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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第六章
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第百三十七話 『ヒナノ・スエリア』

 体内の魔力も尽き、魔法が完全に使えなくなったこの状況。

 ヒナノ・スエリアは、戦意を立ち上げた。


 ――――拳で、戦うために。


 「はああああああ!!!」


 握りしめた拳を敵に放つヒナノ。

 

 殴られることと同様に、殴ることなんて記憶にない。

 だが、今はこれしかない。

 これ一本で、戦うしかない。


 ――――だが、


 放った拳は軽々と回避され、お返しの飛び蹴りを喰らってしまった。


 悲鳴を上げながら、吹き飛ばされるヒナノ。

 それを見ていた仲間たちは目を逸らす。

 

 「………………この程度………軽いわ………」


 息を切らせながら、激しい痛みに抗いながら、ヒナノは立ち上がった。

 だが、すぐに敵の攻撃がやってくる。


 できるだけ急所を避けながらのブロック。

 しかし、それが通じる相手ではない。

 また、倒れた。


 「…………全然ね………」


 だが、再び立ち上がる。

 

 ――――朦朧とし始めた意識の中で、ヒナノ・スエリアが思い浮かべていたこと。   


 それはもちろん、今、この場で自分を見ているティローナやソルたちに対する想いがある。


 彼女たちがいるこの状況で、地に倒れ続ける自分を見せるわけにはいかない。

 そんな思いが、ヒナノの戦意を灯し続けている大きな要因となっていることは間違いない。


 今だって、向こうにいるティローナのように拳を振るっている。

 同時に、ずっとこんな風に戦い続けているティローナの凄さを実感している。


 だが、それと同じくらい、ヒナノに影響を与えている思いが彼女の心の中にはあった。

 

 それは、ある二人への想い。


 ――――翔英とミネカ。

 この二人のためにも、ここで倒れるわけにはいかない。 


 翔英は言った。

 この瞳をはっきりと見ながら、心が動かされるような力強い口調で。


 『このまま現実受け入れることなんてできない』と。

 『自分が、ミネカの目を絶対に覚まさせる』と。


 彼は今だって、戦っているのだろう。

 先の見えない未来を見ながら、受け入れない現実と。


 自分だって少し、あの時の翔英の言葉に勇気づけられた。

 『もしかしたら』と、そう思えた。

 

 そんな翔英の意思をこんな形で無駄にするなんて、あっていいはずがない。

 方法を模索している彼のためにも、この命に代えても、必ずミネカを帰らせる。


 ヒナノ・スエリアとして。


 ――――そして、ミネカ・ベルギア。


 ミネカとは随分と長い付き合いだった。

 あの子がまだ小さな頃から、一緒に過ごして来た。

 ヒナノにとっては、もう一人の妹のようだった。


 ――――ミネカが何をしたというんだ。


 あの子は幸せになるべき人間だ。

 これまで経験した不幸の分まで。


 初めて会った時だってそうだった。


 ――――あの子は、一人で泣いていた。


 やっと笑えるようになったのだ。

 あの子の意識も身体も奪われていいはずがない。  

 これ以上、彼女に不幸が起きていいはずがない。


 『私の手で、必ずミネカを取り戻す』

 『翔英くんが、ミネカの意識を取り戻す方法を見つけて、帰ってくるときのために』


 「――――らああああああ!!!!」


 必死の雄叫びを挙げながら、三度立ち上がり特攻するヒナノ。

 彼女には決して似合わない戦闘スタイルだ。

 だが、これまでのヒナノ史上最大の気迫、負けたくないという意思がこもっている。


 迫りくる敵の攻撃。

 それを、ヒナノは受け止めた。

 両手で、しっかりと。


 それを見ていた扉の前のもう一体の方が、ヒナノの方に向かってくる。

 数秒で決着がつくだろうと思っていたが、想像以上にヒナノが粘ってきたので、二体で一気に戦いを終わらせるために。


 両手が塞がっているヒナノの脇腹目掛けて拳を振るうもう一体。


 だがそこに――――


 男が立ちふさがった。


 フェルフラム・ボンバ。


 度重なる負傷で満足に歩くことすらできなかった彼が、ようやく扉付近まで辿り着いた。

 フェルフラムは拳を身体で受け止め、相手の身体を抱きしめながら前向きに倒れた。


 ――――空いた。


 「今よ!! ソル!!! 行ってえ!!!!」


 ティローナ、リュノン、フェルフラム、そしてヒナノが切り開いた道。

 ゴールまでのルートがソルに見えた。


 「はい……!!!」


 考えている暇はない。

 迷っている暇はない。 


 大きな返事と共に、準備万端のソルは飛び出した。


 突風のように掛けるソル。

 傷だらけの仲間たちの横を通りすぎ、扉に手を掛ける。


 「――――行かせん!!!」


 ヒナノのマークを躱した一体が、自身の責務を果たさんとソルの元に迫る。

 ソルは急いで扉を開け、ついに奥へと進んでいった。


 魔物も彼女を追いようとする。

 

 だが、


 「……行かせないって……こっちのセリフよ……」


 ヒナノが扉を背に向けながら、ソルと魔物の間に立った。

 先程とは立場が逆転している。


 今度は、聖鳳軍の方が扉の前に立ちはだかった。


 「…………ソル、気を付けて…………」


 ヒナノが再び、素手でファイティングポーズを取った。


 後はここから、どこまで頑張れるか。


 撤退するにせよ、このまま進むにせよ、ミネカはソルに任せる。 


 このまま私の命が尽きても、ミネカを助けることができたなら、私は私のまま逝くことができる。

 私の負けにはならない。


 「…………絶対ここから………動かないから………」


 絶対、ヒナノの戦う意思は、消えない。

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