第百五十話 『あの日の続き』
「――――ガロト…………さん…………」
現れたその男の名前を呼び、呆然と立ち尽くす翔英。
言葉が出てこない。
こんなところで、なぜこの人が。
ずっと会いたかった。
――――でも、それは『ここ』じゃない。
――――ガロト・クラーニク――――
しばらくの前の任務の日、彼は死んだ。
翔英も口に出すことはしなかったが、事実として受け止めていた。
彼の分も生きて戦うと、ミネカと共に誓った。
しかし、
今、こうして目の前に、ガロトは現れた。
だが、ガロトの表情には生気がない。
姿形はガロトそのものだが、表情は人形のように全く動かていない。
再会したにもかかわらず、衝撃を受けているのは翔英の方だけのようだ。
話そうともしない。
ずっと、虚ろな目で虚構を見ている。
「知り合いか? まあ当然だよね。同じ聖鳳軍なのだから」
「…………どういうことなんだよ…………なんで、ガロトさんがお前と一緒に………」
「うん、そうだねえ。一応教えてあげよっか」
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――――あの日。
仲間を逃がすため、ラスドラーゴを一人迎え撃ったガロト。
何とか食らいつき引き分けにまで持ち込むガロトだったが、彼との戦いでその命を落とした。
ラスドラーゴは後にファンドルに救出される結果となり、ガロトの亡骸はそのまま放置されていた。
しかしその後、その場に一体の魔物が姿を見せる。
そう、ジャーザンスだ。
彼は、置き去りにされていたガロトを本拠地まで持ち帰った。
聖鳳軍の一軍に名を連ね、ラスドラーゴをも追い詰めた人間の身体は、ジャーザンスにとってまたとないほど魅力的に映ったのだ。
しかも、あの時よりもずっと強くなっている。
引き返してきた翔英たちがラスドラーゴだけでなく、ガロトをも見つけることができなかったのは、この事が原因だった。
そこからジャーザンスはガロトの肉体を弄り、意識を持たない戦力として復活させた。
そして今――――ジャーザンスは初めてガロトを起動した。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「………ふざけやがって………ミネカだけでなく………ガロトさんまで…………」
「んんん? その口ぶりだと、君はこの男と親しかったようだねえ。それは好都合だよ。……よっこいしょ……」
怒りを滲ませる翔英を観察しながら、ガロトの背中をさすりだすジャーザンス。
すると、ガロトの身体がロボットのように動き始めた。
依然、表情に全く変化なし。
そのまま、両手を構えて戦闘態勢に入った。
「うんうんうんうんうん。まあまあだね。――――じゃあ、あいつをやってもらいますよガロトくん」
「……!!! くっ…………!!!」
勢いよく翔英の方へ飛び出していくガロト。
咄嗟に剣を構える翔英。
望まざる戦いが幕を開けた。
無感情で拳を繰り出していくガロトに、剣を振り回し何とか対応していく翔英。
一瞬でも動きを緩めたら、瞬く前にやられてしまいそうだ。
しかし、それ以上に翔英を動揺させていたのは、
――――同じだ。
全く同じ。
ガロトの繰り出す拳は、あの頃と何も変わっていない。
自身の身体に宿っている記憶が、一発ごとに反応していく。
そう――――
初任務の前、ひたすら打ち込んでくれた思いが、翔英の脳裏に蘇っていく。
あの時は、ひたすらボコボコにされていた。
全く反応なんてできなかった。
その度に、ミネカが身体を癒してくれた。
一生忘れない、あの数日間。
『おかしい』
殴られているはずなのに、追い詰められているはずなのに。
――――涙が、出て来る。
拳を一発受け止める度に、目元がぼやけていく。
『何の涙なんだこれは?』
痛みではない。
悲しみ。切なさ。怒り。懐かしさ。
――――これまでの経験。
そして、たくさんの感情が混ざり合い、込み上げてきた思いによるものか。
でも、あの時とは大きな変わったところがある。
『受け止められている』
『追えている』
全く余裕はないが、拳の軌道が何とか見えている。
よく知っている動きだという事もあり、遥か格上の攻撃を捌くことができている。
――――変わっていたのは自分もだ。
自身の成長。
それをこんな形で実感することになるなんて。
「――――うわっ…………!!!」
一発もらってしまった。
涙で視界がぼやけ、反応が遅れてしまった。
『やばい』
すぐに体制を立て直す翔英。
だが、ガロトは追撃を掛けて来ないで棒立ちしていた。
「……ガロトさん…………!!!」
その隙に剣を構え、再びファイティングポーズを取る翔英。
涙を拭き、目の前の攻撃に集中を敷いた。
「………止まってんじゃねえよ。一発入れるのがゴールじゃなんですけど」
後ろからガロトを叩くジャーザンス。
起動したばかりだからか。
理由は分からないが攻撃を辞めたことに苛立ちを募らせている。
「おい……!! やめろ!!!」
「うるさい。僕の部下に僕が何をしようと僕の自由だろう。首を突っ込んでくるんじゃねえ!!!!」
「ガロトさんはお前の部下じゃねえよ!!!」
「前の話だろそりゃ!! 今はそうなんだよ!!! 行けガロトさん!!! あいつの死に様を見せてくれ!!!」
ガロトの肩を押すジャーザンス。
それを合図に、翔英との距離をゆっくりと詰めてくるガロト。
「……ガロトさん……必ず、解放します……俺が必ず…………」
ここまでの経験で肉体だけでなく、精神面も成長していた翔英。
これ以上、こんな奴にガロトの身体を弄ばせるわけにはいかない。
この先ではミネカだって助けを待っている。
ここで止まることは、絶対にできない。
翔英は激しい怒りを心の中に抑え込み、迫り来る師を向かえ撃つ。




