表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第六章
137/158

第百三十六話 『私は誰か』

 「ありがとうリュノン……」


 合図を送ったわけでも、打ち合わせをしていたわけでもないのに、咄嗟にアシストをしてくれたリュノンに感謝を述べるヒナノ。

 リュノンはわずかな笑みを浮かべ、後ろを振り返りながら、


 「どうってことないっすよ。俺だってこれくらいやらないと。それよりヒナノさん……!! さっきの話、一個訂正させてもらうぜ……!!」


 と、言葉を返す。

 

 「――――上に行くのは、俺たちじゃない。ソル『だけ』です。俺も、ソルが上に行けるようにここであいつらを喰いとめます……!! あなたたちと一緒に……!!!」


 リュノンの言葉に驚くスエリア姉妹。

 だが、姉妹が口を開くより先に、フェルフラムが一歩前へ出た。


 「ああ、リュノンの言う通りだ。俺はこの通り走るのも難しい。今の俺にできることは奴らを止めること……!!」


 フェルフラムもリュノンと同じ意思だ。

 誰か一人を扉の奥へと進めることが、最低限の仕事。


 そもそもの話。

 三体減ったとはいえ、まだ七体も残っている。

 

 ティローナの前に三体。

 残り四体を今のヒナノ一人で抑えるなんて無理だろう。


 だから、男二人は残ることにした。

 彼らが加われば、ソルが向こうへ行く隙を作るくらいはできるだろう。


 二人の言葉を受け、ヒナノは無言で頷いた。

 彼らの言っていることが正しいと思ったから。

 

 だけど、ソルは……


 ――――うつむいたままでいた。


 そりゃあそうだ。

 

 最愛の姉を含む仲間たちを置いて一人で進めなんて、あまりにも残酷な要求だ。

 しかも、先がどうなっているか分からない。

 

 ――――不安だ。


 自分一人で何ができるのだろうか。


 「……ソル。お願いね。あなたは、進んで」


 「……姉さま……」


 戦場で顔を合わせるソルとヒナノ。

 ソルの表情は曇り切っている。

 ヒナノは極めて穏やかな口調で話し始めた。


 「分かってるわ、ソルの不安。でも、全員この場でやられてしまうのは、一番起きたらダメ。どこかは分からないけど、必ず出口もあるはず。……状況次第で……判断はあなたに任せるわ」


 「…………でも、私……」


 「安心して。ソルの役割は『先行』。別に私だって、ここで終わるつもり、ないから。……だからお願い、ソル」


 「…………分かりました。私、行きます……」


 姉の説得を受け、一人進むことを決意したソル。

 

 今は、ヒナノの言葉を信じるしかない。

 

 たとえそれが、虚勢だとしても。


 「ありがとう、ソル。――――それじゃあ、私たちはあいつらをあそこからどかすわよ。ソルは少し離れて待ってて。隙が出来たらそのまま進んで」


 頷くソルたち。

 目標は、扉を阻む四体の魔物。


 全快には程遠い三人が敵の距離を縮めていく。


 ――――対する魔物側も動いた。


 二手に分かれ、二体がこちらに向かってくる。

 もう二体は引き続き扉の警護だ。


 前に出たのは、負傷自体はしていないリュノン。

 二体の魔物の前に立ちはだかった。 


 もしここがここでなかったなら、リュノン絶好の活躍の場となっていただろう。

 だが今、リュノンは一人しかいない。

 

 短剣を振り回しながら、根性で敵を抑えていくリュノン。


 一階で彼を温存させておいたことが功を奏したのか、何とか二体の足止めに成功する。


 そのままリュノンの隣をすり抜けるヒナノ。

 

 横にやった視界には、敵に囲まれる親友の姿が映る。

 彼女もなんとか、三体と互角の戦いを繰り広げているようだ。


 ならば、後二人。

 こいつらをここからどかせば。


 「――――はあっ……!!」


 手持ちのステッキを叩きつけるヒナノ。


 しかし、魔法は出せない。

 やはり先程の一発が最後だったようだ。


 魔法を纏わないヒナノの一撃は軽く受け止められてしまった。

 

 そして、


 「……ああっ……!!!」


 拳をもらった。

 ヒナノの苦痛の声が響いた。


 彼女が身体を殴られるなんて、いつぶりだろうか。

 もう、覚えていない。

 それくらい昔のことだ。


 吹き飛ばされて体勢を崩した先で、更なる攻撃を貰うヒナノ。


 「痛い」

 「痛い」

 「痛い」

 「痛い」


 「殴られるってこんなに痛かったっけ……」 


 痛みに呆然とするヒナノの瞳に、親友と妹の姿が映った。


 二人とも迫真の顔を浮かべながら叫んでいる。


 『――――言葉は良く聞こえないけど、何を言っているかは分かる』


 『ティローナは「ヒナノって、ソルは「姉さま」って叫んでるんだ』


 『――――そんな顔で見ないでよ』


 『あなたたちのそんな顔、私、見たくないもの』


 『――――いや、違うわ』


 『「今の私」が二人をあんな顔にしてるんだわ……』


 『……そうよね。あなたたちに、『憧れ』って言ってもらってる私が、こんな姿を見せたら、そんな顔にもなるか……』


 『…………悔しい……悔しいよ………私……』


 

 『――――あれ、違う。ティローナが……ソルがいってることって……』


 二人の声が直接耳に届いた。

 

 確かに二人はヒナノを呼んでいたが、それ『だけ』ではなかった。

 

 『言葉』が添えられている。


 『力をくれる言葉』が。


 「――――負けないでよ!!! ヒナノ!!!」


 「――――姉さま!!! 立ち上がってください!!」


 傷ついた身体でも勇気が湧いてくる。

 この声を聞いていれば、どこまでだって行けそうだ。


 「――――そうだ。私は……『ヒナノ・スエリア』。あの二人の前で、こんな奴を相手に地に伏すなんて……そんなの……許されるわけないでしょ!!!」

 

 ――――ヒナノは立ち上がった。

 

 渾身の『頭突き』を食らわせながら。


 「――――かかってきなさい!! あなたの相手なんて……これだけで十分だわ!!!」


 右手を高く構えながら、ヒナノは言う。

 信じてくれるものたちのため、ヒナノは戦う。


 自身が、ヒナノ・スエリアであるために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ