第百四十六話 『高潔なる無粋』
レランカに切り裂かれ倒れるワンダフィン。
着地したその先で、ドスベセスを見つめるレランカ。
「――――ちっ……ミスったか……」
能力の突破は成功。
しかし、狙い通りの攻撃とは行かなかった。
ワンダフィンは強い。
レランカはこの一撃で決める気だった。
彼女の愛剣『ドスベセス』には、斬った物を増やす他にもう一つ、戦闘用の力が存在する。
それが上手くいけば、一撃でワンダフィンを倒せたはず。
しかし、咄嗟の攻防で狙いがずれ、そうはならなかった。
レランカの予想通り、目の前でワンダフィンが立ち上がる。
「………あなた………何をするのです…………」
「悪ィ悪ィ、ありゃ嘘」
――――レランカはワンダフィンの能力をこう予想していた。
「『素晴らしい』という言葉をトリガーとして発動する力」だと。
さっきから奴がその言葉を言う度に、重さが激増していた。
だったら、「素晴らしくない行動」をすればいいのではないかと、レランカは予想した。
だから、レランカは『命乞い』をした。
奴の価値観に確信は持てないが、諦めずに戦う姿を賞賛していたことから、『カッコ悪いこと』をすればいいのではないかと。
結果――――それは当たりだった。
「…………そんな醜い嘘をついてまで生きようとしたのですか。……あなた、素晴らしくない」
「んー、勝ちゃあよくね?」
「……なるほど。どうやらあなたを買い被りすぎていたようですね」
再び激突するレランカとワンダフィン。
今度は重くなることもない。
通常状態でワンダフィンに食らいついていく。
明らかに押されているのはレランカだ。
レランカも十分人間離れした強さを持っている。
だが、素の戦闘能力は完全にワンダフィンに分がある。
徐々にレランカの表情がきつくなり始めた。
「――――おわっ!!!」
翔英が通った扉に叩きつけられるレランカ。
やはり、このままでは勝つことはできない。
レランカの勝ち筋、それはもう『ドスベセス』の一撃だけだ。
ぐったりと壁に寄りかかるレランカに手を掛けるワンダフィン。
それを転がるように避け、敵との間隔を取るレランカ。
「――――無駄な抵抗はよしなさい。そんなことをしても、意味はありませんよ」
「……はっ……!! バカがよ、アタシが諦めるわけ…………いや……確かにそうだな、意味ねえかも」
「………………………」
レランカの回答を受け、急に目を閉じて何かを考え出すワンダフィン。
対するレランカはちょっとホッとする。
また重くなるのは勘弁。
そうなったら、今度こそヤバい。
「(……こいつ……何考えてやがるんだ……? ――――だが今なら、あそこを狙えるかもしれねえ……!!)」
依然動こうとしないワンダフィンに剣を振りかざすレランカ。
狙いは、奴の胴体の中心。
しかし、
「うげっ……!! マジかよ……!!!」
――――重力が帰って来た。
三度、地にうずくまってしまった。
「(何でだよチクショウ!!)」
「(今アタシ、ギリギリダサいこと言ったよな?)」
「(……しかも、奴は何も言ってねえぞ。言葉がトリガーじゃねえのか……!?)」
「(――――とにかく……ヤべえ…………)」
うつ伏せに地面に食い込んでいくレランカ。
そこへゆっくりと近づいてくるワンダフィン。
ワンダフィンは少し声を整えると、彼女に向けて語り始める。
「――――ごめんなさいレランカさん。私、あなたのことを誤解していましたよ。……いや、少し私の認識が甘かったようです。私、分かってしまったんです。あなたがなぜ、あんなに素晴らしくないことを言ったのか。『私に勝つため』でしたのね。あえて素晴らしくないことをして、私の力を解こうとしたのですね。考えれば当然のことでした。もしあの時のあなたの言葉が本心であるならば、すぐにここから逃げ出すはずですもんね。怒りで冷静な考えができずにいましたよ。あなたが私に向かってきた時点で気づくべきでした。いやいやその姿勢、『素晴らしい』です。こんな破り方をされたのは、生まれて初めての経験ですよ」
早口語りの途中だが、ワンダフィンは目を擦り出す。
泣いているようだ。
「――――本当に申し訳ございませんでした。あなたの本心を見抜くことができず、心無い言葉を投げかけてしまって。……『素晴らしくないことをするのが逆に素晴らしい』。世の中には、こんな不思議なことがあったのですね。――――私、感動しましたよ。レランカさん、私は心からあなたに感謝致します。こんな素晴らしいことを教えてくれたのですから。――――先程の続きをしましょうか。あなたはまだまだ、私に素晴らしいものを見せてくれそうな気がしますから」
語り終わりのワンダフィンがレランカに迫る。
レランカはその間、突破方法を必死に模索していた。
よく聞こえなかったが、もうこいつにさっきの手は通じないことが分かった。
命乞いをしたところで、これが解除されることはないだろう。
――――どうすっか。
仲間を頼ることは今は無理だ。
かといって、このままくたばるわけにもいかない。
「……やっぱ、頑張るしかねえか」
レランカは抑えつけられる首を必死に上げ、迫る男の顔を見上げた。




