表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第六章
151/157

第百五十話 『あの日の続き』

 「――――ガロト…………さん…………」


 現れたその男の名前を呼び、呆然と立ち尽くす翔英。

 

 言葉が出てこない。

 

 こんなところで、なぜこの人が。


 ずっと会いたかった。

 

 ――――でも、それは『ここ』じゃない。


 ――――ガロト・クラーニク――――


 しばらくの前の任務の日、彼は死んだ。

 翔英も口に出すことはしなかったが、事実として受け止めていた。

 彼の分も生きて戦うと、ミネカと共に誓った。


 しかし、

 

 今、こうして目の前に、ガロトは現れた。


 だが、ガロトの表情には生気がない。

 姿形はガロトそのものだが、表情は人形のように全く動かていない。


 再会したにもかかわらず、衝撃を受けているのは翔英の方だけのようだ。

 

 話そうともしない。

 ずっと、虚ろな目で虚構を見ている。


 「知り合いか? まあ当然だよね。同じ聖鳳軍なのだから」


 「…………どういうことなんだよ…………なんで、ガロトさんがお前と一緒に………」


 「うん、そうだねえ。一応教えてあげよっか」


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ――――あの日。

 

 仲間を逃がすため、ラスドラーゴを一人迎え撃ったガロト。

 何とか食らいつき引き分けにまで持ち込むガロトだったが、彼との戦いでその命を落とした。

 ラスドラーゴは後にファンドルに救出される結果となり、ガロトの亡骸はそのまま放置されていた。


 しかしその後、その場に一体の魔物が姿を見せる。


 そう、ジャーザンスだ。

 

 彼は、置き去りにされていたガロトを本拠地まで持ち帰った。

 

 聖鳳軍の一軍に名を連ね、ラスドラーゴをも追い詰めた人間の身体は、ジャーザンスにとってまたとないほど魅力的に映ったのだ。

 しかも、あの時よりもずっと強くなっている。 


 引き返してきた翔英たちがラスドラーゴだけでなく、ガロトをも見つけることができなかったのは、この事が原因だった。


 そこからジャーザンスはガロトの肉体を弄り、意識を持たない戦力として復活させた。 

 

 そして今――――ジャーザンスは初めてガロトを起動した。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 「………ふざけやがって………ミネカだけでなく………ガロトさんまで…………」


 「んんん? その口ぶりだと、君はこの男と親しかったようだねえ。それは好都合だよ。……よっこいしょ……」


 怒りを滲ませる翔英を観察しながら、ガロトの背中をさすりだすジャーザンス。

 

 すると、ガロトの身体がロボットのように動き始めた。

 

 依然、表情に全く変化なし。

 そのまま、両手を構えて戦闘態勢に入った。


 「うんうんうんうんうん。まあまあだね。――――じゃあ、あいつをやってもらいますよガロトくん」


 「……!!! くっ…………!!!」


 勢いよく翔英の方へ飛び出していくガロト。

 咄嗟に剣を構える翔英。


 望まざる戦いが幕を開けた。


 無感情で拳を繰り出していくガロトに、剣を振り回し何とか対応していく翔英。

 一瞬でも動きを緩めたら、瞬く前にやられてしまいそうだ。


 しかし、それ以上に翔英を動揺させていたのは、


 ――――同じだ。


 全く同じ。

 ガロトの繰り出す拳は、あの頃と何も変わっていない。


 自身の身体に宿っている記憶が、一発ごとに反応していく。


 そう――――


 初任務の前、ひたすら打ち込んでくれた思いが、翔英の脳裏に蘇っていく。


 あの時は、ひたすらボコボコにされていた。

 

 全く反応なんてできなかった。

 

 その度に、ミネカが身体を癒してくれた。


 一生忘れない、あの数日間。


 『おかしい』


 殴られているはずなのに、追い詰められているはずなのに。


 ――――涙が、出て来る。

 

 拳を一発受け止める度に、目元がぼやけていく。


 『何の涙なんだこれは?』


 痛みではない。


 悲しみ。切なさ。怒り。懐かしさ。


 ――――これまでの経験。

 

 そして、たくさんの感情が混ざり合い、込み上げてきた思いによるものか。


 でも、あの時とは大きな変わったところがある。


 『受け止められている』


 『追えている』

 

 全く余裕はないが、拳の軌道が何とか見えている。

 よく知っている動きだという事もあり、遥か格上の攻撃を捌くことができている。


 ――――変わっていたのは自分もだ。


 自身の成長。

 それをこんな形で実感することになるなんて。


 「――――うわっ…………!!!」


 一発もらってしまった。

 涙で視界がぼやけ、反応が遅れてしまった。


 『やばい』


 すぐに体制を立て直す翔英。

 だが、ガロトは追撃を掛けて来ないで棒立ちしていた。


 「……ガロトさん…………!!!」


 その隙に剣を構え、再びファイティングポーズを取る翔英。

 涙を拭き、目の前の攻撃に集中を敷いた。


 「………止まってんじゃねえよ。一発入れるのがゴールじゃなんですけど」


 後ろからガロトを叩くジャーザンス。


 起動したばかりだからか。

 理由は分からないが攻撃を辞めたことに苛立ちを募らせている。


 「おい……!! やめろ!!!」


 「うるさい。僕の部下に僕が何をしようと僕の自由だろう。首を突っ込んでくるんじゃねえ!!!!」


 「ガロトさんはお前の部下じゃねえよ!!!」


 「前の話だろそりゃ!! 今はそうなんだよ!!! 行けガロトさん!!! あいつの死に様を見せてくれ!!!」


 ガロトの肩を押すジャーザンス。

 それを合図に、翔英との距離をゆっくりと詰めてくるガロト。


 「……ガロトさん……必ず、解放します……俺が必ず…………」


 ここまでの経験で肉体だけでなく、精神面も成長していた翔英。


 これ以上、こんな奴にガロトの身体を弄ばせるわけにはいかない。

 この先ではミネカだって助けを待っている。


 ここで止まることは、絶対にできない。


 翔英は激しい怒りを心の中に抑え込み、迫り来る師を向かえ撃つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ