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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第六章
139/157

第百三十八話 『黒い怪物』

 ――――走るソル。

 廊下を掛け、螺旋階段を駆け上っていく。


 この先は最上階。

 奴とミネカが居るであろう場所だ。


 出口は見つからない。

 おそらく、あるとすれば最上階から見えるはず。


 だから、どちらにせよこのまま進むしかない。


 ――――でも、このまま進んでいいのだろうか。

 後ろを振り返ってはいけないのだろうか。


 そんな思いが、頭に込み上げてくる。

 

 ――――ソルは迷っていた。


 ミネカもヒナノも、聖鳳軍の皆は大事。

 自分なんかよりも、よっぽど大事。


 上へ行けば、今回の首謀者との直接対決になるだろう。

 出口があれば助けを呼びに戻りたいところだが、そんな隙があるかわからない。

 自分が負けたら、ヒナノたちの覚悟が無駄になってしまう。

 

 もし、もしも勝てたとする。

 ミネカの身柄は助けられたとする。


 でも、その未来に、ヒナノはいないかもしれない。


 ――――ソルは立ち止まった。


 そして、逆戻り。


 何が正解なのか、確信を持つことはできない。

 

 しかし、これだけは言える。

 

 『ヒナノは、自分の価値の大きさを履き違えている』

 

 それはソルにとってももちろんそうだし、軍にとっても、人間にとってもそうだ。


 あの人はこれから先の世界のために、絶対に必要な人間だ。


 「(……ごめんなさい姉さま……皆さん……でも…………)」


 何より、ヒナノがいない世界で、果たして笑うことができるのだろうか。

 

 ――――いや、笑えない。

 

 一生、今日という日を呪い続けることになる。


 ――――ソルは再び扉を開いた。


 「……!!!」


 ソルは、扉の奥から見えてきた光景に絶句した。


 最初に目に入ったのは、扉の前でこと切れたように倒れる姉。

 すぐ側には、二人の男が血を流しながら地に伏している。


 「……!! ソル……!! なんで…………」


 唯一この場において立っていたティローナが声を出した。

 ティローナの前には、七体の魔物がいる。


 ソルが飛び出した間に、ヒナノたち三人がやられ、残りを全てティローナが相手取っていたようだ。


 そのティローナも満身創痍。

 ソルがもう一分戻るのが遅かったら、立っていた人間はいなかっただろう。


 ソルは目の前で倒れる姉に顔を近づけた。

 ボロボロだが、美しい顔で眠っている。


 それに、まだわずかに息がある。

 リュノンとフェルフラムもだ。


 おそらく、ティローナが殺させまいと一人奮闘していたのだろう。


 ソルは怒りを滲ませた。


 姉の姿。

 そして、その場にいなかった自分に。


 「……だああああ!!!」


 特攻。


 普段は気弱な彼女からは信じられないくらいの気迫。


 「……ふん、戻って来たのか、馬鹿め。まあ、死ぬのが少し早くなっただけだがな」


 一体の魔物がソルを迎え撃つ。


 「待って……!! ソル、逃げて……!!」


 ティローナが叫ぶ。

 だが、彼女の言葉は両者の耳に入らない。


 ――――そのまま、ソルは蹴り飛ばされた。


 魔法が使えない今のソルが、渡り合えるはずもない。

 血を吐きながらヒナノの元まで吹き飛ばされる。


 「ソル!!!!」


 今度は、ティローナの叫ぶ声がソルの耳に入る。


 だが、今の一撃でソルの肉体は限界を迎えていた。

 身体が動かない。

  

 でも、まだ首は動いた。


 ソルはヒナノの方に首を動かした。

 意識を失った傷だらけの姉の姿がぼんやりと見える。


 反対方向では、ティローナが苦しんでいる。


 ――――ソルは、涙した。


 自身の無力さに。


 ――――そして、ソルは叫んだ。

 

 悔しさへの咆哮を。 

 

 ――――すると、


 「……え………………?」


 ティローナが激しい動揺を見せた。


 ソルが倒れていたはずの場所に、いつの間にか『黒い化物』がいたのだ。


 だが、ソルの姿が見当たらない。


 「(――――まさか……)」


 ティローナは思った。

 まだこいつらに味方がいて、ソルを消し去ってしまったのではないかと。


 ――――しかし、


 ティローナを囲む魔物たちも、目を見開いて黒い化物を見ていた。


 「(知らないの……? じゃあ、何なの、これ……)」


 黒い怪物はこちらに目をやると、野獣のような雄叫びを挙げた。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 ――――七年前。


 「――――姉さま………ごめんなさい……」

 

 「……これ………ソルがやったの………?」

 

 ヒナノとソル。


 二人の前には、原型を留めないほどバキバキになった哀れの姿の自宅。


 その時はまだ、原因は分からなかった。

 ただ、ソルが一人で寝ていた時。

 起きたら、家は全壊していた。


 何者かに襲われた。

 ヒナノは無理やりそう結論付けたが、


 翌日、原因はすぐに分かった。

 レランカ・レルンの手によって。


 「……これは……!!」


 暴れていた。

 小さな化物が。

 家を壊しまくっている。  

 

 やがてその化物は、ソルの姿となった。


 ヒナノはこの事実を理解した。

 化物になったソルが、家をぶっ壊したことを。


 「――――そんな……私が……?」


 「ええ。そうよ。あなたは、怪物になる力を持っている。おそらく原因は…………いえ、それはどうでもいいわ。――――とにかく、ソルにやって欲しいことは、この力を制御できるようにすることよ」


 ヒナノは動揺を抑えつけながら、ソルにそう伝えた。

 クーレやレランカは「黙っていた方がいい」と言っていたが、「このままにしておくわけにはいかない」と、ヒナノは結論付けた。


 「……そんなの……できるわけないよ……姉さま……」


 「ええ。だから、私がいるのよ」


 そこからの一年。

 ソルの怪物化は、何度も発生した。

 寝ている時、突然起こるのだ。


 その度、ヒナノがソルを抑えてつけた。

 まだソルが幼女だったこともあり、ヒナノの力なら簡単に抑えられた。


 だが、もしソルがこのまま大人になってしまったら。


 考えるだけで恐ろしい。

 

 ――――そして、さらに一年がたった頃。


 以前から相談を受けていたマーノが、魔物の力を抑える効力を持った薬を完成させた。

 その薬の力は本物で、ソルが怪物になる頻度はみるみる減っていった。


 しかも、怪物状態でもソルの意識が少しずつ生まれてきた。

 会話をすることはできないが、自分の意思で身体を動かせるようになったのだ。


 それを見たヒナノはその姿を戦いに活かそうと、完全にコントロールできるように提案した。

 

 だが、ソルは受け入れない。

 

 姉のように戦いたい。

 それに、あんな姿の自分は受け入れられない。


 そう言い続けた。


 やがて、ソルが怪物になることは、完全になくなった。


 ――――だが、


 「グワアアアアァァァア!!!!!!」


 今、化物の叫びが、再び戻って来た。

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