第百四十話 『魔獣再来』
向かい合うティローナと黒い怪物。
ティローナはじっと、黒い怪物の動きを観察している。
できれば戦いたくはない。
だが、こいつの正体と目的が分からない以上、警戒は怠れない。
「ギアアァアアァアアアア!!!!」
叫んだ。
そして、飛びかかって来た。
意識無き破壊者の矛先は、常に戦闘可能な生物へと向いていく。
「……!! やっぱり……こうなるかあ……!!」
ティローナは上空へジャンプし突撃を回避する。
だが、追撃が早い。
人間には不可能な軌道を描き、ティローナを追ってきた。
放たれる拳。
空中では身動きが取れないティローナ。
両手でガードをするが、ガードごと吹き飛ばされた。
「……痛い……もう……!! 本当に何なのこの子……!!」
吹き飛ばされた先ですぐに起き上がるティローナ。
だが、腕が痺れている。
今の一撃だけで、まともに戦えば負けることを予感した。
「…………とりあえず、あなたが私に敵意まるだしってことは分かった。……しょうがない……嫌だけど相手になるよ。…………あれ……?」
今更降参はできない。
戦意を固めるティローナだったが、目に映った怪物の姿に驚きを零した。
――――苦しんでいる。
頭を抱えながら、地にうずくまっている。
どうしたのだろう。
攻撃を貰ったのはティローナの方なのに。
ティローナは立ち止まった。
相手に隙が見えたとはいえ、自分から仕掛けるのは尚早だ。
さっきだって、魔物がそれでやられていた。
それよりもティローナには考えなければならないことがある。
『この子が何なのか』ということについてだ。
この子は魔物と対峙している間に、いきなり現れた。
……ソルは?
戦いの連続でゆっくり考えることができなかったが、ソルの姿が見当たらない。
さっきティローナは、この子がソルに何かしたのだと思ったけど、それは考えにくいのが分かった。
この子が得意とするのは、物理攻撃。
肉体を消すほどの技は、あのビームだけっぽいけど、あれを撃ったならさすがに気づくはず。
じゃあソルはどこ……?
まさか、
この子が……
「いや、何言ってるの私」
ソルとこの怪物、どう考えても一致しない。
するわけがない。
……でも、
姿を無視すれば、その推理はあながち間違いではない。
「(……あっ……そういえば、ヒナノが言ってたっけ……)」
『ヒナノ!! どうしたのその傷!!!』
『え、ああ、これは、怪物にやられたのよ、昨日の晩にね。ちょっと油断しちゃってさ』
『怪物……そうなんだ……どんな怪物だったの……?』
『……全身真っ黒で、これくらいの大きさで…………って、ごめんティローナ、この話辞めていいかしら? ……あんまり話したくないことだから……』
『え、うん、分かった……』
『黒い怪物』『話したくない』
ティローナは思い出した。
その時は、ヒナノがものすごい寂しそうな顔をしていたため、それ以上掘り下げることはなかったし、ティローナ自身もその話は頭から外していた。
――――でも、今思えば、この話をしていたのではないか。
「――――あっ……やばっ……!!」
よそ見していた間に、怪物が飛びかかってきていた。
反応が遅れたティローナ。
回避が間に合わずに、壁に打ち付けられてしまった。
「……もうっ……!! 痛いってば!!」
三度立ち上がるティローナに、黒い怪物が立ちはだかる。
どうする……?
もしかしたらもしかすると、この子の正体がソルかもしれない。
このまま倒していいのだろうか。
いや、ソルであろうとなかろうと、無力化した方がいい。
襲い掛かってくるのだ。仕方ない。
とりあえず、気絶させよう。
ティローナは拳を握り締め、再び大きな一歩を踏み出した。
――――そして、
「やあっ!!」と、鋭い蹴りを獣の体にブチ当てる。
「(……効いてる……!! このままいけばもしかしたら……!!)」
怯んだ隙に、さらに畳みかけるティローナ。
だが、怪物は倒れない。
度重なる連戦で、ティローナの攻撃に重みがなくなっている。
このまま倒し切るのは厳しい。
逆にこっちがやられてしまいそうだ。
手加減する余裕などないティローナは、さらに迫る怪物に拳を振るう。
だが、
「――――ティローナ!!!」
――――声。
よく聞き慣れた声が耳に入ったため、攻撃を中止。
身体を回転させながら怪物との距離を取り、その声の主の方へ向かった。
「……ヒナノ……!! よかった、目が覚めたんだ……!! 大丈夫……!?」
ヒナノ・スエリア。
眠っていた彼女が、目を覚ましていた。
依然肉体は限界に近いため、立ち上がることすら難しい状態だが。
「……ええ……私は大丈夫よ……それより……」
「ねえヒナノ!! あの子、何か分かる……!? 突然現れたんだよ!!」
「…………ねえ、ティローナ。……ソルは、上に向かってるはずよね。……こっちに戻って来たりしてないわよね……」
「え……? いや……ソル、戻って来たの。今は……どこか行っちゃったんだけど……」
ヒナノはうつむいた。
数秒黙った。
そして、言う。
「……じゃあ、あの怪物が、ソルよ……」
ソルがここにいたという事実がある以上、間違いない。
ティローナの信じたくない予想は当たってしまっていた。
破壊獣と化したソルは、ティローナとヒナノへとじっと目を向けている。




