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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第六章
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第百五十一話 『いきる死人』

 ――――ジャーザンスは考える。

 

 このショウエイ・キスギという男。

 

 思っていたよりずっと強い。

 あの時より、強くなっている。

 

 まだ不完全とはいえ、ガロト・クラーニクのあれほどの攻撃を防ぐことができるとは。

 

 もし今の状態で真正面から迎え撃ったら、負けることはないにしても苦戦を強いられていたかもしれない。

 

 ガロト・クラーニクを取って置いてよかった。


 このまま時間が経てば、時期にこの肉体にも慣れるだろう。

 まあ、ガロトがトドメを刺してしまうだろうが。


 「――――行きますね……ガロトさん……!!!」


 ゆっくりと迫るガロトに対し、自ら距離を詰める翔英。

 先程まで攻撃を受ける一方だったが、今度はこちらから仕掛ける番だ。


 ――――もう、覚悟は決めた。


 翔英は剣を振った。

 相手の攻撃が来るよりも早く。

 渾身の力を込めて。


 しかし――――


 止められた。

 いや、弾かれた。


 ガロトが首に巻いているマフラーが飛んできたのだ。


 「……おっと……!!」


 「ハハハハハ!! 知らんわけではあるまい!!! ガロト・クラーニクのその力をな。私が作っておいたのだ!! それが無ければ、物足りないだろう?」


 絶対防御――――健在。

 

 ガロトのマフラーは、ガロト自身のオーラを具現化したものである。

 たとえ壊されたとしても、彼の意思で復活させることができる。


 しかし、ガロトはもう死んでいる。

 マフラーを作れるはずがない。


 だが、ジャーザンスの手が掛かり、『力だけ』は復活した。

 ジャーザンスは、ガロトの体内のオーラを還元させる装置を埋め込んでいる。

 

 意識すらないにも関わらず、ガロトには生きるためのオーラが宿っているのだ。


 当然、マフラーを使用することも可能になっている。


 「おいおい!! どうすんの!? そんな剣じゃあ、ガロトに攻撃を当てることすらできないよ!!!」


 「…………いや、見てろよ」


 再び突撃する翔英。

 また、先と全く同じように剣を振った。

 

 やはり伸びて来るマフラー。

 翔英の攻撃の軌道に、鉄のマフラーは立ちはだかる。


 ――――だが、斬れたのはガロトの身体だ。


 「……上手くいった………!!」


 「何? 何で?」


 翔英の剣は、斬るという強い意思とともに、狙いを定めた場所を斬ることができる。

 

 当然、攻撃が届かない場所を斬ることはできないが、剣の先が届いている範囲であれば、障害物を無視して斬撃を入れることができる。

 どこまで攻撃が届くのかは、これまでの練習で経験済みだ。


 「俺の剣は特別製なんだ!!」


 「……そういえば、ロジェとの戦いでも妙な展開になっていたねえ。あれは……その剣によるものだったのか」


 集中力は必要だが、これで防御を無視して攻撃を当てることができる。

 よく考えてみれば、ガロトとは武器の相性がよかったことを実感する翔英。

 

 このまま行けば、勝てるかもしれない。


 しかし、この男は、腐ってもガロト・クラーニクだ。

 そう簡単にいくとは思えない。


 ――――けど、


 「やるしかないんだ!!!」


 この先へ進むために。

 この人を解放するために。

 戦わなければならない。


 ガロト・クラーニクを倒さなくてはならない。


 全力で打ち合う翔英とガロト。

 

 ガロトが死んでいることや動きを知っていることも相まって、何とか食らいついていく翔英。

 心を押し殺し、かつての仲間に攻撃を加え続けていく。

 

 対するガロトも全く手を緩めなくなった。

 マフラーを武器にも使い、四本腕で襲い掛かってくる。

 

 それでも、剣を振り続けていく翔英だが、やがて力が抜けていき押され始めてしまう。

 

 その一番の要因となったのは、ガロトには『消耗』がないこと。

 

 ガロトは既に人間ではなくなっている。

 息が切れることもなければ、痛みに苦い顔をすることもない。

 

 アクセルを緩めることなく常に全快で挑んでくる。

 

 対する、生きた人間である翔英はどんどんと動きが鈍くなっていく。

 激しい集中の維持費用に加え、殴られば殴られるほどに力が入らなくなる。


 死人相手の人間は、長期戦に分が悪すぎる。


 そしてもう一つ、翔英に精神的なダメージを与える要因がある。


 それは、ガロトが表情を変えないことだ。

 

 斬っても全く顔に変化は生じない。

 血も出ない。

 

 これがどうしようもなくやりづらい。

 

 ダメージを与えている気が全くしない、ということもある。


 だが、それ以上に。


 人間としてではない。

 ただの戦闘マシンとして動いている。


 そんなこの男の姿が、翔英の精神を擦り減らしていた。

 

 これまで翔英は、剣を通じて相手の考えを少しだけだが読み取っていた。

 

 それは殺意であったり、興味であったり、怒りであったり。


 しかし、今のガロトからは何も感じることができない。

 体温を感じることができない。


 打つたびに、その事実に直面するのが辛かった。

 

 精神的にも肉体的にもジリジリと追い詰められていく。

 そんな翔英の勝ち目が遠のいていくのは、当然のことだった。


 「――――がはっ……!!」


 ついに、ガロトの攻撃をモロに食らってしまった翔英。


 入口付近まで転がされ、壁を背に向けて横たわる。

 

 「……勝負ありだな。――――さあ!!!! トドメを刺してしまえガロト!!! そいつ自体に興味はないもんね!!」


 ジャーザンスが興味を抱いたのは、翔英の持っている剣。

 彼の身体はどうでもいい。

 

 この男を倒せば、この戦いも終幕だ。


 主の命令を受け、かつての部下に拳を構えるガロト。

 

 そんなガロトを見上げながら、翔英は己の弱さを悔いた。


 ――――でも…… 


 やっぱり――――

 

 このまま――――


 「……諦めるのは……怖い……です……」


 翔英は重い身体を起こし、戦闘続行を示してみせた。


 すると、


 ――――ガロトの瞳がわずかに動いた。

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