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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第六章
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第百四十話 『魔獣再来』

 向かい合うティローナと黒い怪物。

 

 ティローナはじっと、黒い怪物の動きを観察している。

 できれば戦いたくはない。


 だが、こいつの正体と目的が分からない以上、警戒は怠れない。


 「ギアアァアアァアアアア!!!!」


 叫んだ。

 そして、飛びかかって来た。


 意識無き破壊者の矛先は、常に戦闘可能な生物へと向いていく。


 「……!! やっぱり……こうなるかあ……!!」


 ティローナは上空へジャンプし突撃を回避する。

 

 だが、追撃が早い。

 人間には不可能な軌道を描き、ティローナを追ってきた。


 放たれる拳。

 空中では身動きが取れないティローナ。

 両手でガードをするが、ガードごと吹き飛ばされた。


 「……痛い……もう……!! 本当に何なのこの子……!!」


 吹き飛ばされた先ですぐに起き上がるティローナ。


 だが、腕が痺れている。

 今の一撃だけで、まともに戦えば負けることを予感した。


 「…………とりあえず、あなたが私に敵意まるだしってことは分かった。……しょうがない……嫌だけど相手になるよ。…………あれ……?」


 今更降参はできない。

 戦意を固めるティローナだったが、目に映った怪物の姿に驚きを零した。


 ――――苦しんでいる。

 頭を抱えながら、地にうずくまっている。


 どうしたのだろう。

 攻撃を貰ったのはティローナの方なのに。


 ティローナは立ち止まった。

 

 相手に隙が見えたとはいえ、自分から仕掛けるのは尚早だ。

 さっきだって、魔物がそれでやられていた。


 それよりもティローナには考えなければならないことがある。


 『この子が何なのか』ということについてだ。

 

 この子は魔物と対峙している間に、いきなり現れた。


 ……ソルは?

 

 戦いの連続でゆっくり考えることができなかったが、ソルの姿が見当たらない。

 さっきティローナは、この子がソルに何かしたのだと思ったけど、それは考えにくいのが分かった。

 この子が得意とするのは、物理攻撃。

 肉体を消すほどの技は、あのビームだけっぽいけど、あれを撃ったならさすがに気づくはず。


 じゃあソルはどこ……?


 まさか、


 この子が……


 「いや、何言ってるの私」

 

 ソルとこの怪物、どう考えても一致しない。

 

 するわけがない。


 ……でも、


 姿を無視すれば、その推理はあながち間違いではない。


 「(……あっ……そういえば、ヒナノが言ってたっけ……)」



 『ヒナノ!! どうしたのその傷!!!』


 『え、ああ、これは、怪物にやられたのよ、昨日の晩にね。ちょっと油断しちゃってさ』

 

 『怪物……そうなんだ……どんな怪物だったの……?』


 『……全身真っ黒で、これくらいの大きさで…………って、ごめんティローナ、この話辞めていいかしら? ……あんまり話したくないことだから……』


 『え、うん、分かった……』


 『黒い怪物』『話したくない』



 ティローナは思い出した。

 

 その時は、ヒナノがものすごい寂しそうな顔をしていたため、それ以上掘り下げることはなかったし、ティローナ自身もその話は頭から外していた。


 ――――でも、今思えば、この話をしていたのではないか。

 

 「――――あっ……やばっ……!!」


 よそ見していた間に、怪物が飛びかかってきていた。

 

 反応が遅れたティローナ。

 回避が間に合わずに、壁に打ち付けられてしまった。


 「……もうっ……!! 痛いってば!!」


 三度立ち上がるティローナに、黒い怪物が立ちはだかる。


 どうする……?


 もしかしたらもしかすると、この子の正体がソルかもしれない。


 このまま倒していいのだろうか。


 いや、ソルであろうとなかろうと、無力化した方がいい。

 襲い掛かってくるのだ。仕方ない。

 とりあえず、気絶させよう。


 ティローナは拳を握り締め、再び大きな一歩を踏み出した。


 ――――そして、


 「やあっ!!」と、鋭い蹴りを獣の体にブチ当てる。


 「(……効いてる……!! このままいけばもしかしたら……!!)」


 怯んだ隙に、さらに畳みかけるティローナ。


 だが、怪物は倒れない。


 度重なる連戦で、ティローナの攻撃に重みがなくなっている。

 このまま倒し切るのは厳しい。


 逆にこっちがやられてしまいそうだ。


 手加減する余裕などないティローナは、さらに迫る怪物に拳を振るう。


 だが、


 「――――ティローナ!!!」


 ――――声。

 

 よく聞き慣れた声が耳に入ったため、攻撃を中止。

 身体を回転させながら怪物との距離を取り、その声の主の方へ向かった。


 「……ヒナノ……!! よかった、目が覚めたんだ……!! 大丈夫……!?」


 ヒナノ・スエリア。

 眠っていた彼女が、目を覚ましていた。


 依然肉体は限界に近いため、立ち上がることすら難しい状態だが。


 「……ええ……私は大丈夫よ……それより……」


 「ねえヒナノ!! あの子、何か分かる……!? 突然現れたんだよ!!」


 「…………ねえ、ティローナ。……ソルは、上に向かってるはずよね。……こっちに戻って来たりしてないわよね……」


 「え……? いや……ソル、戻って来たの。今は……どこか行っちゃったんだけど……」


 ヒナノはうつむいた。

 数秒黙った。


 そして、言う。


 「……じゃあ、あの怪物が、ソルよ……」


 ソルがここにいたという事実がある以上、間違いない。

 ティローナの信じたくない予想は当たってしまっていた。


 破壊獣と化したソルは、ティローナとヒナノへとじっと目を向けている。

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