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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第六章
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第百五十二話 『最期の意思』

 「――――えっ……!? 今一瞬…………」


 ガロトの目が動いた。

 そんな風に見えた。

 

 何度も目にしてきた、何度も合わせてきた、彼が生きていた頃の瞳が少しだけ見えた。


 だが、今はもう元に戻ってしまっている。 


 抱いた希望による錯覚だったかもしれない。

 受け入れない自分が起こした幻想だったかもしれない。


 でも、もしかしたら……


 ――――いや、今はそんな奇跡を期待している訳にはいかない。


 翔英は身体を起こして、剣を前方へと構えた。


 そしてガロトが動く。

 再びただの兵器として、翔英に襲い掛かる。


 翔英の方も歯を食いしばり、迫り来るガロトを迎え撃つ。


 ――――だが、戦況に変化が起こり始めた。

 

 ガロトがダメージを受けないこともあり、先程までは防戦一方の翔英だった。

 

 しかし今度は、剣を振る度に、剣が肉体を捉える度に、ガロトの動きが鈍くなっていくのが分かった。


 攻撃が効いているのだろうか。

 それとも、他に要因があるのだろうか。


 確かな理由は分からないが、おかげで、翔英の方も調子を上げていくことができている。

 やがて、動きの鈍りはどんどんと増していき、翔英の方が押し始めるまでになった。


 このまま行けば、死を超えることができるかもしれない。


 それを観察していたジャーザンスは、


 「――――何。なんでだよ。なんでお前がガロトに勝てそうなんだ。……仕方ない。本当はやりたくなかったんだけどさっ!!!!」


 と、身体を起こしガロトの元へと歩き出した。


 そして、再びガロトの背中に手を入れる。


 またしても見せるジャーザンスの奇行に、翔英のフラストレーションは急上昇。


 「おい!!! なにやってんだよお前!!!」


 「うるさいな。スイッチを入れているんだよ。このままじゃ、ガロトまでやられるかもしれないからね」


 「ああ……!? スイッチ……!? 何の!?」


 「黙ってろよ。今、見せてやるからさ」


 スイッチ。

 そうは言っているが、普通に押すタイプのそれではない。

 

 なぜなら、ジャーザンスはガロトの体内に手を突っ込んでいるから。

 翔英の側からそれを見ることはできないが、こいつがガロトの身体を内側から弄っているのは分かる。


 そんな翔英。

 

 ジャーザンスが言うように、ただ黙って見ている訳がない。

 こいつのふざけた行動を無視できる訳がない。


 剣を持ちながら走り出し、後ろのジャーザンスに斬りかかろうとする。


 しかし、その攻撃は届かない。


 再び動き出したガロトの蹴りが翔英の行く手を阻んだ。


 「……痛っってえっ……!!」


 いきなり動き出したもんで反応が追いつかず、モロに蹴りを入れられる翔英。

 吹っ飛んだ先でうずくまった。 


 そしてまた、ガロトが戦闘態勢に入る。


 「これで君は終わりだね。――――さあ……!! やっておしまい!!!!」


 ジャーザンスが取った行動。

 それは、ガロトの力を全快にまで引き出すものだった。


 ガロトの背中には、制御装置が埋め込められている。

 それを外し、ガロトの力を解き放ったのだ。


 ガロトはまだ試作段階だ。

 一気に力を与えれば、肉体の方に悪影響を及ぼすかもしれない。

 

 また、死体を戦闘用に改造する際には、抑制が重要となる。


 そのために、ジャーザンスはガロトの力を制御していた。


 しかし、その力は今、解放された。


 ――――もはや翔英に、勝ち目はない。


 さらに、蹴りをかますガロト。

 速度も威力も大幅に向上した蹴りは、着実に翔英の命を削っていく。


 そんな危機の中、翔英は思った。


 「やはり自分ごときがこの男に勝てるはずがなかった」と。


 そして、


 「一瞬でも勝てると思った自分を恥じた」


 「木偶人形にされた仲間を助けることすらできない自分を憎んだ」


 「待っている人の顔を見ることすらできない自分の弱さを呪った」

 

 でも――――


 『みんながここまで送ってくれたのに』


 『俺がやるしかないのに』


 『このままここで終わりだなんて』

 

 『そんなの――――嫌だ』


 激しい痛みを押し殺しながら身体を起こす翔英。


 そして、翔英の頭の中に『記憶』が舞い込んでくる。


 それは、『彼との』記憶。


 彼は戦闘における様々な助言をしてくれた。

 戦闘中だって、彼の言葉を思い出して状況を切り抜けたこともあった。


 彼の言葉に、翔英は常に助けられてきた。


 あの時も、こう言ってくれた。


 『ピンチの時こそ、攻めることを忘れてはいけない』と。


 そして――――


 『手を止めないこと。それが道を作る』と。


 翔英はそのまま、高く、真っすぐ、鋭利な戦意と共に剣を前方へ向けた。


 彼の言葉に後押しされるかのように。

 彼の記憶に突き動かされるように。


 「なんだよ、まだまだ元気そうじゃないか。もういいよ、トドメを刺して。ガロト」


 ジャーザンスの言葉を合図に、一気に翔英との距離を詰めるガロト。


 対する翔英は動こうとしない。

 

 完全にカウンター狙い。

 このままガロトを迎え撃とうとする。


 だが――――


 途中、翔英は完全に動きを止めた。

 剣を前方に構えた姿勢のまま。


 そのまま――――ガロトは翔英の剣に飛び込んできた。


 赤き剣に腹を貫かれるガロト。


 翔英は涙を流しながら剣を抜いた。


 すると、ガロトは頭から地に崩れ落ちた。

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