてガロトが動く。
再びただの兵器として、翔英に襲い掛かる。
翔英の方も歯を食いしばり、迫り来るガロトを迎え撃つ。
――――だが、戦況に変化が起こり始めた。
ガロトがダメージを受けないこともあり、先程までは防戦一方の翔英だった。
しかし今度は、剣を振る度に、剣が肉体を捉える度に、ガロトの動きが鈍くなっていくのが分かった。
攻撃が効いているのだろうか。
それとも、他に要因があるのだろうか。
確かな理由は分からないが、おかげで、翔英の方も調子を上げていくことができている。
やがて、動きの鈍りはどんどんと増していき、翔英の方が押し始めるまでになった。
このまま行けば、死を超えることができるかもしれない。
それを観察していたジャーザンスは、
「――――何。なんでだよ。なんでお前がガロトに勝てそうなんだ。……仕方ない。本当はやりたくなかったんだけどさっ!!!!」
と、身体を起こしガロトの元へと歩き出した。
そして、再びガロトの背中に手を入れる。
またしても見せるジャーザンスの奇行に、翔英のフラストレーションは急上昇。
「おい!!! なにやってんだよお前!!!」
「うるさいな。スイッチを入れているんだよ。このままじゃ、ガロトまでやられるかもしれないからね」
「ああ……!? スイッチ……!? 何の!?」
「黙ってろよ。今、見せてやるからさ」
スイッチ。
そうは言っているが、普通に押すタイプのそれではない。
なぜなら、ジャーザンスはガロトの体内に手を突っ込んでいるから。
翔英の側からそれを見ることはできないが、こいつがガロトの身体を内側から弄っているのは分かる。
そんな翔英。
ジャーザンスが言うように、ただ黙って見ている訳がない。
こいつのふざけた行動を無視できる訳がない。
剣を持ちながら走り出し、後ろのジャーザンスに斬りかかろうとする。
しかし、その攻撃は届かない。
再び動き出したガロトの蹴りが翔英の行く手を阻んだ。
「……痛っってえっ……!!」
いきなり動き出したもんで反応が追いつかず、モロに蹴りを入れられる翔英。
吹っ飛んだ先でうずくまった。
そしてまた、ガロトが戦闘態勢に入る。
「これで君は終わりだね。――――さあ……!! やっておしまい!!!!」
ジャーザンスが取った行動。
それは、ガロトの力を全快にまで引き出すものだった。
ガロトの背中には、制御装置が埋め込められている。
それを外し、ガロトの力を解き放ったのだ。
ガロトはまだ試作段階だ。
一気に力を与えれば、肉体の方に悪影響を及ぼすかもしれない。
また、死体を戦闘用に改造する際には、抑制が重要となる。
そのために、ジャーザンスはガロトの力を制御していた。
しかし、その力は今、解放された。
――――もはや翔英に、勝ち目はない。
さらに、蹴りをかますガロト。
速度も威力も大幅に向上した蹴りは、着実に翔英の命を削っていく。
そんな危機の中、翔英は思った。
「やはり自分ごときがこの男に勝てるはずがなかった」と。
そして、
「一瞬でも勝てると思った自分を恥じた」
「木偶人形にされた仲間を助けることすらできない自分を憎んだ」
「待っている人の顔を見ることすらできない自分の弱さを呪った」
でも――――
『みんながここまで送ってくれたのに』
『俺がやるしかないのに』
『このままここで終わりだなんて』
『そんなの――――嫌だ』
激しい痛みを押し殺しながら身体を起こす翔英。
そして、翔英の頭の中に『記憶』が舞い込んでくる。
それは、『彼との』記憶。
彼は戦闘における様々な助言をしてくれた。
戦闘中だって、彼の言葉を思い出して状況を切り抜けたこともあった。
彼の言葉に、翔英は常に助けられてきた。
あの時も、こう言ってくれた。
『ピンチの時こそ、攻めることを忘れてはいけない』と。
そして――――
『手を止めないこと。それが道を作る』と。
翔英はそのまま、高く、真っすぐ、鋭利な戦意と共に剣を前方へ向けた。
彼の言葉に後押しされるかのように。
彼の記憶に突き動かされるように。
「なんだよ、まだまだ元気そうじゃないか。もういいよ、トドメを刺して。ガロト」
ジャーザンスの言葉を合図に、一気に翔英との距離を詰めるガロト。
対する翔英は動こうとしない。
完全にカウンター狙い。
このままガロトを迎え撃とうとする。
だが――――
途中、翔英は完全に動きを止めた。
剣を前方に構えた姿勢のまま。
そのまま――――ガロトは翔英の剣に飛び込んできた。
赤き剣に腹を貫かれるガロト。
翔英は涙を流しながら剣を抜いた。
すると、ガロトは頭から地に崩れ落ちた。




