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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第六章
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第百四十六話 『高潔なる無粋』

 レランカに切り裂かれ倒れるワンダフィン。

 着地したその先で、ドスベセスを見つめるレランカ。


 「――――ちっ……ミスったか……」


 能力の突破は成功。

 しかし、狙い通りの攻撃とは行かなかった。

 

 ワンダフィンは強い。

 レランカはこの一撃で決める気だった。


 彼女の愛剣『ドスベセス』には、斬った物を増やす他にもう一つ、戦闘用の力が存在する。

 それが上手くいけば、一撃でワンダフィンを倒せたはず。


 しかし、咄嗟の攻防で狙いがずれ、そうはならなかった。


 レランカの予想通り、目の前でワンダフィンが立ち上がる。


 「………あなた………何をするのです…………」


 「悪ィ悪ィ、ありゃ嘘」


 ――――レランカはワンダフィンの能力をこう予想していた。

 

 「『素晴らしい』という言葉をトリガーとして発動する力」だと。

 

 さっきから奴がその言葉を言う度に、重さが激増していた。


 だったら、「素晴らしくない行動」をすればいいのではないかと、レランカは予想した。

 だから、レランカは『命乞い』をした。


 奴の価値観に確信は持てないが、諦めずに戦う姿を賞賛していたことから、『カッコ悪いこと』をすればいいのではないかと。


 結果――――それは当たりだった。


 「…………そんな醜い嘘をついてまで生きようとしたのですか。……あなた、素晴らしくない」


 「んー、勝ちゃあよくね?」


 「……なるほど。どうやらあなたを買い被りすぎていたようですね」


 再び激突するレランカとワンダフィン。

 

 今度は重くなることもない。

 通常状態でワンダフィンに食らいついていく。


 明らかに押されているのはレランカだ。

 レランカも十分人間離れした強さを持っている。

 だが、素の戦闘能力は完全にワンダフィンに分がある。


 徐々にレランカの表情がきつくなり始めた。


 「――――おわっ!!!」


 翔英が通った扉に叩きつけられるレランカ。

 やはり、このままでは勝つことはできない。


 レランカの勝ち筋、それはもう『ドスベセス』の一撃だけだ。


 ぐったりと壁に寄りかかるレランカに手を掛けるワンダフィン。

 それを転がるように避け、敵との間隔を取るレランカ。


 「――――無駄な抵抗はよしなさい。そんなことをしても、意味はありませんよ」


 「……はっ……!! バカがよ、アタシが諦めるわけ…………いや……確かにそうだな、意味ねえかも」


 「………………………」


 レランカの回答を受け、急に目を閉じて何かを考え出すワンダフィン。


 対するレランカはちょっとホッとする。


 また重くなるのは勘弁。

 そうなったら、今度こそヤバい。


 「(……こいつ……何考えてやがるんだ……? ――――だが今なら、あそこを狙えるかもしれねえ……!!)」


 依然動こうとしないワンダフィンに剣を振りかざすレランカ。

 狙いは、奴の胴体の中心。


 しかし、


 「うげっ……!! マジかよ……!!!」


 ――――重力が帰って来た。


 三度、地にうずくまってしまった。

 

 「(何でだよチクショウ!!)」

 

 「(今アタシ、ギリギリダサいこと言ったよな?)」 

 

 「(……しかも、奴は何も言ってねえぞ。言葉がトリガーじゃねえのか……!?)」


 「(――――とにかく……ヤべえ…………)」


 うつ伏せに地面に食い込んでいくレランカ。

 そこへゆっくりと近づいてくるワンダフィン。


 ワンダフィンは少し声を整えると、彼女に向けて語り始める。


 「――――ごめんなさいレランカさん。私、あなたのことを誤解していましたよ。……いや、少し私の認識が甘かったようです。私、分かってしまったんです。あなたがなぜ、あんなに素晴らしくないことを言ったのか。『私に勝つため』でしたのね。あえて素晴らしくないことをして、私の力を解こうとしたのですね。考えれば当然のことでした。もしあの時のあなたの言葉が本心であるならば、すぐにここから逃げ出すはずですもんね。怒りで冷静な考えができずにいましたよ。あなたが私に向かってきた時点で気づくべきでした。いやいやその姿勢、『素晴らしい』です。こんな破り方をされたのは、生まれて初めての経験ですよ」


 早口語りの途中だが、ワンダフィンは目を擦り出す。

 

 泣いているようだ。


 「――――本当に申し訳ございませんでした。あなたの本心を見抜くことができず、心無い言葉を投げかけてしまって。……『素晴らしくないことをするのが逆に素晴らしい』。世の中には、こんな不思議なことがあったのですね。――――私、感動しましたよ。レランカさん、私は心からあなたに感謝致します。こんな素晴らしいことを教えてくれたのですから。――――先程の続きをしましょうか。あなたはまだまだ、私に素晴らしいものを見せてくれそうな気がしますから」


 語り終わりのワンダフィンがレランカに迫る。


 レランカはその間、突破方法を必死に模索していた。


 よく聞こえなかったが、もうこいつにさっきの手は通じないことが分かった。

 命乞いをしたところで、これが解除されることはないだろう。


 ――――どうすっか。


 仲間を頼ることは今は無理だ。

 かといって、このままくたばるわけにもいかない。


 「……やっぱ、頑張るしかねえか」


 レランカは抑えつけられる首を必死に上げ、迫る男の顔を見上げた。

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