第百三十五話 『いつだってともに』
――――目が合う。
突如行く手に現れた、異形の者たちと。
聖鳳軍一行は動揺しながらも、瞬時に状況を理解した。
受け入れがたい状況を。
「……もう……!! 下でさっき「これで終わり」って言ったよ!! 何なの!!!」
下でさっき聞いたようなセリフ。
ティローナが上を見ながらそう言った。
「……本当に申し訳ないと思っているよ。嘘をついてしまったこと」
ジャーザンスの声が下に響く。
ティローナたちは、険しい表情で話を聞いている。
正直、話を聞く意味はあまりないが。
「……でもさ……しょうがないじゃないか。――――だってさ。さっきの状況で「まだ十体もいる」なんて聞いてたら、みんなのやる気がなくなっちゃうでしょ!!!? 私の親切心さ。まさか、ここまで上がって来れるとは思わなかったけどね。――――それにさあ!! 敵の言う事なんていちいち信じる方がバカじゃない!? しかも初対面だよ僕たち!! ……ああでも、それは悪いことではないよ。信じるって、気持ちがいいもんね」
とにかく、最悪の状況には変わりない。
「残すは後一人」だと思っていたところに、援軍増加。
突破する方法なんてあるのだろうか。
――――でも……
「立ち止まるわけにはいかない」
ティローナが先陣を切って、覚悟と共に一歩前に進めた。
反論する時間がもったいない。
それに、こいつと話していても、ただ不愉快なだけだ。
「――――ほう……この状況でまた折れないとは。さすがは、聖鳳軍のエリート様だな。……でも……こいつらは……さっきの雑兵とは一味違うのよ……」
これまでジャーザンスが作って来た改造魔物は、全五十一体。
一応、兵の増援は本当にこれでラストではある。
だが、彼らはジャーザンス研究の成功体である。
故に、ジャーザンスは彼らを動かしたくはなかった。
彼にとっては大事なコマだからだ。
これからの戦いのためにも、戦力は取っておきたい。
まあ、ここでこの五人を倒せば済む話だが。
「――――ティローナ待って……!!」
一歩進んだティローナを止めるのは、やはりヒナノ。
リュノンもソルもフェルフラムも、絶望で声を出すことができない。
ティローナは後ろを振り返り、碧眼の瞳に目をやった。
「……ティローナ……私たち二人で、あいつらを抑えるわよ。……その隙に、ソルたちは扉の向こうへ行って。もし出口があれば、逃げて」
「……いや、その役目は私一人でやるよ。ヒナノも、ソルたちと一緒に……」
ティローナは分かっている。
ヒナノはもう、十二分には戦えない。
そんな彼女に、残って欲しくはない。
ヒナノの負ける姿なんて見たくない。
『ここで散るのは、私一人にして』
「……何言ってんのよ。……あなたを一人置いて行ったら、明日からの私は、今の私を一生許せなくなるわ。……それに、さっきも言ったでしょ。――――絶対、勝てるって」
「……ヒナノ……」
ヒナノは覚悟を決めていた。
彼女が今、一番守らなくてはならないもの。
それは、ソルたちの命。
この状況でそれすらできなかったら、永遠の敗北者となってしまう。
それだけは――――ヒナノ・スエリアにあってはならない。
ティローナは?
いや、ティローナは隣に必要だ。
彼女の存在が戦う力をくれる。
彼女の前で、情けない姿は見せられない。
死ぬときだって、一緒だ。
だから、ヒナノは戦う。
ティローナと二人で。
「分かった。二人で戦おう」
「ええ。よろしくね」
ヒナノとティローナが同時に前を向いた。
その先には、扉をガッチリと守っている十人の戦士たち。
はっきり言って、扉をくぐる隙なんて微塵もない。
この状況で、彼らの守りを破るのはほぼ不可能だ。
「ソルたちを進める」という目標はかなり難しい。
……でも、
ティローナが突っ走った。
できるだけ敵を引き付ける。
自分が一人でも多く。
ティローナの元へ来たのは、三体。
拳を振るティローナだが、軽々と避けられてしまった。
連戦に次ぐ連戦。
当然だろう。
そのまま囲まれてしまい、防戦一方だ。
魔物たちが動く。
扉に四体を残し、三体がヒナノたちの方へ。
――――ダメだ。
今、ソルたちを扉側に送っても、まだ四体も。
――――じゃあ、どうする。
今、みんなを護るためには。
何を、どうすればいい。
答えは、単純。
減らすしかない。
倒すしかない。
「――――はああああ!!!!」
今日一番の大声と共に、杖をフルスイングするヒナノ。
すると、
渾身の炎雷魔法が、迫りくる魔物の体に炸裂した。
残りカスを決死の覚悟と共に練り上げた、最後のあがき。
正真正銘、最後の魔法だ。
周囲がヒナノの魔法に驚きを見せるこの場において、動きを止めることのなかった者が一人。
リュノン・アーリーだ。
リュノンは「おりゃあああ!!」という掛け声とともに突進し、炎雷魔法で怯んでいる魔物三匹の首を短剣で即座に刎ねた。
無防備になった敵の隙を見逃さず、正確に仕留めるリュノンの芸当、ここに炸裂。
首を刎ねられた三体の魔物は当然その命を絶やし、この世界から消滅した。
恐るべき聖鳳軍の底力。
この劣勢の中、何とか数を減らすことに成功。
だが、後、七体。




