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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第六章
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第百四十七話 『断ち切る』

 動けないレランカ。

 そんな彼女に、ワンダフィンの手が伸びてくる。


 「――――あなたの可能性、存分に引き出させてもらいますよ」


 一発。

 ワンダフィンが振り下ろした右拳が、レランカの背中に突き刺さった。

 

 「……っ……!! 痛ってえな……」


 「さあさあ、何を見せてくれるのか楽しみですよ……!!」


 一発ずつ、間隔を空けながら拳や蹴りを叩き込んでくるワンダフィン。

 レランカならば、こうやって追い詰めていけば何か面白いことを見せてくれるのではと期待を寄せながら。


 そんなレランカは痛みに耐えながら、勝利のプランを考えていた。

 身体がダメになってしまうのも時間の問題。

 残念ながら、もう見せられるものもない。


 後一発、当てることができれば勝てるのに。


 ダメだ。重い。

 動かない。


 ――――だったら、もうこれしかない。

 

 無理やり、気力で身体を起こすしか。


 「……お……!! ……らあああ……!!!」


 数十倍にもなった身体を必死に持ち上げるレランカ。

 とりあえず、今は動かなければ。


 「……すごいすごい……この全開状態の私の力に真正面から抗おうとするとは。――――しかし……ダメですね……」


 「うわっ……!!!」


 また、地面に逆戻り。

 動くことは何とか可能だが。

 立ち上がろうとすると、戻ってしまう。


 ――――ワンダフィンの魔能。

 

 『素晴らしいと思ったものの重さを操る力』

 そのレベルは、ワンダフィンの関心に応じて三段階にまで分かれる。


 二段階目までは、実力者であれば何とか歩くことは可能な場合もある。

 しかし、三段階目で立ち上がった者は見たことがない。

 

 もしかしてレランカならば。

 ワンダフィンはそんな風にも思ったが、やはり彼女も例外ではなさそうだ。


 「……これ、歩けたら相当凄いのですがね。やはり無理ですか。……でもでも、あなたをもう殺してしまうのはもったいないと私が言っています。もう少し楽しませてもらいますね」


 ワンダフィンは勝利を確信している。

 この状況で、レランカが自身を倒す方法など皆無だと。


 「……では、次のコーナーへ参りましょうか」


 さらに攻撃を仕掛けるワンダフィン。

 しかし、


 「――――やああっ!!!」


 ワンダフィンが動く前に、彼に飛び蹴りを喰らわせた人間がいた。


 思わぬ不意打ちに意表を突かれ、顔にクリーンヒット。

 一回転しながら倒れるワンダフィン。


 「――――大丈夫!? レランカ!!!」


 ティローナ・カルダート。

 蹴りを喰らわせたのは、この女だ。


 「……ティローナ……お前…………」


 「十分休めたから私も!! ……ああっ……!!」


 戦意を消さないティローナだが、踏み出した一歩に顔を苦める。


 さっきの飛び蹴り。

 その反動ですらもう致命傷。

 今の一撃が限界だったようだ。


 「……まだ動けるのですか。……ですが、今はあなたに興味ないのですよ。今私が見たいのは、このレランカさんです。……あなたは消えなさい!!!」


 ワンダフィンの反撃。

 一撃目を回避するティローナだが、二発目の攻撃が直撃してしまう。


 「……ううっ……!!」


 「……また邪魔をされては堪りませんからね。ここで死んでもらいますよ」


 トドメを刺さんと、ティローナに本気の攻撃を加えるワンダフィン。

 レランカは依然、三段階目の重力に捻り潰されている。


 「――――やめて!!!」


 声の方を振り返るワンダフィンとレランカ。


 ヒナノ・スエリアだ。


 「お願い!! やめて!!! ティローナを……殺さないで!!!」


 立つのが精一杯のヒナノ。

 彼女ともあろうものが、こんなことしかできないなんて。

 

 でも、じっと座っているなんて、できるわけない。


 「やめて!! 先に私にして!!! お願い!!! やめて!!!!」


 「……うるさい方ですね。あなたを終わらせたら、次はあちらですかね」


 ヒナノの決死の叫びも届かず、ティローナの命は刻一刻と終わりに近づいていく。

 そんな様子を見ていたレランカは、体中から血を流しながら踏ん張っていた。


 「(……あああ……!? ざっけんじゃねえ……!!! アタシの目の前で、そいつらを殺すだと……!!? それをアタシにこのまま見ていろだと……!!? バカが……そんなもん……ぜってえ、させるかよクソが……!!!!)」


 ワンダフィンはティローナへの攻撃を中止した。

 視界の隅で、立ち上がった影が見えたから。


 振り返るワンダフィン。

 そこには、中指を立てながら身体を起こす女の姿があった。


 「……おい……!! まだアタシとの勝負は終わってねえだろが……!! 随分軽いぜてめえの力なんてよ…………来やがれや!!!」


 ――――初めてだ。

 

 この状態で、何の小細工もなく、ただの意地で立ち上がって見せた人間を見たのは。


 さらに――――その状態のまま、レランカは一歩を踏み出した。


 「……レランカさん……あなた……本当に素晴らしい!!!!」


 ティローナとヒナノをすっかり忘れ、レランカの元へ飛んでくるワンダフィン。

 喜びと衝撃で、ワンダフィンの顔は溶けているかのようだ。


 「……やはりあなたは面白い!!! 歩けるなんて……このまま歩けるなんて…………アハハハハハっっっ!!!! 面白い!!!!」


 血反吐を吐きながら、地面を割りながら数ミリずつ近づいてくるレランカ。

 その様子を、息子のあんよを見るかのように拍手で出迎えるワンダフィン。


 「……もう少し、試していいですか? あなたを」


 そう言うと、ワンダフィンは右手を前に差し出した。


 ――――すると、レランカは再び地面に倒れた。


 「はい。どうですか? 今度は、『右手のみ』に力を集中させてみました」


 ワンダフィンのこの能力。

 重さをピンポイントで発動することもできる。

 先程まで全体に圧し掛かっていた重力全てが、レランカの右手だけを襲っているのだ。


 「……この状態での歩行も見たことないのですよ。――――ですが、信じていますよ。あなたならば、必ず乗り越えられると。それが終わったら、今度は片足にしてみましょう。その後は頭、胸、尻、色々な場所でチャレンジしましょう。大丈夫……あなたなら必ず……………なっ!!!!」


 あちこちを見ながらの語り。

 それに伴って、反応、遅れる。


 目の前でレランカが剣を振っていた。

 一瞬でワンダフィンの懐に入って来た。


 なぜ……?


 答えは――――無いから。

 右手が。


 切り落としたのだ、自分で。


 左手で胸を切り裂くレランカ。


 すると、ワンダフィンの肉体は、綺麗に真っ二つになった。


 「――――ザマア見やがれ…………」


 着地した先で、見降ろしながらレランカは呟いた。

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